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かげふみ  作者: あしゅ
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かげふみ 61

「ちょっと休憩してきます。」

アスターにそう言うと、グリスは執務室を出た。

 

 

アスターはリオンとの面接の後、すべてを捨てて職場を辞めた。

その決意を認めたリオンは、彼を秘書として雇った。

 

グリスくんとタリスくんに加えて、アスターくんとは

館は、甘ちゃんだらけになっちゃいそうでーすねえ。

まあ、先代たちがケタ外れ過ぎたんでーすけども

とりあえずアスターくんを、鬼養成してみまーすかねえ。

 

 

一連のその出来事を、グリスに内緒にしていたのは

ゲーム画面がかすんで見えるようになったリオンの

リアル育成ゲームが、無事にクリア出来るか怪しかったからである。

 

失敗した時に、グリスを失望させたくない。

その想いは、リオンもアスターも同じであった。

 

だがしかし、日本旅行のためのリリーの隠居願いを長老会が受理し

打ちひしがれているグリスの前に

アスターが “後任” として現われる瞬間を

長老会総出で見物したのは、悪趣味以外の何ものでもないが。

 

 

グリスはアスターを見た瞬間、泣き出し

抱きついて、“お願い” をした。

「どうか、ぼくより先に死なないでくれ!」

この言葉に、誰もがグリスの心の傷の深さを感じた。

 

アスターはグリスを抱きしめ、即答した。

「もしぼくが先に死ぬ場合でも、その時のきみに大事な人がいなかったら

 きみを一緒に連れて行くよ。」

 

 

アスターが側に来てから、ようやくグリスはローズの部屋を開けた。

 

館の過去も現在も、全てを保護、管理するのが役目なのに

ローズの事だけは直視できないままで

そんな自分を、グリスは弱虫だと責め続けたが

アスターの言葉が、グリスに勇気を与えた。

 

「主様だって、戦いはローズさんに任せたんだろ?

 じゃあ、きみの戦いはぼくが引き受けるよ。」

 

 

20年以上も封印されていた部屋。

 

ドアがあったはずの場所の壁を壊したその時

まるで中から誰かが出て行ったような気がして

作業をしている者たちが手を止め、周囲を見回したのは

一瞬、漂ったバラの香りのせいであろう。

 

同時に窓を塗りこめていたレンガも外された。

久々の日光が、厚く積もったホコリをきらめかせる。

 

 

怒っていた主は、強引に部屋を閉ざしたが

その際に、リリーに命じられた清掃部によって密かに

家具などは全部、速やかに布で覆われたのであった。

 

よって、テーブルの上も机の上もキレイに片付けられ

まるでこの日を待っていたかのように、そこにあった。

 

 

 


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