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114 告白

ハロルド視点

 ハロルドは支隊長と二番隊長の後方で彼らに付いて歩きながら、突然現れたアークの背中を凝視していた。


 何と表現するのが適切なのか迷うが、とりあえず怖い。歩く後ろ姿を見ているだけなのに、ハロルドはアーク・ブラッドレイ二番隊長からひしひしと威圧感を感じていた。


 顔だけなら三番隊長の方がよほど怖いが、全身から醸し出されるアークの雰囲気が、「銃騎士隊の暗部を全て一人で背負ってます」みたいな感じであり、上手くは言えないがとにかく怖いのだ。


 アークはどんな時でもほとんどが無表情である。「複数の獣人を斬り伏せて返り血を浴びた状態であっても、全く顔色が変わらず無表情のままだった」とか、「命乞いをする獣人の頭を、一切のためらいもなく淡々と銃で撃ち抜き続けて殺していた」とか、色々と非情な噂は聞く。

 ハロルドが実際にそんな血みどろな場面に出くわしたことはないが、「剥き出しの自身の剣に血を吸わせるために、獣人の屍が累々と重なる血の海の中を、殺戮を求めて無表情のままで徘徊するアークの図」という恐ろしい想像は容易に頭の中に浮かぶ。


 印象だけではあるものの、アークは感情があまり表に出て来なさなすぎて、人としての情が通っているのだろうかと疑問に思えるほどである。


 アークは、キラキラと常に輝かんばかりの美貌を放ち人格者とも言われている二番隊長代行ジュリアスや、美人すぎて性別すら超越していそうに見える心優しき友人ノエルの、果たして本当の父親なんだろうかと失礼なことまで考えてしまう。


 (もっと)も、ハロルドも会ったことのあるアークの妻ロゼは、びっくりするくらいの大層な美人なので、子供たちの顔立ちについては全員が母親寄りなのだろうと思う。


 ロゼは白金髪に碧眼の、三十代後半にはあまり見えない若々しい美女で、周囲を和ませるようなほわほわとした雰囲気のある、天使みたいな可憐な印象の強い女性だ。


 鬼畜が服を着て歩いているような感じのアークと、「慈しみの大天使様」みたいな安らぎに満ちた清らかな雰囲気のロゼが夫婦なのが、性質が真逆すぎて何となく不思議な組み合わせだなと思ってしまう。


(子供が七人くらいいるから夫婦仲は良いのだろうけど)


 ハロルドたちが向かっているのは南西支隊本部の敷地内にある屋外鍛錬場だ。

 執務室にて二、三この前の襲撃事件に関する助言などを受けた後、訓練の様子を視察したいというアークの要請を向けて、支隊長と共に案内をしている途中だった。


 支隊本部の廊下を進んで行くと、やがて窓から鍛錬場になっている開けた場所が見えてくる。


 鍛錬場の様子を見たハロルドは、「あれ?」と思わず声を出してしまった。


「ハロルド、どうかしたのか?」


 かなり驚いた声が出てしまったため、何事かと心配したらしきフランツが振り返り訊ねてくる。


「いえ、あの…… ゼウスの恋人…… いや、婚約者の方がいたので驚いて」


「そう言えば知らん女がいるな」


 フランツは言いながらも歩みは止めず、澄んだ海のような蒼い瞳に険しい色を滲ませながら鍛錬場を見つめた。

 鍛錬場の中は怪我などを防止するために関係者以外は立ち入り禁止になっている。メリッサはゼウスの婚約者とはいえ銃騎士隊所属の者ではない。

 もしかしたらこのちょっとオラオラ系の気質を持つ支隊長(フランツ)から、横柄な感じの注意を受けてしまって、メリッサが嫌な気分になってしまうかもしれないとハロルドは懸念した。


 フランツは一度懐に入った者には甘い所があるが、部外者にはわりと突っけんどんで厳しいのだ。


「すみません! 俺、先に行って外で話すように伝えてきます!」


 フランツのこともメリッサのことも悪者にはしたくないと思ったハロルドは、隊長たちに先んじて彼らの元へ向かうために走り出した。


 ハロルドはもう一度、「すみません」と言いながら隊長たちの横を通り過ぎようとした。


 フランツはハロルドに視線を向けているが、アークはこちらには見向きもせずに、視線をゼウスたちに固定させている。


 ハロルドは見てしまった。


 常に無表情を崩さなかったはずのアークの口元が、微かに笑みの形に動いたのを。


 二番隊長の酷薄な笑みを目撃してしまったハロルドは、背中に若干の薄ら寒いものを走らせながら、ゼウス(友人)とその婚約者の元へと急いだ。


 支隊本部の建物から外に出て隊員たちが休んでいる休憩所を通り過ぎ、ゼウスとメリッサに近付いていたハロルドは、二人の会話が自然と耳に入ってきて――――彼女の衝撃的な告白を聞いてしまった。


「ゼウス、今まで騙していてごめんなさい。私…… 私、本当は――――――獣人なの」


「え?」


 呟きは、ハロルドの口から漏れたものである。ハロルドは驚きに目を見開いていた。


 それはゼウスも同様だった。大きく目を見開いてメリッサを見つめている。ゼウスは声の一つも上げられないほどに驚いているようだった。


「私の本当の名前は『メリッサ・ヘインズ』じゃないの。


 私の本当の名前は、ナディア。


 …………獣人王シドの娘よ」
















「ゼウス、私…… あなたの奴隷になりたい。あなたとこれからもずっと一緒に生きていきたい」


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今作品はシリーズ別作品

完結済「獣人姫は逃げまくる ~箱入りな魔性獣人姫は初恋の人と初彼と幼馴染と義父に手籠めにされかかって逃げたけどそのうちの一人と番になりました~」

の幕間として書いていた話を独立させたものです

両方読んでいただくと作品の理解がしやすいと思います(^^)
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