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僕と山岸マユミは、隣同士の家で生まれ育った。
年齢も同じで親同士も仲が良く、物心つく前からずっと一緒に遊んで過ごしていた。
距離を感じ始めたのはいつ頃だっただろう?
男の子と間違われるくらい活発で、短かった彼女の髪が肩口まで伸び始めた頃。
小学生も高学年になってくると、所謂、イケている奴とそうでない奴の区別が付け始められて。
その辺りからだっただろうか?
彼女、山岸さんは誰とでも分け隔てなく接することのできる柔らかな人柄。活発な性格はそのままに、大きな黒目がちな目、小さな顔、と容姿にも恵まれていて、常にみんなの輪の中心にいた。
一方、僕はお前なんかが幼少期から、彼女の隣にいられる幸運を喜ぶべきだ。なんて友達から、からかわれるくらいの差ができていた。
だからって僕は昔から大人数の中で過ごすのは苦手だったから、適当に一人でいられる環境を気楽に過ごしてきたんだけど。
周囲にいつも一緒にいたことを冷やかされるのが嫌になったのか、中学生になってくらいから、僕にだけやたらと当たりが強くなっていった印象はある。
「あのさ、あんた私の話聞いてる?」
久し振りに彼女と向き合っていたせいか、開かれた懐かしい思い出の中に浸ってぼうっとしていた僕を、苛立ったように向けられた口調が現実に引き戻した。
「ごめん、少しぼうっとしてて、話ちゃんと聞いてなかった」
「だから、今日、この後、あなたに予定はありますかって聞いてたんですけど!」
話を聞き漏らすと言葉を強く区切って、ですます口調になる感じは昔と変わっていないんだな。と僕は思う。
でも確かこの傾向は、彼女にとって大事な話であるほど、強く出ていたはずだ。
「いえ、何もないです。まっすぐ家に帰ろうかと思っていました」
僕は彼女の迫力に押され、見事に委縮し、敬語で返した。
「あんたは相変わらず冴えないのね。彼女がいるとは思ってなかったけど、今日みたいな日に誘ってくれる友達すらいない訳?」
いや、そんな言い方するなら、そんな僕をわざわざこんな場所に呼び出す山岸さんだって。
喉まで出かかった言葉を僕はどうにか飲み込んだ。
「何か文句でも?」
こちらの気持ちを見透かしたように彼女が僕を見る。
「いえ、ないです」
そういえば昔、あんたは顔に出やすいから分かりやすいって、トランプかなにかで遊んでいた時に言われた時があった。
なら僕も変わっていないってことだな。
「あのさ、話が進まないからさっさと言うけど」
今では背中まで伸びた彼女の髪が綺麗に揺れる。
「今日この後、私に付き合ってくれない?」
僕は彼女の言葉の意味を理解できず、数回まばたきをした後に、「はい?」と空気の漏れるような声を上げた。
「はい? じゃなくて、このあと予定がないなら付き合ってよ」
「どこに?」
「どこにって、少し買い物に付き合ってほしいだけ」
「なんで」
「なんでって、まあ、理由は後で話してあげるから」
「いや、そうじゃなくてなんで僕なの? 僕じゃなくても山岸さんならほかにもいっぱい」
「さっきからごちゃごちゃうるさいわね。あんたは昔みたいに黙って私についてくればいいの」
先行ってるから。
一緒に校門を出る姿を見られたくないからと、戸惑う僕を残し、彼女は一人教室を出て行った。