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15 ノエルとマグナ

ゼウス視点

 ゼウスはたまに、レインの思い人が姉であるという見立てはもしかしたら間違っているのではないかと思う時もあった。いくら親友の元彼女だったとしても、その人のために自身の一切の女関係を排除するくらい好きなくせに、姉に正式な恋人がいない状況で自分の思いを実らせようとする行動を全く起こさないのはやはり不毛である。二度も他の男に譲るつもりなのかと思ってしまう。

 姉ではレインが語っていた、「なかなか会えない場所に住んでいる」という条件も満たさない。


 ただ、レインが思い人に別に好きな男ができて「浮気だ!」と喚いていた時期と、姉がハンター仲間であるノエルを意識し出した時期が絶妙に重なる。


 ゼウスは生まれたときから姉のそばにいるので、姉の気持ちの有り様は何となく察することができた。


 現在、姉はノエルと二人きりのハンターパーティを組んでいる。ノエルは姉がモデルの報酬を貯めて建ててくれたゼウスも住む都内の家にずっと居候しているので、ほとんど家族のようなものだった。

 年はゼウスよりも一学年下だが、かなり強いのでハンター活動の際には安心して姉を任せられる。ノエルがいない時にはハンターの仕事には絶対に出かけないようにと姉には口酸っぱく伝えている。


 ノエルは銃騎士隊二番隊長アーク・ブラッドレイの三男だ。ゼウスが銃騎士養成学校の試験を受験した時に彼も受けていて、()()()()()()()()をしていたのでとてつもなく悪目立ちしていた。ちなみに今は普通の装いに直っていて、姉と同じようにモデルの仕事もしている。


 ノエルは銃騎士養成学校の試験の合格は出ていたのにそれを蹴ってハンターになってしまった変わり者だ。家族にはかなり怒られたらしいが、ハンターになったことに後悔はしていないと言う。ゼウスはノエルの戦闘能力の高さを知っているので、ずっと銃騎士にならないかと誘っているのだが、未だに色良い返事はもらえていない。


 アスターがいなくなって失意に沈む姉を支えたのはノエルだった。


 ノエルは昔から何となくだが姉に気があるのではないかと思う時があった。けれど姉はアスターと良い仲で、以前ノエルは「初恋はマグナです」とゼウスに語ってくれていたこともあった。


 マグナとは、姉と最初にパーティを組んでくれた少女の愛称で、本名はマグノリア・ラペンツという男爵令嬢だった。彼女は聖女と呼ばれていて、ゼウスは目にする機会はなかったが不思議な力を保持していたらしい。その後にノエルが加入して、姉とノエルとマグノリアの三人でハンターパーティを組んでいた。


 マグノリアは姉と同じ年だったが、姉と違ってそこはかとなく色香の漂う少女だった。彼女は長い黒髪を編み込んで一つに結わえ、素顔を隠すようにいつも黒縁のぶ厚い眼鏡をかけていた。眼鏡を取り去った時の顔が美しいのはゼウスも知っていた。

 話をすると色々な物事を深く知っていて聡明で落ち着いた雰囲気があった。猪突猛進気味の姉とは対局に位置するような少女だったが、二人はお互いを補い合うかのようにとても仲が良かった。


 しかし彼女はハンター活動中に亡くなった。


 ゼウスは訓練学校の遠征に出かけていて不在にしており知らなかったが、戻って来た時には葬儀も埋葬も何もかもが終わっていた。ゼウスはかなり驚いたが、姉はゼウス以上に衝撃を受けていて、彼女が亡くなった時の様子をあまり語ろうとはしなかった。


 以降姉はノエルと二人だけでハンター活動をしている。


 現在、姉がノエルを見つめる視線はわかりやすすぎるくらいに恋する乙女のものだ。ノエルと一緒に過ごしている姉は、アスターがいなくなった時の廃人のような状態が嘘のようにとても幸せそうだ。

 お互いのモデルの仕事に行く時は片方に仕事が入っていなくてもいつも一緒に出て行くし、仕事が無い時もだいたい二人で一緒に行動していて、どこかにデート出かけていたり、自宅で過ごす時も寝る時以外はいつも一緒の部屋にいる。ノエルも姉への好意が滲み出ているので、まんざらでもないようだった。

 まだ二人は正式には交際していないが、傍から見れば完全に恋人同士だろう。


 二人の仲の良さを見ているとレインが付け入る隙は無いようにも思われる。姉にとってレインは命の恩人ではあるものの、「元彼の親友」であり、レインを恋愛対象とは捉えていないようだ。


 けれど、姉はノエルとも未だに彼氏彼女になっていない。肝心のノエルがいまいち煮え切っていないからだ。


 二人は三学年差なのだが、ノエルは十二月の末生まれなので初夏生まれの姉とは時として四歳差になることがある。もしかしたらそれを気にしているのかもしれない。


 姉は確実に年齢差のことを気にしていて、自分から告白するつもりはないようだった。


 一度だけノエルに忠告したことがある。「その気が無いのに気を持たせるようなことをするのはやめてほしい」と。


「気はあります」というのが返事だった。


『愛していますよ、今は誰よりも。もちろん女性として。アテナと男女になれたらそれはとてつもなく素晴らしいのでしょう。彼女と一生を添い遂げることは私の悲願でもあります。しかし、私は今の距離感がとても心地良いのです。


 もしアテナがそんな私に呆れて愛想を尽かして別の男を好きになってしまったら、その男と愛を育んでも構わないと思っています。私は最愛の女性の幸せを全力で応援しますよ。泣きながら』


 銃騎士になる道を蹴って収入も不安定なハンターに志願したことからもわかるように、ノエルは少し変わり者なのだ。

 

 ゼウスはノエルかレインのどちらかなら姉を任せてもいいと思っている。




(二度も辛い恋を経験したのだから、今度こそは幸せになってほしい)


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今作品はシリーズ別作品

完結済「獣人姫は逃げまくる ~箱入りな魔性獣人姫は初恋の人と初彼と幼馴染と義父に手籠めにされかかって逃げたけどそのうちの一人と番になりました~」

の幕間として書いていた話を独立させたものです

両方読んでいただくと作品の理解がしやすいと思います(^^)
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