2 獣人ってどういうこと?
R15注意
マグノリアと共に集会室の中に入り、眠るゼウスに近寄ったナディアは、彼を起こそうと何度か呼びかけた。
するとゼウスが目を開けて、寝起きのぼうっとした表情でナディアを見た。そして、何を思ったのか、自分の寝具の中にナディアを引っ張り込んできた。
「メリッサ……」
「ゼウス……」
彼に呼びかけられると胸から愛しさと共に申し訳なさがこみ上げてきて、ナディアも名前を呼び返した。
「捨てないで…… 捨てないで捨てないで捨てないで捨てないで捨てないで…… 俺を許して、メリッサ……」
ゼウスの懇願を聞きながら、ナディアも、やっぱり自分もゼウスをとても愛していて、別れたくないと強く思った。
「許してほしいのは私の方よ。騙していてごめんなさい」
「俺のことは好きじゃなかったの? 他に男がいたの?」
その言葉で、脳裏にオリオンの存在がちらついてしまったが、ナディアはオリオンのことを振り払うようにして叫んだ。
「違うわ! 私の恋人はあなただけ! あなただけよ……!」
ナディアは、たぶん自分は二人の男性を不幸にしてしまったんだと思った。
あの南の島に残してきたオリオンには、マグノリアが時間稼ぎのために、支隊の面々と同じく『眠りの魔法』をかけてきたそうだ。ゼウスとこれからのことを話し合える時間的余裕はある。
けれど、魔法の効果はいつまでも続かないし、オリオンは目覚めた時に、たぶん絶望する。
泣き出したナディアを癒やすように、ゼウスが優しく口付けてきた。
大事な話をしないといけない場面なのに、ナディアはゼウスに求められることが嬉しくて、抱擁と接吻を受け入れた。
ただ、ナディアとしてはそこまでは良かったのだが、ゼウスがこちらの服に手をかけてきたので抵抗した。
「待って…… ダメ……」
隊員たちは寝ているが、すぐそばに立っているマグノリアはバッチリ起きている。他の人に目撃されるのは嫌だったし、寝具の中で見えないようにするにしても、やっぱり嫌である。
普段のゼウスであれば、人の目のある所でこんなことは絶対にしないが、どうやら半分寝ぼけているようだ。
「起こしましょうか?」
状況を見かねたのか、マグノリアがそう声をかけてくる。
眠らせる魔法があるくらいだから、逆に起こす魔法もあるのだろう。
ナディアしか見ていない様子のゼウスは、マグノリアの言葉には我関せずだった。
「いえ、大丈夫……」
寝ぼけているゼウスの力はそれほど強くはないし、獣人である自分ならば押さえるのも簡単だと思ったナディアは、ゼウスが自然に起きるのを待とうと断った。
が、気付けば集会室とは違う場所――ゼウスの匂いの染み付いた寝台の上――にいた。
ここはたぶん南西列島でゼウスが生活している部屋のようだ。
どうやらマグノリアの方がイチャイチャを見せつけられるのに耐えかねたのか、それとも気を利かせてくれたのか、二人きりになれる場所へと転移魔法でナディアたちを移したようだった。
部屋を移動しても、変わらずにゼウスは寝ぼけていた。ナディアは今度は抵抗しなかった。
ナディアはこのまま、ゼウスに抱かれてしまいたいと思った。
促せば、たぶん寝ぼけたままのゼウスはそのまましてしまうだろうと思った。
けれどそんな騙し討ちみたいなことはやっぱり駄目だろうと思い直したナディアは、甘えたように抱きついてくるゼウスに、現実と向き合うための言葉を投げた。
「ゼウス、騙していて…… 言えなくてごめんなさい…… 私の正体は、獣人なの…………」
「メリッサが獣人だなんて、あるわけない。そんなのは悪い夢だ……」
ナディアはゼウスの返事に打ちひしがれてしまった。
(やっぱりゼウスが愛しているのは人間の私で、獣人の私じゃない……)
ゼウスは悄然としているナディアを――――
「…………メリッサ、獣人ってどういうこと?」
二人して息を整えている最中、正気に戻ったらしいゼウスが、困惑を強めた視線でナディアを見つめながら、そう問いかけてきた。