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<4>主人公を救ってしまった。



バルト公爵に魔法学園への入学を推薦して貰える事になった。魔法の悪用を避ける為にバルトはルシアを学園へ入れて正しい知識を身につけるべきだと考えたからだ。ルシアはただただ呆然と何が起きているのやら訳もわからなかった。


そして最悪なのは作戦は最後の重要な所は全く成功しなかったのである。ルシア・ルミナスは無事に王子と婚約しました。ぱちぱちぱち(拍手の音)。


冗談じゃないわよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!

と、庭先で叫び声を上げているルシアだが、家の中ではご馳走が用意されて祝杯の準備がされていた。両親は貴族の学園に特例で通えるなんてお前は我が家の誇りだ!なんて、今世の父も母も大喜びで小躍りしていた。


「は、ははっ……」


作戦は失敗し、もう笑う他にない。ルシアは家の中に入ってご馳走を食べながら苦笑いしていた。


★★★★★★★★



ルシア第二の運命が訪れる。それは魔法学園への入学が決まり町の人達がルシアを町の誇りだと浮かれムード全開真っ只中だった冬の事。ルシア・テレス8歳の事、ルシアはこのままでは過去の自分がDEAD ENDを迎えてしまう(まあ、主人公にとってはHAPPY ENDなのだが…)と、考えて焦っていた。15歳までに何とかしなければ過去の自分が死んでしまうっ!!とやきもきしていた。


ルシアはある事を思い付く。そう、自分がそもそも死ななくてはならなかったのは主人公の下級令嬢セリー・マルスのせいに他ならない。つまり、セリーが第一王子と出会わなければ良いのだ!そう考えたルシアだが、問題がある。



町娘として平穏に暮らして行きたいのにセリーに危害を加えればそれは叶わなくなってしまう。下級とは言えセリーは貴族、刑罰は重く、ただでは済まないだろう。なら、……。


「は?俺に女の子を拐って来いだって?!」


困った時のルキである。ルキを上手く言いくるめて拐って来て貰うのだ!


「しかも貴族だと?!ふざけるなよ!!そんな事出来る訳…」


嫌がるルキを見て苛立つルシア。



「身代金を要求すればたくさんのお金が手に入るわよ?!」


「ふざけんなっ!お前の頼みでもそんな事できねぇよっ!」


「もう良いわよっ!私一人でやってやるわっ!」


「は?!ちょっと待て!待てって…」



怒りに任せて啖呵を切ったルシアはそのまま魔法で調べたセリーの屋敷まで一人で行こうとする。


「待て!俺も行くからっ!」


「何よ!出来ないんじゃなかったの?!」


「お前一人にしたら何するかわからねぇだろ!それに…」


「?」


ルキは何か言おうとするが口ごもった。何はともあれ二人でセリーの屋敷まで向かって行く。そして、セリーを発見した。屋敷の開いた窓からセリーの姿が見える。


「おい、やっぱりやめとこうぜ?」


ルキが止めるのも聞かずにルシアは塀を登っていく。ルキは仕方なく塀を一緒になって登る。


★★★★★


「セリー、あんたがここにいられるのはお父様のお心遣いのおかげなのよ?わかっているなら早く庭先の掃除でもしておいてちょうだい!」


「お姉様、は、はい」


セリー・マルスは父親の伯爵の再婚した母親の連れ子で、第一婦人の子供ではない。そんなセリーは第一婦人の子供の姉のエリーゼに虐められていた。父親もセリーには冷たく、特に構う素振りもなかった。



母親に気を使わせまいと必死に一人で虐めに耐えて来たのである。そんなセリーには憧れがある。それは、運命の王子様と出会う事だった。いつかおとぎ話のように、運命の王子様が自分をこの不幸な場所から救い出してくれると信じていた。そして、今にいたる。


「ちゃんと返事もできないの?!」


逆上した姉はセリーを突き飛ばす。


「きゃっ!!」


そして、テーブルの上に置いてあったティーカップを手に取り、セリーに投げつけた。


★★★★★★★


窓から一部始終を見ていたルシアは仰天した。まさか、ただの運のいいだけの嫌な女だと思っていたセリーが姉から虐められているなんて思いもしなかったのだ。そして、運命は巡る。ティーカップの中身はセリーにかかる事はなかった。


