三日目
三日目
三場
アキラ、座っている。ゆりえ、上手から登場。
アキラ 遅いよ! 時間がないってわかってるでしょ! せめてあさってまでには、台本決めなきゃならないんたよ!
ゆりえ ごめん…、着替えてたもんだから…。
アキラ 昨日も言っただろう。言い訳をするな!
ゆりえ それで、さやかの台本はどうなの?
アキラ 明日までにって言ってあるから、まだ。
ゆりえ だったら今日は、昨日とは別の台本を持ってきたから読んでくれる?
アキラ (微笑む)さっすがゆりえ! 部活から逃げたやつらと違う!
ゆりえ、A4用紙の束をアキラに渡す。
ライトが消える。
中央のみスポットライトが当たる。アキラ、机のそばですわっている。胸にカナリアの死骸に見立てたぬいぐるみを抱いている。
しばらくの間。
上手からゆりえ登場。スポットが当たる。パントマイムでノックをする。アキラ、無反応。
ゆりえ、もう一度ノックをする。アキラやはり無反応。ゆりえ、パントマイムでゆっくりとドアを開けて下手に進む。丁寧にドアを閉める。
ゆりえ 会長…。
アキラ、無言。無反応。
ゆりえ 会長!
アキラ うるさい!
ゆりえ 失礼しました…。しかし副会長たちが言っています。「生徒会室にカナリアの死骸を持ち込むのはやめてほしい」と…。
アキラ 気持ち悪いって言ってるの? この子が? それともあたし?
ゆりえ 会長…。
アキラ だいたいなんで自分で言いに来ないの? なんであたしが一年坊主に説教されなきゃならないのよ!
ゆりえ おれは、説教なんか…。
アキラ だったらメッセンジャーボーイ?
ゆりえ (ややムッとして)違います。
アキラ ならなんで自分が言えばあたしが言うことを聞くと思ったの? だいたいこの子は死んでなんかいないの! 眠ってるだけなのよ!
間。
アキラ あんたわからないの! さわってみなさいよ! ほら!
ゆりえ、下手に進む。ライトの明かりが一つになる。アキラからカナリアの死骸に見立てたぬいぐるみを受け取り、赤ん坊のように大切に抱える。
アキラ わかった?
ゆりえ はい。
アキラ だけどこの部屋は寒すぎる。このままじゃ冷たくなってしまう。高彦! ペットショップに行って『ひよこ電球』を買って来い! 一時間以内にもどれ!
ゆりえ、カナリアを絵里奈に返し、にっこりと笑う。
ゆりえ わかった。三十分以内にもどる。待ってろよ…、絵理奈!
ゆりえ、ドアを乱暴に開けて(パントマイム)上手に走る。退場。
アキラ (カナリアの死骸に見立てたぬいぐるみに頬ずりして)今までありがとう…。あたしはもう大丈夫よ。だって…、あいつがいるから……って、やめやめ!
ゆりえ、上手から登場。
ゆりえ どうかな。これはまだ序章でこれから続くんだけど。
アキラ 死骸を抱っこしてる女がキモい。
ゆりえ ホンモノじゃないんだけど。
アキラ 当たり前でしょ! 鳥インフルエンザになるわ!
ゆりえ ならわたしが女役をやろうか?
アキラ 動物が死ぬ話はいやだ。
ゆりえ アキラがおととい書いてきた台本も、人が死ぬ話だけど。
アキラ 作りごとだからいいんだよ。だけど動物が死ぬのはいや!
ゆりえ これも作りごとだけど。
アキラ 言い訳するな! 女子高なんだよ、お客さんはみんな女子高生だ! 動物が死ぬ話なんか、受け入れるわけないでしょ!
アキラ、ぬいぐるみをゆりえに投げつける。ゆりえ、必死にキャッチする。
アキラ、上手にドスドス退場。
暗転。