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9 ゼウスの選択 1

R15

 狭い牢屋の中に男女の荒い息遣いが響いていた。


 ゼウスは最初こそ鋭い視線でナディアを見ていたが、今は彼女を視界に入れないようにしているのか、背を向けて廊下を見つめながら、迫り上がってくる衝動をなんとか抑えようとしているらしかった。


 ナディアも寝台の上に横たわったまま、媚薬のせいで増大していくばかりのふしだらな心と格闘していた。気を抜けばゼウスに襲いかかってしまいそうになる。


 でもそんなのは駄目だ。ゼウスは嫌だとはっきり言っているのに、無理強いさせてしまったら彼を傷付けてしまう。そんなのは望んでいない。


(本当は誰よりも大切にしたかったのに……)


 しかし媚薬の効果が天井知らずのように酷さを増していく。


 ゼウスがこちらを振り返り、熱が籠もったような暗い視線でこちらを見ていた。


(やだ見ないで)


 ゼウスに見つめられるとそれだけで全身を衝動が駆け巡っていく。


(もう駄目)


 寝台に寝そべったままだったナディアはゼウスに背を向けるように体勢を横向きにすると、ゴソゴソし始めた。


 詳細が見えなくてもゼウスには何をしてるかわかってしまうだろうが、今は羞恥心よりも身体を何とか鎮めたかった。


 ナディアは下着を脱いで放り投げたが、それは奇しくも座り込むゼウスの目の前にぽとりと落ちた。


 ナディアは最初こそ壁の方を向いていたが、途中からゼウスのことを気にしなくなってしまった。


 すぐそこにゼウスの気配を感じつつ、頭の中でもゼウスのことばかり思い描きながら、ナディアは――――


 息を吐いていると、自分以外の呼吸音も狭い牢屋内に響いていることに気付く。


 ナディアは考えなしにゼウスの方を向いた。


「ゼウス……」


 ゼウスは肌を上気させていて眉をきつく寄せて苦しそうだった。こちらを射抜くような強い視線にさらされて、ナディアの中に再び熱が渦巻き始める。


 ナディアの思考は溶けていた。理性がぶっ飛ぶと言っていたが、確かに正気ではなくなっていた。


「ゼウス…… 抱いて」


 そう言葉にすると、ゼウスの蒼碧の瞳が怒りでカッと見開かれる。


「誰が、抱くもんかっ!」


 二人きりになってから一言も言葉を発しなかったゼウスが初めてナディアに告げたのは、否定の言葉だった。


 ゼウスに声を荒げられたのは初めてで、ナディアはじわっと涙がこみ上げてきて顔を両手で覆うが、当のゼウスは立ち上がるとフラフラと吸い寄せられるかのようにナディアに近付いていく。


「だって…… 好きなんだもの。ずっとずっと好きだったんだもの……」


「じゃあ何ですぐに俺の所へ来なかったんだ! 居場所がわからないって聞いて、どこへ行ったのか気が気じゃなかった! 本当は俺に会おうとすれば会いに来れたんじゃないのか!」


「ご、ごめんなさい」


 気が付けば思いの外すぐそばにゼウスがいて、ナディアはゼウスの怒りの剣幕に押されて謝った。


 確かに会いに行こうとすればできた。駅で偶然見かけて以降は殺意を持たれていると怖くて会いに行くなんて考えもしなかったが、それまでは違う。ナディアはゼウスとの愛をすっかり諦めてしまって、自分から別れることを決意したのだ。


「俺はずっと探していたんだぞ! 今まで一体どこにいたんだ!」


「お、お兄ちゃんの所に――――」


「お兄ちゃんって何だ! また新しい男か! そいつに飼われてたのか!」


「ち、違…… きゃあっ!」


 ナディアはゼウスに――――


「まだ…… 処女……」


 ゼウスは一瞬どこかほっとしたような表情を見せると、唇を押し付けてきた――――


 息を吐きながらゼウスを見れば、彼は射殺すような視線でこちらを見ていた。


 その激しさに息を呑む。ゼウスが自分を憎んでいる部分は確かにあって、やっぱり殺したいのかもしれないと思った。


(でもそれでもいい。好き)


 思考の鈍った頭ではゼウスと共にあることしか考えられなかった。もっと早く自分からゼウスに会いに行くべきだったと後悔した。それで殺されたとしても構わない。煮るなり焼くなりゼウスの気の済むように身を委ねればよかったのだ。


 仄暗い瞳のままのゼウスの手が首のあたりに伸びてくる。そのまま首を締められるのかと思ったが、ゼウスは両手でナディアのシャツの襟元を掴むと――――


(乱暴なゼウスも素敵……)


 ナディアはゼウスにされる何もかもを受け入れていた。


「……前より大きくなってる…………」


 ゼウスはナディアを抱きしめると深く呼吸をしてナディアの匂いを吸い込んだ。


 ナディアも薬のせいで重く感じる腕を動かしてゼウスを抱きしめた。


「ゼウス! 愛してるの! ゼウス!」


 身体がゼウスを求めているのがわかった。


「抱いて! ゼウス!」


 ナディアは叫んでいた。


(奴隷――――慰み者でもただの性処理係でも何でも構わない。ゼウスと一つになれたら死んでもいい)


 ゼウスは懇願するナディアを見つめた。ゼウスは本能と飛びかけている理性との間で揺れているように見えた。


「お願い! ゼウス! もう頭がおかしくなっちゃう!」


「くそっ!」


 ゼウスは葛藤を続けながらも、遂には自らの隊服に手を伸ばした。


【Q.ゼウスはナディアと――】


A1.番になる(ゼウスアナザーエンド)→次ページへ


A2.番にならない(本編の続き)↓

https://ncode.syosetu.com/n5840ho/170/

もしくは目次に戻ってから「脱獄編」の「10 ゼウスの選択 2」へ入ってください


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今作品はシリーズ別作品

完結済「獣人姫は逃げまくる ~箱入りな魔性獣人姫は初恋の人と初彼と幼馴染と義父に手籠めにされかかって逃げたけどそのうちの一人と番になりました~」

の幕間として書いていた話を独立させたものです

両方読んでいただくと作品の理解がしやすいと思います(^^)
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