「は?」


「え?」


恐怖から眼を綴じていたセリーは眼を開けて驚いた。ティーカップとその中身は空中で止まっていた。そして、姉の方へと跳ね返っていく。


「きゃー!!」


ティーカップの中身は姉へと盛大にぶちまけられていた。姉は予想外の事に慌てて部屋の外へと逃げていった。窓に影が差す。窓の方を向いたセリーは更に驚いた。その瞬間、セリーにとっては世界がキラキラと瞬いて見えたのだ。まるでおとぎ話の王子様が絵本から抜け出て現れてくれたかのように……。


「セリー・マルス!貴方を拐いに来たわっ!!」


高らかにそう宣言する王子様は窓枠に立ちながらセリーへと手を差しのべる。


王子様はとっても素敵な人でした。セリーの心は一瞬にしてその人に奪われてしまったのです。


「私を、拐いに?」


「ええ、そう!ここから逃げるわよっ!」


そうしてセリーは王子様の手を取り、窓辺から外の世界へと飛び立ったのでした。それは外の世界を知らない雛鳥の旅立ちのように、朝焼けに飛び立つ鳥のように、セリーの王子様はセリーに自由を教えてくれたのです。


セリーを連れてルシアとルキは屋敷を出た。


「ど、どうするんだよ?!」


ルキは事の重大さから慌てていた。


「うるさいわね!落ち着きなさいよ!」


ルキを一蹴するルシア、そんなルシアをキラキラとした憧れの眼差しを向けながらセリーは見ている。


「セリーは王子様に従います。」


「お、王子?」


「はい、セリーを不幸から拐いに来てくださった貴方こそがセリーの王子様なのです。」


あまりにも夢見がちなわその言葉に二人は呆然としていた。そして、ルシアは思い立つ。


「貴方を私が救ってあげるっ!!」


「はいっ!」


★★★★★★★★★


「何?!セリーがいない?!どういう事だ!?」


マルス伯爵はその事実に仰天した。


「はい、更に庭先にこんなモノが」


(親愛なるマルス伯爵およびそのご家族へセリーは頂きました。帰して欲しければ夕刻までに全ての財産を棄てなさい。)


「ど、どういう事だ?!身代金を要求するのではなく財産を棄てろだなんて?!」


「ああ、ああ、セリー、私のセリー…」


婦人はセリーの身を案じて泣いていた。伯爵は娘の為でも財産を全て棄てるなんてそんな事は出来ないと言う。姉のエリーゼも賛成していた。しかし、事態は急変する。


捕まっているセリーからの手紙が届いたのだ。そこにはこうあった。


(親愛なるお父様、お母様、お姉様へ、

セリーは無事です。ご安心ください。セリーの為に財産を棄てないでください。セリーはいつでも家族の事を思っています。お父様は執務でお忙しい毎日をお過ごしです。立派にお仕事をなされるお父様をセリーは誇りに思っています。どうかお体にお気をつけてください。お母様はとても優しくてセリーの自慢のお母様です。そしてお姉様は毎日欠かさず勉学に励んでおられ、マナーも完璧なお姿はセリーにとって憧れの存在です。どうかいつまでもセリーの憧れるお姉様でいてください。


セリー・マルス)


そして手紙の最後にはこう書かれていた。財産を棄てなければ1時間後にセリーを殺害する。と、伯爵は項垂れた。母親はただただセリーの名を呼び涙している。姉は苛立ちを覚えた。名を読まれた時、てっきりこの場で自らの悪事でも晒すつもりだと思ったからだ。なのにそんな心にも無い事を伝えられて苛立つ。



そんな中伯爵は自らの身が危険に晒されているにも関わらず、家族の心配をする心優しいセリーを今まで気遣かわなかった事を反省し始めた。母親はセリーをどうかお救いくださいと、神に祈り始める。使用人達は今必死の捜査をしていると婦人に伝え宥める。


そして、伯爵がついにセリーの命には変えられまいと、財産を棄てる事を決意してしまった。それを聞いた姉は苛立ちを明らかにした。


「ふざけんないで!あんな子の何処がそんなに大切なのっ!!」


声を荒らげる彼女に周囲はざわめいた。


「お父様もお父様よっ!どうしてあの子をここから追い出さないのっ!?」


「何を言っているんだ?!エリーゼ?!セリーは家族だろ?!家族を追い出すなど……」


「家族?!あんな子家族じゃないっ!!」


「エリーゼ!いい加減にしなさいっ!」


伯爵はエリーゼを怒鳴りつけた。エリーゼの眼からは大粒の涙が溢れ出す。


「私は不安だった!あの子に自分の居場所を取られるんじゃないかって!!」


エリーゼは意図せず本心を言った事で口を手で押さえた。何故か本心を口にしていたのだ。それはルシアの魔法だった。ルシア達は身を隠しながらこの様子を見ていたのだ。ルシアは隠れている場所から、エリーゼが本心を言うように魔法を掛けていた。更にエリーゼは続ける。


