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かげふみ  作者: あしゅ
8/63

かげふみ 8

事務部の仕事は、通常なら夕方5時で終わり土日は休みだが

主はほぼ毎日執務室か書斎に遅くまでいて、何らかの仕事をしていた。

 

食事も仕事の合間に不定期にとるので

一緒に食事をしたい、というグリスの願いはあまり叶えられなかった。

 

執務室に行けば、ほとんどの場合は主に会えるし

長老会会議にも、授業がない日なら連れて行ってもらえるので

それ以上の事を望むのは贅沢というものだ、そうグリスは思っていた。

 

しかし主の側にいられない日がある。

それはリオンが来る日である。

 

 

リオンは週に2~3度は主の寝室に来ていた。

大抵は土曜か日曜だったが、ひどい時には平日の夜にも来る。

勝手に来て、勝手に主の寝室で遊んで、勝手に帰って行く事が多いが

たまに主にメールをしてくる。

 

リオンからのケータイメールが入ると、主は寝室に戻っていく。

ふたりで部屋にこもって遊んでいるので

グリスは遠慮して、その中に入っていけない。

グリスはリオンを羨ましく思うと同時に、少し憎んでいた。

 

 

授業がある日は、夕方からしか主の側に行けない。

最近の主は、7時には寝室に戻るようになったので

2~3時間しか一緒にいられないのである。

 

その日も授業が終わって執務室に行ったのだが

30分も経たない時に、主のケータイにメールが入った。

 

「今、佳境らしいしねー。」

主のつぶやきの意味はわからなかったが、嫌な予感がする。

 

主は内線のボタンを押して、デイジーに言った。

「すいませんが、寝室にお茶の用意をお願いしますー。」

 

 

ああ・・・、やっぱり・・・、と気落ちするグリスに

机の上を片付けながら、主が言う。

「今日はこれで仕事を終えますー。」

 

はい、お疲れ様でした と小声で返事をして

部屋を出て行こうとしたら、主が意外な事を訊いてきた。

「あなたはリオンを嫌いなんですかー?」

 

不意打ちのようなその言葉に、しどろもどろになる。

「え、い、いえ、そんな事は・・・。」

 

「別に嫌いでも良いですけどねー

 リオンとは仲良くしといた方が良いですよー。

 彼はああ見えても、次代の長老会の中心になる人物ですから

 そういう事も計算して、味方につけておくべきですよー。

 リオンの方はあなたに好意的ですよー?」

 

 

グリスは、え? という顔をして訊いた。

「ぼくも主様のお部屋に行って良いんですか?

 主様のプライベートにお邪魔するのは悪いと思って・・・。」

 

「あなたには、“そういう” 許可は与えたはずですがねー。」

慌ただしく机の引き出しを開け閉めして片付けをしながら、主が言う。

 

「プライベートだろうが何だろうが、私に関する領域で

 リオンに許されて、あなたに許されない事はないんですよー?

 次期主という自覚を、もうちょっと持ってくださいねー。」

 

パアッと顔が明るくなるグリスに、少しウンザリした様子で

主が釘を刺すように言った。

 

「あ、ただし、ゲームと駄菓子は成人するまで禁止ですー。

 そんなんやっとったら、ロクでもねえ人間にしかなりませんからー。

 これが守れなかったら、私のプライベートには出禁ですよー。

 何せ私は、ロクでもねえ大人なんでねー。」

 

 

「わかりました。

 大丈夫です。 ぼくの興味は別のところにありますので。」

グリスのこの返事の意味を、主は突っ込まなかった。

 

気にならないのか、それともあえて流したのか

主の気持ちが気になってしょうがないグリスであったが

さすが天才児、主の性格を的確に分析していた。

 

このお方は、多分何も気になさってはいない。

こういう、試すような回りくどいやり方は、このお方には通じない。

反応が欲しかったら、ストレートに訊くべきなんだ。

 

そうわかっていながら、グリスが主の愛を直接確かめる事をしなかったのは

主がおそらくするであろう、何じゃー? そりゃあー という

身も蓋もない反応が恐かったせいであった。

 

 

主様はドライなとこがおありになるから・・・

グリスは次期主である事以外の自分の価値に、自信がなかった。

 

 


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