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「夜明け前に」(シナリオ)

作者: 弘せりえ

人  物

礼生(れお)(17) 星合神社の舞姫 

礼奈(れな)(19) 礼生の姉 

小池悠人(ゆうと)(23) シンガソングライター

前田美礼(みれい)(26) 悠人の恋人

前田さちえ(41) 美礼の叔母・画家

舞妓1

舞妓2

舞妓3





○星合神社・境内(夜)                  


  篝火の光の中、

一人で舞いを踊る礼生(れお)(17)。

  その美しい姿に見とれる位の高い男たち。

  礼生、その視線に眉をひそめ、

  そして後ろで控えている他の舞妓たちの

  冷たい視線に身をふるわせる。

  その中に礼奈(れな)(19)の姿がある。


礼奈「・・・負けないで、礼生!」   

  そっとつぶやき、辺りの舞妓たちを

にらみつける礼奈。           


○同・神社・奥の間・中(夜)   


  薄暗い部屋で、舞妓たちに

囲まれる礼生と礼奈。


舞妓1「この田舎者が、でしゃばるんじゃないよ!」   


うなだれる礼生。


礼奈「田舎者だろうが、あんたたちより舞いが

  上手なんだから仕方ないだろ」


舞妓2「器量の悪い姉さんは黙ってな」    

  

舞妓2に突き飛ばされる礼奈。

礼生、礼奈のもとに駆け付けようとするが、

    舞妓たちに阻まれる。


舞妓3「その綺麗な顔をつぶしてやろうか? 

  多少舞いができたところで、

見られたもんじゃない姿にしてやろうか?」   


小刀を持って近寄ってくる舞妓3に、

      悲鳴を上げる礼生。


舞妓1「どっかのごろつき野郎に

  高く売っちまうという手もある」


舞妓2「石上の中納言様は、

  さぞかしお嘆きになることだろうね」


舞妓1「こんな下賤な小娘のことなんて、

  すぐに忘れておしまいさ」    


舞妓たちの甲高いあざけりの笑い。   

と、神官に一人が騒ぎに気付き、

部屋の戸をたたく。


神官の声「静かにせぬか。

騒ぎを起こす者は追い出すぞ」     


舞妓たち、ふてくされて、

礼生と礼奈を放す。


○同・神社の境内(夜)   

月明かりの中、池のそばで

手ぬぐいをぬらし、

    礼奈の血のにじんだ額に当てる礼生。


礼生「ごめんね、いつも私のせいで・・・」


礼奈「あんたのせいじゃないってば! 

  それに、あんたは国一番の舞姫だよ」   

.

礼生の手を握りしめる礼奈。

    礼生、ポロポロと涙をこぼす。


礼生「・・・ありがとう・・・ごめんね」


○同・神社の境内(明け方)   

大きな楠の木の下にうずくまる礼生。

    右手には短刀。

    その刃を、左手の手首に当てる。   

ぐっと力をこめると、

細い手首の血管がスッと切れ、

    血が溢れ出す。


礼生「・・・あ・・・」   


驚いて刃を落とし、

     手首を右手で握りしめる礼生。

    強く握れば握るほど、

ドクドクと溢れ出す血液。   


礼生、薄れいく意識の中、

ふっと目を開く。

   

夜明け前の空が、広がっている。



○ライブハウス・ビッグサイト・中(夜)     

  うす暗いテーブル席の奥に、

小さなステージ。

小池悠人(ゆうと)(23)が、

    ギターを弾きながら歌っている。


小池(歌う)「目に見えないからって 

    どうして何もかもが夢だと

いえるのだろう 

大切な君から笑顔を奪う

    時空を超えた心の傷 

僕はそっと 

    時の深淵を覗き込んで見る」    


曲の迫力と、小池の甘い歌声に

    うっとりとする観客たち。   


その中で、こわい顔をして歌を聴いている

    前田美礼(みれい)(26)。



○ビッグサイト・楽屋・中(夜)   

   

普段着に着替える小池。

    その横で、黙って携帯を

いじっている美礼。


小池「・・・何か怒ってる? ステージ、

イマイチだった?」


美礼「悠人のステージは、

いつだってサイコーだよ。

  でも、とっても悲しくなる曲があるの」


小池「例えば?」


美礼「さっきの曲」


小池「‘夜明け前’かぁ・・・」



○ビッグサイト・駐車場(夜)   

   ワゴン車に乗り込む

小池と美礼。


美礼「今夜は叔母さんが、.

