僕が出てこない話なんてつまらないんだけど!!
「姉御、えらいことになりやしたね」
グンテとロアンヌが廊下を歩く。先ほどの王の演説に二人とも圧倒され、しばらくは言葉も出なかった。グンテが気を利かせて話し始めるも、ロアンヌの返答は素っ気ない。
「…。勇者の旦那が…まさか…。俺、頭追いつかねぇですよ」
「あぁ…」
グンテは頭をかく。
「げ、元気出してくださいよ」
「そうね」
「…」
「お、男は星の数ほどいるって言いますよ?」
「愛する男は殺せないわ」
「あ、姉御…」
グンテが呼び止めようとするも、ロアンヌは制止せず走り去ってしまう。行き場のない左腕が力なく残る。
「宰相、我は言いたいことをただ誇らしげに言ったまでだが、あれでよかったろうか?」
王とフガシが二人では大きすぎる程の机を囲み席に着く。目の間に置かれたカップからは湯気が躍り立つ。芳醇な香りが漂う。フガシは王の質問に敢えて間を与える。ゆっくりとカップを持ち上げ、すすり、大げさまでに丁寧にカップを置く。
「今は誰しも答えが分からぬ状況。王が勇ましく咆哮することが他を動かすきっかけとなることでしょう。皆、迷いながらも進むしかないのです」
王はフガシの返答に幾分満足せず、眉間に皺を寄せたまま無言になる。フガシはその様をフッと笑う。
「勇者を倒すにはどうすればよい?」
「魔法使いを使うのはどうでしょう?」
王は身体を前のめりにさせる。フガシは動かず再びカップを傾ける。
「そんなに上手くいくのか?」
「上手くいかせるのです」
「魔法使いがどこにいるか知っているのか?」
「どこにいようと見つけ出すのです」
「そもそも魔法使いに勇者が倒せるのか?」
「倒せれば儲け。倒せずとも、我々にとって手痛い損失ではありません」
フガシの淡々とした受け答えに王は身体を後方へ反らし、ゆっくり息を吐く。
「いいだろう。お前の考え、正義ではないが、採用しよう」
そういうと王は角砂糖を数十個つかみ取り、カップに放り投げ、まだ混ざり切らない内に一息で飲み干したと思えば、騒々しく席を立ち、嵐のように去ってしまう。残されたフガシは王の仕草に揺らされることなく静かな所作でカップを傾け続ける。窓からは手入れの行き届いた庭が見える。フガシが庭を見つめているとそこに高貴な姿をした女性が通りがかる。フガシは驚いたフリをしたあと、軽く一礼する。女性もそれに礼で応える。
フガシが裸で葉巻をくゆらせる。その隣には同じく裸になった先ほどの女性が水を入れる。女性はフガシから葉巻を取り上げると、それを灰皿へ置き、フガシの唇を指でなぞる。フガシは両手で女性の首や肩、背中をなぞる。フガシの指が尾てい骨の辺りまで来ると、女性は甘い声をあげる。それと同時に二人は唇を重ねる。
「お金が入用なのでしょう?だったら私に頼ってくださいな」
「いつも悪いな」
「あなたが魅力的なのがいけないのです」
女性の言葉にフガシは接吻で応える。2人は絡み合ったままベッドへ倒れこむ。
「魔法使い、ねぇ」
バスローブを羽織った女性は煙草を吸いながらフガシの言葉を反芻する。フガシは彼女の空になったグラスにワインを注ぐ。
「勇者の相棒だった男だよ。勇者よりは話ができる輩であるとは思う」
女性はワインが注がれたグラスを持ち上げてゆっくり回しながら、「ふぅん」と興味なさげに応える。
「エルフと一緒にいるわけでしょう?そのまま放っておいたらなんとかなりそうですけど」
女性はゆっくりワインを嚥下する。味の良さに少し言葉が詰まる。
「熟成させて、旨味を出すほどの事柄でもないだろう?」
「あら。けれども慎重に動くべきことかもしれませんわよ?」
「と、いうと?」
「王が貴方の悪さを知る前に、ということですわ」
「ストラブル防衛に私は関わっていないよ」
フガシは葉巻に火を点ける。
「そっちは、でしょう?」
「…。どう考えても、ダオランがランスに勝てるわけないじゃないか」
「ほぉら出てきた。そっちの貴方の方が私は好きよ」
「私も君のその意地悪な顔が好きだよ。…!また、君を望んでいるようだ」
「まぁ…。今日はお元気ですこと」
二人はまた絡み合う。先ほどよりもより入念に接吻を交わす。先ほどよりも大胆に身体に触れていく。