かげふみ 32
「わしも上映会に参加するぞ!」
大荷物を持ったジジイが、執務室に怒鳴り込んできた。
「・・・その荷物、何ですかー?」
「わしお気に入りのメディカル枕じゃ!
最近これがないと眠れんのじゃ。」
泊まるつもりかい、と呆れた主。
「・・・良いけど、寝るのはゲストルームにしてくださいよー?」
「おう! どこでもいいわい。
今日は土曜じゃ。 夜更かしもオッケーじゃぞ。
にしても、わしを誘わんとはひどい話じゃのお・・・。
老人はどこに行っても邪魔にされるんかのお・・・。」
書類にサインをしまくっている主の横で、グチグチ続けるジジイ。
「グリスが上映会の事を教えてくれなんだら
わしは孤独老人のまま、短い生涯を終えとったかも知れん・・・。」
「短いー・・・・・?
もう、そこからして言いたい事が山ほどですけど
上映会って、単なるホラー映画のDVDを観るだけですよー?
恐いの大丈夫なんですかー?」
「おっ、わしが映画マニアなのを知らんな?」
「ふん、どうせサイレント映画でしょうがー。」
「バカにするでない!」
「あっ、名前のつづりを間違ったー!!!
これ、修正液可の書類なんだろうかー?」
「どれどれ?
ああ、構わんじゃろ。
そのミミズの這ったような字なら、sがどこに入ろうと一緒じゃわな。」
3文字の自分の名前を間違うとは、とあざ笑うジジイに
主がブチ切れてハンドクリームを投げつけたところで
グリスが入ってきた。
「おっと、・・・、DVですか?」
「そうじゃ! 主はいつもわしを」
「違うー! ジジイがいつも邪魔」
「はいはい、わかりました、おふたりが仲がよろしいのは。」
「「 仲が良くなんて ないぞ!ないわー! 」」
ハモるふたりに、グリスはやれやれ、と笑った。
「あーっっっ、ムカつくわー、その爽やかさー!」
「若いもんはええのお、箸が転がっても笑えて。」
思わぬ八つ当たりである。
主がイライラしながら数十枚のサイン書きをし
グリスが経理部と執務室を往復し
ジジイがお茶のお代わりとクッキーを頼み
ピリピリした時間が過ぎたのち、主が叫んだ。
「業務終了ーーー!
今日はもうやめー!
予定と違うけど、ジジイが邪魔をしたんでもうやる気なしー。
映画を観ようよー。」
「おっ、待ってました!」
何も手伝わずに座っていただけのジジイが
真っ先に立ち上がったのを見て、主がグリスに言った。
「今日も呪怨を観ますよー。 ジジイのためにー。」
「えっ、またあれですか?」
ゲンナリするグリスに、主がニヤリとした。
「日本ホラーの名作ですからねー。
敬愛するジジイには、ぜひ観てもらわないとー。」
その言葉に、純粋なグリスと違って
さすがの百戦錬磨のジジイは不穏なものを感じた。
「・・・それじゃなきゃダメなんか?
わしゃ戦争映画が観たいんじゃが。」
「うちでは恐いのしかやっておりませんー!」
「なんちゅう、偏ったセレクトじゃ・・・。」
ギャアギャア言いながら、3人で主の寝室へと移動をした。




