お前、ガンジャなんて皆で回すもんとちゃうんか!??
イーツ王国とランス帝国の国境付近にある街、ストラブル。ストラブル大寺院が存在し、全知神ハクトゥを信仰、布教している。全知神ハクトゥはこの世界に初めて到達した人間であり、最初の勇者とされている。ハクトゥは黄金に輝く服従の瞳とドラゴンをも一振りで斬り伏せる伝説の剣ホワイトサムにより魔王を倒し、この世界に平和をもたらした存在であると言われている。
勇者とハーベストの二人はストラブルの街並みを闊歩する。ハーベストはこの地で生まれ、そして天啓を得たという。彼女は故郷に帰ってきた喜びを歩容で表し、顔を緩ませる。つい数か月前までこの地は魔王の軍勢による侵攻があったが、彼女は勇者の剣を探している最中であったため参戦することはできなかったと悔しそうに語る。勇者はそれを一言、二言程で済まし大寺院への道のりを進む。
ハーベストは勇者を住職に合わせたいようだ。同時に自身の力不足の報告もしたいという。
「こんなことしとる時間はない」
勇者は愚痴る。ハーベストはその言葉には聞く耳を持たず、強引に進む。石畳の両脇で賑わう露店、人通りが多く身体を左右へ捻じらせながら進む。険しいジャングルを進むように暫く雑踏をかき分けると巨大な噴水を備えた広場に辿り着く。美しい彫像に囲まれた噴水を美しい模様を表すタイル床が支える。広場には複数の喫茶店、飲食店が店を構え、街の人々の憩いの場となっている。噴水近くには大道芸人や吟遊詩人が各々の技で若者たちを魅了する。吟遊詩人が「エルフの国を救いし勇者」と調べに乗せて放つ。咄嗟に二人は通り過ぎる際に無意識に顔を隠す。
ストラブルまでの道のりと、先ほどの雑踏を潜り抜けた二人は少し休もうと喫茶店へ入る。店に入ると可愛らしい女性店員が親切に対応してくれ、席に案内される。女性が好きそうな店内の内装とは裏腹に机や椅子などは武骨なもので揃えている。机の上にはシンプルな花瓶が置かれてあり、逞しいダリアが挿されている。
席に着くとハーベストが不満を言う。
「だらしないわ!勇者である私たちが休むなんて!これこそ時間の無駄よ!」
勇者は目の前の言葉と表情が釣り合っていない不器用な少女を鼻で笑い、メニューに目を落とす。
『薬チューなんて名前はあかんやろ?』
「!?」
勇者の脳裏に過去の記憶が溢れる。
「?」
ハーベストは勇者の様子を訝しげに見つめるも、すぐにお目当てのケーキの乗っているメニューへと心移りする。
「勇者なんて嘘っぱちさ。ダオランは救ったかしらんが、その後エルフ達を殺したりと奇行に走ったそうじゃないか」
喫茶店のテラスで寛ぐ兵士と思わしき男が語る。ハーベストは勇者の顔を覗き込む。
「だが、彼がダオランの大将を倒してくれたからここへの侵攻も収まった、それも事実じゃないか」
先ほどの男の向かいに座る同じく兵士の男が語る。
「そりゃ、まぁ…。そうだけどよ…」
「勇者がどんな奴でもいいよ。俺たち人間を救ってくれるならそれでいいじゃねぇか」
ハーベストは少し誇らしげな顔をして、再度勇者を覗き込む。
「ねぇ、あんた…。なんでそんな無表情なの…?」
ハーベストは勇者の、勇者と称するには不格好な、呆けた、しかし隙のない、奥底にしっかりとした殺意が垣間見える程の奇妙な表情に畏怖する。
「失礼な奴やな。めちゃくちゃ笑顔やないか」
「ど、どこがよ」
話しかけると気さくな返答があることに幾分安心し、ハーベストは冷静さを取り戻す。
「あそこがストラブル大寺院よ」
喫茶店を挟み、疲れのとれた二人は再び寺院へと進み始める。ハーベストが前方に見える立派な建物を指さす。勇者は欠伸を打ちながら寺院を見つめる。
建物が全てが純白に塗られたその異様な姿は空気を変える。神聖、という表現では足りない、どこか物々しい含みが迫る。二人以外にも見物客はいるが、皆言葉を詰まらせる。当然のような純白の架け橋を渡る。橋の下には清流が流れている。どうやら寺院の回りは円形の水堀になっているようだ。架け橋を渡り終えると純白の像が左右を構える豪奢な門が現れる。見物客はそのあたりで写真(この世界では四角の透明な水晶のようなものを撮りたい部分に掲げることで写真を残すことができる)を撮ったり、知識人のご高説を聞いたりしている。全てが純白の中に人が居る。不思議とそれが奇妙に思えてくる。しかし近寄ってみると理解できる言語・感情、肩透かしの内容であることに安堵し、再度この寺院の趣に関心する。
ハーベストはやはりこの街の住人である。門番の男と軽く話すと、すぐさま二人は中へ通された。一般人は立ち入り禁止ということもあり、二人の背中に多くの視線が注がれる。
「住職様!」
ハーベストが声をあげて駆け寄る。通された部屋は質素な椅子と机があるだけ。そこに住職と呼ばれる男が鎮座している。
「ふぅえ?」
瞼が半分落ち、真っ赤な目をした住職が鼻と口から煙を垂らしながらハーベストを見る。
「草吸うてる…」
「おいおい、こいつ誰だ!緊張する!名前!名前名前!」
「住職様…。吸い過ぎは良くありませんよ」
ハーベストは慣れた様子で住職の背中をさする。当の住職はパイプを使って吸引したあとに盛大に咽せている。
「ただのジャンキーやないけ。なんやコイツ」
「うっせぇ。人の嗜好に口出すんじゃねぇ」
「お前みたいなやつが住職ってのが世も末やなっていう事や」
「魔王なんてのがいる時代だぜ?世も末に決まってるだろクソガキ」
「…ちょっと吸わせてくれや」
「やだよ」
「…一服させてくれや」
「ガキが吸っていいもんじゃねぇんだよ」
「僕もう三十やし」
「三十にもなって僕なんて名乗ってる奴はガキだし、頭がおかしい。死んだ方が良い」
「なんやこいつ。おい、こいつどつかせろや」
「ゴッフォ!ッフォ!ゴフゥォオ!」
「人と話してる時ぐらい吸うのやめぇや!」
「ハーベスト…、いる?」
「そいつの方がクソガキやないけぇ!!!」