6 あなたの大切なものを俺にください
R15注意
「番に……」
呟いたナディアの唇を再びゼウスが奪い、彼は彼女を抱きしめた。
「他の男なんか見ないで。俺だけ見てて。
メリッサが獣人だと知って色々と思う所はあるけど、それでもでもいいんだ。全てを裏切っても構わないくらい、俺は君を愛している。
正直、メリッサが獣人だと知って、喜んでいる部分もある…… メリッサの番になれれば、君の唯一無二になれるから。
俺をメリッサの一番大切な場所に置いてください。君が獣人であることも、他の男とキスや色々していたことも、全部許すから。だから、あなたの大切なものを俺にください」
最後の方は懇願めいた口調になっていた。
「ゼウス…… 嬉しい……」
愛する人からの求愛に、胸が熱くなったナディアはほろりと涙を流した。
本当の自分を知っても愛しているというゼウスの言葉は、ナディアが心の底から欲しかったものだ。
泣いてしまったナディアに、ゼウスは優しさの染み込んだとろけるようなキスをしてきた。
心臓をこれ以上なくドキドキさせながら、ゼウスの訪れを今か今かと待っていたナディアだったが、こんな時にも関わらず、はたと、今更ながらに重要なことを思い出してしまった。
「どうしたの?」
ナディアが急に『しまった』とでも言いたげな表情になったことに気付いたゼウスが、声をかけた。
「あの…… 奴隷になる前に関係しちゃうとまずいんじゃ……」
ナディアだってこれまでずーっとゼウスに抱かれたかったし、何なら一秒でも早くゼウスと番になりたいと常々思っていたが、それでもしなかったのは、ゼウスが「『悪魔の花婿』である」と断罪されることを防ぐためだ。
奴隷になってからなら大丈夫だろうが、奴隷になる前に関係してしまったら、命の危機がある。
「や、やっぱり…… あのー…… そのぉ……」
こんな状態で中止にすることを申し訳なく思いつつ、ナディアは身体をそろそろと動かしたが、その動きをゼウスが制し、ガシリと掴んできた。
「メリッサ、俺はもう『待て』できない」
『やめようか』という雰囲気を醸し出すナディアに対し、ゼウスはナディアのそばに居座っている。
「で、でも…… ゼウス……」
(ゼウスと最後までするのは構わないけど、その後に悲劇が待ち受けていそうなことが怖い――)
ナディアの不安そうな表情を受けたゼウスが口を開いた。
「……俺、メリッサのことを奴隷にはしたくないんだ。君をそんな酷い立場に落とし込む行いはしたくない。
ねえメリッサ、やっぱり結婚しよう。正体を隠し続けるのは大変かもしれないけど、俺も頑張るし、精一杯メリッサのことを守るから、奴隷じゃなくて、俺の唯一無二の伴侶として、これからもそばにいてほしい」
ゼウスが言っているのは、ナディアがこれからも人間のふりをして、人間社会でずっと生きていくということだ。
しかしそれでは、ナディアの正体が暴かれた場合に、二人とも確実に処刑されそうな、とても危険な選択肢ではないかと思った。
「でも……」
ゼウスの提案に異を唱えようとしたナディアの唇を、迫ってきたゼウスの唇が塞ぐ。
「今は抱かせて。でないと嫉妬でおかしくなる」
カチカチカチ、とナディアの頭の中で音が鳴った。
唯一の番を得られた獣人の喜びも相まって、ナディアの心の中は幸せでいっぱいになった。
ナディアは、世界でただゼウス一人だけを感じていた。
「赤ちゃんどうしよう……」
終わってから、避妊のことも何も決めずに関係してしまったとナディアは青くなった。
ゼウスが「もし出来てたら産んでほしい」と、子供が獣人でも受け入れることを言ってくれたので、ホッとしたが、『獣人の子供をどうやって人間社会で育てるか』という新しい課題が出てきてしまったので、問題を解決する糸口が見つかるまでは、子作りは控えようという話で落ち着いた。
翌朝、すやすやとゼウスの寝台で寝こけていた二人は、「部屋に女の子がいるぅぁぁぁァァー」と、戻ってきた女日照りのアランに発見されて奇声を上げられたために、他の隊員たちにも女子禁制の独身寮に女性を連れ込んだことがバレてしまった。
フランツ支隊長には「守ってたのに何も言わずに朝まで女とシッポリか!」と怒られたが、「何はともあれ行方不明の婚約者が見つかって良かった良かった」という流れになり、「エヴァンズはもう狙われない」とアーク二番隊長からも連絡があったようで、色々と支隊の人たちを騒がせてしまったものの、『メリッサ』のことは「一件落着」とされた。