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08 そんな友情

 アリス様とジャック様の剣が交わるのを近くでぼんやりと眺める。騎士団長の息子と張り合う公爵令嬢ってなんなんだろう。ふと思い浮かんだ疑問に、まあチートだからねと思うことで己を納得させることにした。


 ルード様たちと昼食を一緒にし始めてから、それ以外でも一緒にいることが増えた。今や、ペアやグループで受ける授業なんかも誘われるようになり、私は嫉妬のこもった視線を独占している。控えめに言ってしんどい。


 その中でも特別辛いのが剣術の授業だ。

 人より飛び抜けた力を持つアリス様の相手になれる人物なんて限られている。今までは自重していたアリス様も、私がルード様たちと交流するようになってからは武術に関して学年トップの成績を誇るジャック様と組むようになった。ジャック様は今までルード様とペアを組んでいた。


 つまりそう言うことである。


 ルード様のお相手なんぞ下手な人選はできないため、今まではペア変えることができなかったジャック様。そこに毒にも薬にもならない私が現れたら、やることは一つだ。

 ジャック様は殿下のお相手を私に押し付け……もといお願いすると、嬉々としてアリス様と打ち合いを始めた。今まで私とペアを組んでくれていたアリス様も、ずっと手加減してくれていたのだなとすぐに理解できる程度には楽しそうに打ち合っておられた。


 二人とも、身体が闘争を求めすぎでは……?


 だんだんと目に終えない速さの打ち合いになっていくのを横目に、私もルード様と打ち合いを続ける。うっかり怪我させて罰を受けたりしないだろうかと胃がキリキリした。それに気がついているのか、ルード様はアリス様以外には仕事しない表情筋を少しばかり緩めて、優しく声をかけてくれる。


「二人に付き合わせてすまないな。私が相手では気が重いだろうが同じ学生の身分、あまり気にしないでくれ」

「殿下は私が相手でいいのでしょうか」


 ルード様が思った以上に申し訳なさそうな声をしているものだから、思わずそんなことを聞いてしまった。普通に考えて文句ありまくりでしょ。ルード様、私に嫉妬してたじゃん。仲のいい人とペアになりたいみたいな思春期特有のあれだってあるでしょ?いや流石にそれは俗物的すぎか。

 ルード様はパチパチと目を瞬かせると、首を傾げた。


「うん?特に不満はないが」


 心底不思議そうに即答するルード様に、今度は私が首をかしげる番だ。


「殿下にとって私はお邪魔だとばかり思っていましたが」

「私に近づいてくるものなどほとんどは下心があるが、そなたはそう言うのではなかろう。……まあ確かに、そなたのアリスからの気に入られすぎている部分に多少思うところはあるが」


 ルード様は一度言葉を切ると、ご令嬢が発狂しそうな笑顔を浮かべた。


「そなたのようにアリスの話を嬉々として聞いてくれる者は貴重だからな!」


 なるほどそう言うことね。ニコニコと笑顔を浮かべるルード様に納得する。

 すでに数回、ルード様とこうして剣を交わらせているが、最初は本気で無言だった。めちゃくちゃ不機嫌だったし、なんでこいつと……という顔を隠していなかった。仕方ないとは思っていたが、ちょっと凹む。そこで、無言をなんとかしようと、下心込みでアリス様とのことについて聞いたのだ。

 そしたら出るわ出るわ、アリス様との惚気話が。アリス様は惚気とかしないタイプなので、ここぞとばかりに色々聞いていたら、随分と心を開いてくれたらしい。ジャック様に話すと嫌そうな顔をするって言っていたから、相当話を聞いてもらえるのが嬉しかったんだろう。

 その結果、ちょっとでも好印象を持ってもらえたなら安心できるというものだ。アリス様を助けるためにも、ルード様は戦力として欲しいよね。


「それに、そなたはアレらと打ち合ってついていけると思っているのか?」

「無理ですね」

「だろう」


 ルード様も、私も、剣術の教師に花丸をもらえる程度には腕に自信があるが、あの二人は化け物だ。張り合えるわけがない。えっ後半年とちょっとで追いつかなきゃいけないとか無理じゃない?


「好きな女を自分の手で守りたいという欲はあるが、ままならないな」

「……アリス様が相手ですからね」


 憂いげな顔でため息を吐くルード様が麗しい。アリス様の隣に立つってすごく大変そう。アリス様に並び立ちたい気持ちは一緒だなと思うと、妙に親近感が湧いて軽口を叩いてしまった。


「一緒に頑張りましょうね」


 ルード様は目を見開くと、唸るように声を出した。


「前から思っていたが、初対面の時と性格が違いすぎないか?」

「そっ、れは……」


 ヒロインを意識しまくった天然(養殖)キャラを思い出させるのはやめてください!!!


「……あ、あの時は緊張してたんです」


 初対面を終えてから特に何も考えずに喋ってましたとは言えない。というかあのキャラ自分には無理がありすぎた。だからイメージが違うのも仕方ない。仕方ないんです。


「まあ構わないが。今の方が付き合いやすい」


 ああいうのは苦手だ、と苦虫を潰したような顔をしたルード様に、天然キャラと何かあったのか?と思うが、心当たりのある人物はいない。ルード様の友好関係も知らないけど。


「改めてよろしく頼む」


 一人思考の海に沈んでいると、ルード様はそう言って口角を上げた。一緒に頑張りましょうへの答えだとわかって、私は力強く頷いた。


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