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1 夢じゃないよ

悲恋編「131-1 選択 1」でゼウスを選んだ場合のエンドです


ナディア視点→ゼウス視点


少しR15




 ナディアはマグノリアの転移魔法によって、ゼウスのいる南西列島の母島まで戻ってきた。


 あのまま終わりになってもう二度とゼウスと会えなくなるかもしれないことが、どうしても嫌だった。もしかしたらまた決定的に傷付くかもしれないことも覚悟の上で、ナディアはゼウスに会いに行くことを選択した。


 奴隷としてでもいいから、ゼウスと一緒にいられる道がまだあるなら、その可能性に懸けてみたかった。それに、もし別れる結論にしかならなかったとしても、これまで騙していたことをきちんと謝りたかった。


 ナディアは一緒に来てくれたマグノリアと共に、現在ゼウスがいるという、集会室と呼ばれる南西支隊本部内にある建物の前にいた。


 内ではゼウスの他にも数人の銃騎士たちがいて一緒に眠っているらしいが、マグノリアが『眠りの魔法』をゼウス以外の隊員たちにかけて、さらに深い睡眠に彼らを誘うことで、誰にも邪魔されずにゼウスと話し合えるようにしてくれるそうだ。


「ゼウス以外の全員に魔法をかけたわ。いつでも大丈夫よ」


 マグノリアに言われたナディアは頷いたが、緊張と不安で心臓が嫌な音を立てていた。


「ゼウスはあなたに攻撃を仕掛けたりなんてしないと思うけど、心配なら、物理攻撃を跳ね返す魔法をあなたの身体の周りにかけておく?」


 問われてナディアは首を振った。


「斬られることを心配しているわけじゃないの。


 ゼウスが、本当の私を――獣人の私を――受け入れてくれるのかどうかが怖いだけ」


 ナディアは、ゼウスが獣人奴隷として自分を受け入れてくれるかどうかがとても怖かった。


 正直、もしもゼウスがナディアを殺したいのなら、そうされても良いという覚悟でここに来ている。ゼウスとの愛を失ったと思って自殺未遂をするくらいには、ナディアはゼウスを愛している。現在のナディアにとってはゼウスが全てだった。


 ナディアは意を決して集会室の戸を開き、中に入った。






******






『……ゼウス』


 夢の中で最愛の女性がゼウスの名前を呼んでいた。


 場所は眠る前までいた集会室の中だ。周囲には、シリウスの襲撃に備えてゼウスと共に同じ場所にいてくれる支隊の仲間たちが眠っていたが、メリッサのそばには、亡くなったはずの姉の親友マグノリアが立っていたから、ゼウスは目の前の光景を夢だと思った。


 ゼウスは自分を起こそうと呼びかけてこちらに寄ってきたメリッサの腕を掴んで、寝具の中に引き込んだ。


「メリッサ……」


『ゼウス……』


 こちらの名を呼びながら彼女は泣きそうな顔をしていた。


 ゼウスはメリッサを斬っている。ゼウスの意図ではなかったとはいえ、あんな深い傷を負わせてしまって、ゼウスはメリッサが自分を許しはしないのではないかと思っていた。


 加えて、彼女には自分以外に男の影があった。


 メリッサ自身は二股をするような女性ではないと信じているが、魅力的な彼女のことだ。言い寄る男が一人や二人…… いや、十人くらいいてもおかしくはない。遠距離になってしまったことで、心の距離も離れてしまうことが怖かった。


「捨てないで…… 捨てないで捨てないで捨てないで捨てないで捨てないで…… 俺を許して、メリッサ……」


 メリッサを斬ってしまってからゼウスは睡眠障害を患っていた。質の良い眠りが保てなくなり、断続的に落ちる眠りの中で、毎日彼女の夢を見ては夢の中で謝っていた。


『許してほしいのは私の方よ。騙していてごめんなさい』


「騙していた」という言葉がゼウスの胸に突き刺さる。


「俺のことは好きじゃなかったの? 他に男がいたの?」


『違うわ! 私の恋人はあなただけ! あなただけよ……!』


 メリッサがそう叫んで泣き出してしまう。


 夢の中のメリッサはいつも優しく微笑み、ゼウスを温かく迎え入れてくれるのに、今日はなんだか変な夢だと思った。


 ゼウスは泣いているメリッサの唇を奪った。柔らかな唇と温かな舌の感触がやけに現実感満載(リアル)だなと思いながら――


『待って…… ダメ……』


 いつものようにメリッサの服に手をかけるが、意外なほどに力強すぎる抵抗に遭って、彼女の服も自分の服も取り去れない。


『いえ、大丈夫……』


 メリッサは躊躇うように何かを言いながら、ちらちらと周囲ばかり気にしている。


 夢の中とはいえ、ゼウスたちの周りには隊服を着たままの支隊長フランツや友人ハロルドたちがいる。彼らは寝ているようだが、その他に起きてこちらを見ているマグノリアもいる。


 こんな人の気配がある所では嫌なのだろうとゼウスが察した瞬間、なぜだか周りの景色が急に変わった。ゼウスはメリッサと抱き合った状態で、一期上の先輩アランと共同で使っている寮の部屋の、自分の寝台(ベッド)の上にいた。


 アランは怪我をしていて少し日常生活が困難な様子だったので、同じ部屋のゼウスは良く面倒を見ていた。

 けれどゼウスが雷少女の襲撃に備えて集会室で支隊長たちと就寝するようになってからは、アランは夜間、支隊に赴任してから仲良くなった別の隊員の部屋に泊まるようになり、風呂だとか着替えだとか、それまでゼウスが面倒を見ていたことを色々としてもらっているらしい。

 現実の状況が夢の中にも反映されているのか、室内にアランの姿はなかった。


 ゼウスは『流石は夢の中だから思い通りだな』などと思った。


 人の気配がなくなってからは、メリッサは力を抜いてゼウスにされるがままではあったが、また例の衝撃的な言葉を紡ぐ。


『ゼウス、騙していて…… 言えなくてごめんなさい…… 私の正体は、獣人なの…………』


 その言葉を受けたゼウスは呟く。


「メリッサが獣人だなんて、あるわけない。


 そんなのは悪い夢だ……」


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今作品はシリーズ別作品

完結済「獣人姫は逃げまくる ~箱入りな魔性獣人姫は初恋の人と初彼と幼馴染と義父に手籠めにされかかって逃げたけどそのうちの一人と番になりました~」

の幕間として書いていた話を独立させたものです

両方読んでいただくと作品の理解がしやすいと思います(^^)
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