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かげふみ  作者: あしゅ
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かげふみ 38

その夜の食事も、なごやかに始まった。

反省して頑張る宣言をしたくせに、相変わらず黙々と食う主に

アスターが話しかけた。

 

「主様は日本出身だとお伺いしましたが

 日本とはどういうところなのでしょうか?」

 

きたーーーーーーーーーーーーー!!! 絵文字略

ジジイとリオンは心中で叫んだが、表情に出すわけにもいかない。

 

「そうですねー。

 日本は食べ物が美味しい国ですー。

 和食だけじゃなく、世界中の料理が日本では食べられますー。

 日本に来て、食事が合わない、という人はいないんじゃないですかねー。」

 

主にしては、マトモな種類の話を選んだ事に、大人ふたりはホッとした。

「外食だけじゃなく、それは一般家庭内にも言えますー。

 日本の家庭の夕食は、毎晩メニューが変わりますー。

 和食、洋食、中華、インド料理、イタリアン

 日本の女性はあらゆる料理を作りますー。

 それのみならず、家族のランチも “お弁当” として

 作って持たせるのですー。

 ネットをするのなら、“キャラ弁” で検索してみてくださいー。」

 

アスターは疑問に思った事を、素直に口にした。

「日本の主婦は料理ばかりしているのですか?」

 

 

その言葉に、主はフフンと鼻で笑った。

「欧米人は、よくそういう事を質問しますが

 民族意識の違いによるものなんですよー。」

主に何のスイッチが入ったのか、後はもう独壇場である。

 

「日本人は働くのが人生そのものなんですー。

 遊びは仕事の余暇にするものー。

 余暇がないなら、あえて遊ぼうとはしませんー。

 その事に疑問を持たないのですー。

 日本人は、己を滅して和を尊びますー。

 夫は家庭のために、朝早くから夜遅くまで働き

 妻は家族のために休暇なく家事をし、パートに出るー。

 子供は学校に行き、塾に行き、習い事をするー。

 どっかの国の首相が、日本人は働きアリだとタワケたけど

 色付き人種なのに、敗戦からあそこまでの復興をして先進国入りを果たしたのは

 正にこの日本人気質があったからなんですよー。

 そう考えると、働きアリで何が悪い? って感じですねー。」

 

これを聞き、ジジイとリオンは館の改革を思い出した。

そうか、主はまぎれもなく日本人なのだ。

 

「日本人には、自分というものがないのですか?」

アスターはズバリ質問した。

 

「いいえー。

 価値観の違いなのですー。

 日本人の “自分” とは、“大勢の中のひとり” という自覚ですー。

 だから自己主張もせず、権利もふりかざさないー。

 気軽に逃げられない小さな島国で、皆が仲良くやっていくためには

 全体の調和を一番に重んじる必要があったのですよー。

 自分が快適に暮らすためには、まず周囲が快適でなくてはならないー。

 協調性と几帳面さは、国土の広さに比例すると思いますねー。」

 

 

アスターは何となく納得させられた。

自分の失礼な質問にも、怒る事なく本気で答えてくれる主にも

少し好感が持てる気がした。

 

「世界が日本人だけだったら、戦争もなくなりまーすね?」

リオンが冗談っぽく言う。

 

「それはわかりませんねー。

 日本人は怒らないんですよー。

 何かあっても、“人それぞれ” だと諦めるー。

 でも、そこにはリミットがあるんですー。

 限界を超えたら、いきなり激怒し始めるー。

 そして、あの時はああだった、この時もこうだった

 と、溜めて溜めて溜め込んだ怒りを、一気に爆発させるのですー。」

 

「それ、恐いのお・・・。」

ジジイが思わずつぶやいた。

 

「はいー。

 でもほとんどの場合、大丈夫ですよー。

 ひとりが限界越えしても、必ず周囲がなだめますからー。

 100人いて50人が怒っても、残りの50人がなだめますー。

 日本人は多数決が大好きですからねー。

 でも、51人が怒った時には、もう終わりですけどねー。」

 

この脅迫のような言葉に、一同は静まり返った。

「要するに日本人は、オールオアナッシングって感じで

 融通の利かないところのある極端な民族なんですよー。」

主が あはは、と笑った。

 

 

「では、主様はこの国にいらっしゃって、感覚の違いに

 イライラなさってるんじゃないですか?」

グリスが不安そうに訊く。

 

「それはないですー。

 “人それぞれ” ですからねー。

 私は私のやり方でやるだけなんですよー。

 それを、あなたにもして欲しいとは思いませんー。

 あなたはあなたなりのやり方をすれば良いんですよー。」

 

主がグリスの方を真っ直ぐに見て答えた。

グリスは、嬉しそうに はい とだけ返事をした。

 

 

それを見て、アスターはやっと理解できた。

 

ああ、そうか、主様はグリスにとって師だったのだ。

 

 


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