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111 突然の再会

 馬車から降りたナディアは、さてこれからどうしようとぐるりと周囲を見渡した。乗せられてきた馬車は道から外れた場所で停止しているが、元の道は見えるのでそこを進めばそのうちに次の街が見えてくるはずだ。


 周辺は樹木が所々生えていて草や花もあるので自然を感じられる場所ではあるが、先程から人や馬車が道を通った気配は全くなかった。


 ナディアは馬車を引いていた二匹の馬のうちの一頭を拝借して行こうかなとも考えた。しかしアーヴァインは騎乗できない。以前何かの会話の中で本人がそう言っていたことを思い出したナディアは、馬には手を付けずにそのまま残していくことにした。

 馬一頭ではこの馬車は引けないだろうし、単騎も無理ならアーヴァインがここから動けなくなってしまう。


 火傷をしていない方の手でトランクを持ち、ナディアは道へ戻るために、サクリ、サクリと草を踏みながら歩く。


 考え事をしながら歩を進めるナディアは気付かない。


 彼女の進行方向にある地面の上に、草で隠れるように緑色のインクが使われた魔法陣が、突然出現したことに。


 ナディアの身体が魔法陣の中に全て入った瞬間、彼女の姿は音もなくこの場所から消えてしまった。






 魔法陣の上に乗っただけでは転移魔法は発動しない。そこに魔力を流さない限りは転移は成されないが、ナディアが魔法陣の上に乗った瞬間、そこに魔力を流した男がいた。彼はここ最近ずっとナディアの動向を注視し続けていた。


 ナディアが乗るはずだった列車に細工をして故障したように見せかけ、首都から出る方法の一つを潰したのもその男の仕業だった。


 その者の手により、ナディアが姿を消した直後に魔法陣も消され、ナディアに転移魔法が使われた痕跡は消えてしまった。











「えっ?」


 いきなり周囲の風景が変わったのでナディアは驚いた声を出した。キョロキョロとあたりを見回していたナディアは、足元にあった緑色の魔法陣がすぐに消失したことには気付かない。


 ナディアの背後には長く続く塀があり、塀には出入り口らしき扉も付いていた。

 ナディアが立っているのは先程までの木々や草花が生えている緑色の景色ではなくて、背後以外の三方向が広々と開けていて、茶色い地面の土が剥き出しになった場所だった。明らかに先程まで自分がいた場所ではない。


 そして何故か目の前にいるのは、上半身が裸の大勢の男たちばかりである。


 中には服を――銃騎士隊の隊服を――着ている者もいたが、暑さのせいか上着は脱ぎ、その下に着る規定の水色シャツは袖まくりされて前腕の筋肉は見える。

 皆一様に剥き出しの剣を持ったり構えたりしていて、つまりは剣による戦闘訓練の真っ最中のようだった。


 ――――ここは銃騎士隊一番隊南西支隊の母島にある鍛錬場だ。


「なんで女の子がここに?」


 ナディアは驚いているが、それはこの場にいる面々も同じらしく、誰かが呟く声が聞こえた。


「え? メリッサ?」


 ずっと会いたかった、求めていた人の声と匂いを嗅ぎ、ナディアは顔を綻ばせながら声がした方を向いたが、すぐに顔を真っ赤にさせて叫んだ。


「服っ! 服着てゼウス!」


 ゼウスも他の多くの隊員たちと同様に上半身が裸であり、締まって均整の取れた綺麗な身体を白日の下に晒していた。


「うわっ、ご、ごめん!」


 ゼウスも叫ぶように謝ってから、支隊本部の建物に近い休憩所まで隊服を取りに行くために走った。

 屋根のある休憩所付近にはアランがいて、彼も突然現れたナディアに驚いているようだった。アランは先の戦いで利き手を骨折していたので、訓練には不参加だったが、訓練の補佐役として休憩所に控えていた。


 ナディアとゼウスはお互いの裸を見たことはあるが、いきなり且つ、こんな真っ昼間から、汗を掻いて上気した素肌を見たり晒したりするのには抵抗があった。

 二人はアーヴァインとエリミナのカップル同様に、まだピュアピュアな部分が少し残されていた。


 ゼウスがアランからシャツや上着を渡されて隊服を整えても、ナディアはまだ赤面したまま顔を手で覆っていた。


 ゼウスは恋人の様子にすぐにハッとなり再び叫んだ。


「み、みなさん! すぐに服を着てください! ふしだらな筋肉はすぐに隠してください! お願いします!」


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完結済「獣人姫は逃げまくる ~箱入りな魔性獣人姫は初恋の人と初彼と幼馴染と義父に手籠めにされかかって逃げたけどそのうちの一人と番になりました~」

の幕間として書いていた話を独立させたものです

両方読んでいただくと作品の理解がしやすいと思います(^^)
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