かげふみ 39
3日間の休暇も終わりの時がきた。
グリスはアスターを見送りに、クリスタルシティの駅へと行き
大人3人は館へ向かう車中にいた。
グリスとアスターは食事時以外は、ずっとふたりで語り合い
より、友情を深めたようである。
「私的には、ラヴを深めてほしかったでーす・・・。」
リオンのちょっと不満気なつぶやきを、主がうっとうしがる。
「養子がホモだったら、あらぬ噂をたてられるんじゃないですかー?
保身第一のおめえらしくないなあー。」
「ふっふっふ」
リオンがほくそ笑んだ。
「“マイノリティーの保護” というのは、知的階級人の義務なんでーす。
それに、そういう噂を立てるヤカラは
“差別主義者” として攻撃してくれ
と、私に言ってるようなもんでーすよ。」
「おめえ・・・、想像以上に腹の中は黒々だよなー・・・。」
主が少し青ざめてドン引いた。
「なあ、あんたらこの前から何の話をしとるんじゃ?」
ジジイが訝しげにコソッと主に訊く。
「リオンもストレスが溜まっているらしく
現実逃避に妙な妄想をしているようなんですよー。」
主が表面だけ気の毒ぶって耳打ちする。
「ううむ、いつ見ても何か食っとるし
彼もあれで何かと大変なんじゃろうなあ。」
「議員先生とか、陰で変態やってるの多そうですしねー。」
「あんた、それ、公言せんようにな・・・。」
ジジイが主の偏見をさりげなく注意した。
「お帰りなさいませ。
休暇はいかがでしたか?」
リリーが興味なさそうに、それでも一応訊く。
「地獄でしたー。」
主のそのひとことで、すべてを察するリリーも有能な秘書である。
不在中に溜まっていた書類を、うっとうしそうに片付ける主。
それとは対照的に、リフレッシュしたのか活き活きと茶を飲むジジイ。
より爽やかになって、笑顔を振りまくグリス。
休暇は良い気分転換だったようね
まあ、主様はどこにいても主様なのだから、しょうがないとして。
リリーは、心の中でほっほっほっと笑った。
別荘から帰ってきた翌日、主は微熱を出して寝込んだ。
「すいませんー、疲れが溜まったようでー。」
布団の中から詫びる主。
「休暇に行って疲れを溜めるとは何事じゃ!」
「まったく、日本人は休むと具合が悪くなるようでーすねえ。」
布団の横のコタツに座って、駄菓子を食うジジイとゲームをするリオン。
「あんたら、病人が寝てる横でやめてくれませんかねー。」
主がイライラさせられて訴えているところに、グリスがやってきた。
「主様、すみません、ぼくの我がままのせいで・・・。」
グリスの今にも泣き出しそうな様子に、主は更にウンザリさせられた。
「グリスや、おまえのせいじゃないぞ。」
「そうでーす。 主がヘンなんでーす。」
ふたりのグリスびいきも、主様の病気の前では威力を発揮しない。
「おふたりとも、主様のお具合が悪いというのに
何をなさっていらっしゃるんです!
さあ、早く主様を安静にして差し上げなければ。」
グリスはゲームのリセットボタンを、容赦なくブチッと押し
セーブしていないのに、と泡を吹いて失神しかけているリオンを抱え
意地汚く菓子袋を握り締めるジジイの手を引き、部屋を出て行った。
はあ・・・、やれやれ と安堵する主。
うつらうつらとまどろみながら、いくつもの夢を見た。
こういう時の夢は、何故かいつも物悲しい。
そして懐かしい。




