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かげふみ  作者: あしゅ
46/63

かげふみ 46

グリスが相変わらず、ベッドに突っ伏してメソメソしていたら

ドアがいきなり、バアンと大きな音を立てて開いた。

 

グリスがビクッとして顔を上げると

リオンが呆然自失で立っていた。

 

リオンは主の葬儀に参列できなかった。

議員研修先の外国で、一報を受け取ったからである。

 

 

「・・・今、主の墓に行ってきまーした・・・。

 本当だったんでーすね、ほんと・・う・・・」

 

リオンは膝をつき、うずくまって泣き叫んだ。

「うおおおおおおおおおおおお」

 

「リオンさ・・・」

グリスが側に寄ろうとしたら

リオンはそのまま部屋の中を、泣きながら転がり始めた。

 

「あの主がーーーーー、主がーーーーー・・・

 あああああああああああああああーーーーーーーー」

 

 

リオンは転がって壁に激突した。

掛けてあった額縁が落ちる。

 

「うおおおおおおおおおお」

ゴロゴロゴロゴロ ドスーン 棚から本が崩れ落ちる。

ドサドサドサッ

「うおおおおおおおおおお」

ゴロゴロゴロゴロ ドスーン 窓際に置いた花瓶が落ちる。

パリーン

 

それでもリオンは転がる事を止めず

部屋中を、物にぶつかりながら転げ回る。

 

その取り乱しぶりは、深い悲しみに苦しむグリスでさえも

なだめに入ろうとするほどの狂乱だったが

リオンの巨体にはねられかねないので、ベッドから降りられない。

 

 

廊下のタリスは、中の騒動を何事かといぶかしんだ。

うおおおおおお ゴロゴロゴロ ドンッ ガターン うおおおおおおお

多分、泣き叫んでいるのはリオンさんであろうが、この物音は何だろう?

 

そこに、振動音に驚いたマリーもやってきた。

何事ですの? と、ヒソッとタリスに不安げに訊く。

 

本来ならば、決してしてはならない事だが、今は館の一大事。

何が起こるかわからないので、細心の注意を払う必要がある。

おふたりの身の安全を優先するため・・・、と

タリスとマリーは目で話し合って、ジワーッとドアレバーを回した。

 

 

わずかに開いた隙間から、ふたりが目撃したのは

泣き叫びながら、床を縦横無尽に転げ回るリオンと

ベッドの上から降りられずに、オロオロするグリスの姿であった。

 

忠実な従者であるタリスとマリーは

気付かれないように静かに驚愕し、ドアを速やかにかつ静かに閉めた。

 

そして何事もなかったかのように

タリスは腕を後ろに組んで、ドアの横に仁王立ちし

マリーはお茶の用意をしに、厨房へと向かった。

 

 

電池が切れたかのように、リオンがようやく止まった。

今度はうつぶせになって、動かない。

 

「リオンさん!!!」

やっとグリスがベッドから降りられた。

リオンを抱き起こすと、フウフウ息切れしつつもそれでも泣いている。

 

 

高価なスーツはシワシワになり、破れて薄汚れている。

大人が怒る、いけない遊びを止められた子供のように

顔をグチャグチャにして泣くリオンを抱きかかえながら

グリスは消えない悲しみの中、思った。

 

そうだ・・・、悲しいのはぼくひとりじゃないんだ・・・。

皆さん、主様とはぼくより付き合いが長い。

それぞれに想いというものがあるんだ。

ぼくひとりが悲劇の底にいるつもりになって、ぼくは・・・

 

 

こんなぼくを、主様が見たらどうおっしゃるだろう

主様をガッカリさせる事だけはしたくない。

しっかりしなければ!

ぼくは、これからのために連れてこられたのだから。

 

グリスは、つぶやくように言った。

「リオンさん、ぼく、頑張りますから・・・。」

 

リオンもその言葉に、力なく応えた。

「はい・・・、一緒にいきましょーうね・・・。」

 

弱々しい口調とは裏腹に、ふたりは強く抱き合った。

 

 


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