131-2 選択 2
どんでん返し注意
ナディア視点→三人称→レイン視点
どうなるかわからないけどゼウスに会いに行くか、それともここに残ってシリウス――オリオンと番になるか――――
選択を突き付けられたナディアは、どちらも選べずに無言のまま、しばらくその場に立ち尽くしていた。
波の音に混じって、海面に雨粒が落ちる音が段々と増えてくる。
「私――――あなたと一緒に行きたい」
雨足が強くなり、せっかく乾かしたナディアの服が濡れ、マグノリアの全身もかなり濡れ始めても、マグノリアはナディアが答えを出すまで待ってくれた。
しかしマグノリアは、意外そうな顔を見せた。
「いいの? 今選んでおかないと、後からゼウスかシリウスのどちらかと一緒になりたいと望んでも、拗れて上手くいかなくなるかもしれないわよ? 彼らと一緒になりたいなら、今選ぶのが最善だわ。時間が経つごとに状況は悪化する。私と来るなら、二人のどちらとも番にならないぐらいの覚悟がないと」
ナディアは一度目を強く閉じてから、迷いを吹っ切った。
「ええ、それで構わないわ」
銃騎士であるゼウスと別れた方がいいであろうことは常に頭の片隅にあって、今はその絶好の機会だ。
それに、会いに行った所でゼウスが自分を受け入れてくれるとは限らない。斬ったのはゼウスが身体を操られたからだとしても、抜刀した所までは彼の意志だ。
獣人と告げた時にゼウスが一瞬垣間見せた怒りを、ナディアは目の当たりにしている。
もし、獣人であることをゼウスが許してくれなかったら―― 恋人には戻れないと拒絶されたら、どうしたらいいのか。
色々あって疲れ果てていたナディアは、逃げた。楽な道を選んでしまった。もうこれ以上傷付きたくないと思ってしまった。
だからといって、自ら進んでオリオンに抱かれることもできそうになかった。
一度我慢さえすれば心は変わる。わかっているけれど、無理だと思った。ナディアはまだゼウスを愛していた。
「わかったわ。私はあなたの意志を尊重する。あなたは少し休んだ方がいいのかもしれない……
運命ならば、また引き合うこともあるでしょう」
瞬間移動のためにマグノリアが差し出してきた手を、ナディアは取った。
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ナディアがマグノリアと消えた海岸では、その後しばらくして――――
ナディアの名前を何度も叫ぶ、シリウスの悲痛な声が響き渡っていた。
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――――事態は、レインが危惧していたもう一つの方向へと転がり出す。
ひとしきり泣いた後、落ち着きを取り戻したらしきゼウスは、暗い瞳のままでこう言った。
「メリッサは、俺が狩ります」