おうちにご飯食べにおいでって」


小池「叔母さんって、画家の?」


美礼「うん。悠人の話をしたら、

とっても興味があるって。

  美少年ぶりも語っちゃった。

モデルにされちゃうかもよ」   

   

苦笑して、ハンドルを切る小池。



○前田さちえの家・玄関・中(夜)   

   ふくよかな前田さちえ(41)が、

   美礼と小池を抱きしめる。


さちえ「ようこそ、悠人くん。

   いつも美礼からお話聞いているのよ」   

   

そう言って微笑みながら、さちえ、

   悠人を遠い目で見つめる。



○(イメージ)神社の境内。   

   血の海に横たわる礼生の姿。

   その亡骸にかけよって、

泣き叫ぶ礼奈。



○もとの前田さちえの家・玄関・中(夜)


美礼「・・・何か見えた? 叔母さん」


小池「・・・何かって?」   

    

さちえ、いさめるように、

美礼にほほえみ、

    悠人と美礼をダイニングに案内する。



○同・ダイニング・中(夜)   

    パスタとコーヒーを

ごちそうになる美礼と小池。


美礼「・・・実は、叔母さんはね、

いろんなことが見えちゃうの」   

  

美礼の突然の言葉に、驚く小池。


小池「見えるって、何が?」


美礼「人の過去とか未来とか」   

    

さちえ、ほろ苦く笑う。


美礼「ねぇ、何が見えたの? 

聞いちゃダメ?」


さちえ「・・・そうね・・・」  

 

    さちえ、コーヒーカップを手に取ると、

    ゆっくり語る。


さちえ「・・・あなた方は、姉妹だったようね」


小池「ええ!?」


さちえ「おとぎ話みたいなものだと

思って聞いてね。

   ・・・美礼が姉で、悠人くんが妹・・・ 

   綺麗な舞姫が見える・・・」            

   

さちえ、礼生の舞う姿に

小池を重ねる。


美礼「・・・今回は、悠人は、男なの?」   

   

さちえ、目を細める。


さちえ「女社会の汚さがほとほと

身にしみたから、

   今度は男の子に生まれてこようと

決心したんだって。

   ・・・悠人くんの曲には、その時の想いが

結構つまっているはず」


美礼「悠人、ギター持ってるでしょ。

  あの曲歌ってよ」



○同・ダイニング・中(夜)   

    

ギター片手に‘夜明け前’を歌う小池。


小池(歌う)「君が一人で旅立ってしまう 

       その夜明け前に 

       時を越えて 迎えに行くから 

       この腕につかまって 

       大丈夫 強く強く抱きしめて 

       もう二度と放さないから」   

    

小池の歌声に、再びつらそうに

うつむく美礼。

     心配そうな小池。

     その様子を見て微笑むさちえ。


さちえ「・・・美礼にはわかっているはずよ、

   この曲がなぜそんなにつらいのか」   

    

美礼、首をふる。


美礼「わかんないよ。

ファンのみんながうっとり聞いている、

  悠人の代表曲だよ。

私だって 大好きだけど・・・」


さちえ「・・・悲しいんだよね?」   

    

うなずく美礼。

     さみしそうな小池。


さちえ「それが今世での

学びなんじゃないかな。

  この想いを忘れないために、

悠人くんはこの曲を作った。

  ・・・全部つながっているのよ」   

    

美礼、ふっと遠い目をして言う。


美礼「・・・私、今度は悠人を守れるのかな?」


さちえ「悠人くんも、今度は美礼を守るために

  男の子に生まれてきたんじゃない?」   

    

さちえ、小池の方を向く。

     小池、不思議そうにうなずく。


小池「・・・こんな頼りない僕だけど、

  美礼を守るって言えたら

格好いいな、と思う」   

    

小池、そう言いながら、

大きな瞳からポロリと涙をこぼす。

    大慌てする小池。


小池「わー、いきなり男らしくない・・・!」    

    

それを見て泣き笑いする美礼。   

    さちえ、笑いながら、


さちえ「さぁ、おとぎ話はこれでおしまい。

  これからの未来はあなたたちが作るのよ」



○星合神社・奥の間   

   壁にかけられている、

いくつかの古い掛け軸に中に、

  舞姫の絵がある。

   そこには礼生の舞いが

あでやかに描かれている。                        

    

                     了

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