120 光の少年
鳥への残虐な行為があります
シリウス視点
それはまだシリウスが幼く、すぐ下の弟ノエルも赤子同然で、母がノエルにばかり掛かりきりだった頃の話――――
シリウスは兄と一緒に近所の子供たちの溜まり場へと遊びに行った。しかし子供とは残酷なもので、どこかから捕まえてきた小鳥をいじめて遊んでいた。
シリウスたちが行った時には、『獣人の処刑ごっこ~』と称して、小鳥の首が切り落とされようとしていた。シリウスも兄もその光景に驚いてしまって、止めるように声を上げることもできなかった。
その小鳥の生命力が強かったのか、小鳥は首を落とされてしばらくしても、嘴を動かして生きていた。
『お化け鳥だ!』と誰かが言って、集まっていた子供たちはブラッドレイ兄弟を残し、皆悲鳴を上げて蜘蛛の子を散らすように逃げてしまった。
シリウスは涙を流しながら小鳥を見ていた。
『可哀想だね……』
兄はそう言って、身体を痙攣させながらもまだ生きている小鳥の頭部と胴体を掌に乗せた。小鳥の翼は両側が共にもがれていて、子供たちがどこかへやってしまったのだろうが、近くには見当たらなかった。
兄はその場から動かずに、光魔法を使い始めた。光魔法は使用する時に光が発生する。それを通行人に見られて不審がられないようにと、シリウスは兄の意図を汲んで周囲に幻視の魔法をかけた。
その頃にはもう、シリウスも魔法が使えるようになっていた。
端から見れば、兄がただその場に突っ立っているようにしか見えなかっただろう。
掌から柔らかな光を溢れさせ、全身を覆い隠すほどの大きな癒やしの光に包まれる兄は、とても綺麗で、幻想的な光景だった。
兄の掌の中で強力な光魔法を受けた小鳥は、頭部と胴体が繋がり、失った翼を再生させていた。
羽に付いていた惨たらしい出血の後まで消えて元通りの姿になった小鳥は、ピチチ…… と鳴きながら、兄の手から空へと飛び立って行った。
小動物とはいえ失われた肉体の一部を再生させるほどの魔法なんて、父含め他の兄弟たちも誰一人として使えない。兄の光魔法はそのくらいすごいものだった。
(最も、兄はもう、光属性ではなくなってしまったけれど…………)
だから流石の兄でも、切断されたばかりの身体ならば、たとえそれが首でも生きてさえいれば繋げて治すことは可能だろうが、失った身体の一部を再生させる魔法――身体再生の魔法――は、今はもう使えない。
属性は本人が持つ性質や、それから心の在り方によっても違ってくると、以前魔法書で読んだことがあった。
兄の属性が変化してしまったのは、きっとあの時のことが原因だ。
シリウスはナディアの服を整えてから船を降りると、魔法で船を消してしまった。万一にでも、正気に戻ったナディアがこの島から逃げ出さないために――――
シリウスはここでナディアを抱いてしまうつもりだった。ナディアの浮気に関しては色々と思う所はあるが、シリウスにとって生涯の伴侶は彼女一択である。
もうまどろっこしいことは止めだ。父にも祝福してほしくて、了承を得られてからナディアと番になろうと思っていたが、そんな考え自体が間違っていた。
(あんな男の言うことなんか聞かずに、早々にナディアと番になっておくべきだった)
そうしておけばナディアが他の男に目移りすることもなかったし、あんな酷い目に遭って心を閉ざすこともなかっただろう。
(番を得ればナディアのゼウスへの思いも消えるだろうし、この状態からも改善していくはずだ)
「愛してるよ、ナディアちゃん。ちゃんと俺だけを見て俺だけを愛するようになろうね」
浮気したことへの仕置きもいずれするつもりだが、とにかく今は辛い状況にいる彼女を助ける方が先決だ。
自分と番になれば、ナディアはゼウスへの思いを忘れる。