「お母様が亡くなって、新しいお母様が来て、お父様がお母様を忘れてしまったんじゃないかって、私っ、…」


必死に口を押さえようとするが口は勝手に動いて止まる事がない。


「そんな事ないわ!お父様はいつだって奥様を忘れたりなんてしてないわ!奥様の形見のブローチを毎日磨いてらっしゃるのよ?!」


婦人の言葉を遮るようにエリーゼは叫ぶ。


「嘘よっ!!」


「エリーゼ、済まなかった。お前を不安にさせてしまっていたんだな。私はマリアンヌの事を忘れた事などないよ。そして、お前の居場所も無くなったりはしないさ。」


「そんな事っ!」


「お前がセリーを虐めている事は知っている。」


「っ?!」


その瞬間エリーゼから血の気が引いた。父親に見放されるのではないかと思ったからだ。ブルブルと肩を震わせるエリーゼの元へ伯爵は歩みよる。そして、


「それでも愛しいお前を諌める事ができなかった。」


エリーゼを優しく抱き締めた。涙を流すエリーゼは父親の大きな腕に抱かれ、優しい温かみを感じた。


「どうかセリーを許してあげてくれないか?」


「……わたっ、わたし、…」


「お姉様っ!!」


「「「?!?!」」」


一同は驚いた。なんとセリーがタンスの中から飛び出て来たのだ。一度外に出たが戻って来ていたのだ。


「お姉様!!私っ!お姉様のお悩みにも気づかないで!申し訳ありませんっ!!お父様もお母様も申し訳ありません!全ては狂言誘拐なんです!!」


そう言って頭を下げるセリーを見てエリーゼは拳を振り上げ、勢い良く下降する。だが、エリーゼの振り上げた拳はセリーの頭上で止まっていた。


「そこまででしてよ?エリーゼ様!」


エリーゼの拳を止めたのはルシアだった。ルキは隠れ場のタンスの中で突然出て行ったルシアを追って出ていこうか迷いながら、ルシアは何を考えているんだと、あわあわ慌てている。


「あ、貴方、誰?!」


セリーは慌てて自分の友人であると周囲に説明するがどう見ても町娘のルシアがここにいるのは場違いであった。


「私はルシア・テレス!町娘の魔法使いですわっ!」


その名に聞き覚えのあった伯爵は、その町娘がどうしてここにいるのかと、疑問を投げ掛けた。


「はい、私は、虐められているセリー様を救い出す為に、ルミナス公爵のご令嬢から遣わされたのです!」


と、堂々と嘘を述べたてるルシアだが、その姿が余りにも堂々としていたので周囲はそれを信じこんでしまった。ルシアはそう言いながらも内心、嘘も方便だとほくそえむ。エリーゼはルシアの手を振りほどくと今度はルシアを殴ろうとする。そんなエリーゼの拳をルシアは合えて止めなかった。ルシアはエリーゼにひっぱたかれる。だが、その強い瞳は恐怖に怯えるどころか更に険しくなる。


「私を殴るなら好きに殴ってください!ただし、セリー様には、今後暴力を振るわせは致しません!!」


そういって一歩も引かずセリーの前に立ちはだかるルシアに気後れしたエリーゼは泣き出した。泣いているエリーゼの前に立ち、ルシアはどや顔でこう言い放つ。


「怜悧狡猾は悪女の嗜みでしてよ?」


その迫力に思わず泣き崩れる姉に、セリーは優しくハンカチを差し出す。エリーゼは素直に全てを受け入れるようにそれを受け取り、二人は和解したのだった。



こうして事なきを得たのだが……。


それ以降ルシアはセリーから憧れの眼差しを向けられ、度々屋敷へと招かれるようになった。両親はますます大喜びしてルシアを誉め称える。だが肝心のルシアは、絶望していた。セリーを拐ってくるはすが、まさか懐かれてしまうとは思いもしなかったのだ。予想外の展開にルシアはただただ笑うしかなかったのである。


ルシアの苦難は続く……。


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[良い点]  ポップでとても読みやすい文章でした。キャラクターも個性があり活き活きとしていて好きです。   [気になる点]  乙女ゲームの世界での転生との事ですが、“なぜその世界が乙女ゲームなのか”と…
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