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06 イケメン(美女)

 男爵家に引き取られてから、平民の暮らしとは疎遠になるものかと思ってたらそうでもなかった。お父様は私に対してあまり興味がないのか、結構放任主義だ。だったらなぜ引き取ったとも思うんだけど、貴族に必要な教育とほんの少しのお小遣い(私にとっては大金)をくれるくらいで一切の交流がない。予知の力が欲しいのだろうかと思っても、特別予知について言及されたわけでもない。

 学園帰りに城下に降り立って何も言われないし、平民時代に入り浸っていた安くて美味しい喫茶店に行っても何も言われなかった。放任主義が過ぎる。


 ということをアリス様に話すと、目に見えて羨ましそうな顔を見せた。


「純粋に跡取りが欲しかったのじゃないかしら?バルバッサ男爵にはお子さんがいらっしゃらないから」

「それにしては放任主義過ぎません?」

「そうなのよねぇ」


 なんでだろうねとアリス様と話しながらお茶を飲む。早朝だろうが食堂に行けば美味しい紅茶が提供されるので貴族ってすごい。


「アリス様は放課後どのように過ごされてるんですか?」


 朝食がわりのスコーンを食べながらアリス様に話しかける。アリス様は手に持ったスコーンを口に放り込むと、んーと首をひねった。

 アリス様、周りに人がいないと仕草が雑になるんだよね。可愛い。


「普段は王妃教育とかかしら。今日は久々にお休みで暇だから、たまには殿下をお誘いして城下に行こうと思っているの」

「わ、デートですね!」


 わー!ルドアリデートだ!ファンディスクにもなかった!!!見たい!!!


「デート……まあ、そうね。あんまり放っておくとルード様、拗ねちゃうから」


 本当はもっと外まで出たいのよねとアリス様はため息を吐く。城下街といえど、貴族が出かけられるような区画と平民が暮らす区画は別だ。アリス様が言っているのは後者だろう。


「その時は言ってくれれば案内しますよ!」


 アリス様が平民の暮らしているような区画に出られることなんて滅多にないだろうけど、お父様がすごい放任だから私は今でもたまに行く。美味しいお店探しとか楽しいし。


「あら、有難う。今度一緒にお出かけしましょうね」


 キョトンとしたアリス様は、瞬きをしてすぐに笑顔を作った。アリス様とお出かけ嬉し過ぎる。長期休暇とかになればいけるだろうか。


「そういえば、聞いておかなきゃいけないことがあったの」


 突然の話題転換に今度は私が瞬いた。


「なんですか?」

「アイリスさんは殿下やジャックと昼食とか、いやかしら?」

「……どういうことでしょうか?」


 なんかこの会話、既視感ある。時期的にはもっと早かった気がするけど、ジャック様との会話フラグがこんな感じだったような……。


「ジャックがね、アイリスさんを連れてきていいから、もっと殿下との時間を作れって言っていてね?確かに最近ちょっと放置しすぎたかなって思っているのだけど、殿下から何も言われてないのにジャックったら口煩いのよ」


 んー、ちょっと違った!そういう話は知らんな!

 えっもしかしてゲームで一緒にご飯を誘われた時も実はこんな裏設定があったのか?世界はルドアリで満たされてるじゃん。


「まあ!婚約者とのお時間を奪っていたなんて申し訳ないですわ!私のことは気にせず、殿下とご一緒されていいのですよ?」


 私はルドアリを応援しているので!


「悲しいことを言わないで?私はアイリスさんとご一緒したくて時間を取っているの。ジャックもそれをわかっているからこそ、アイリスさんもと言っているのだから。もしよろしければご一緒しない?アイリスさんがいなくてもどうせジャックもいるのだし、邪魔とかそういうのは気にしなくていいわ。それとも彼らがいるのはいやかしら」

「恐れ多いですが、殿下らが問題ないようでしたらご一緒いたします。私もアリス様と一緒にいたいので」

「そう、よかったわ」


 了承を告げるとアリス様は嬉しそうに笑う。はー、そんな近くで見る機会を頂いちゃっていいんですか?お誘いいただき有難うございますジャック様!!!

 というかアリス様直々に一緒にいたいとか言われてしまったんだけど私の人生大丈夫か?幸福を学園生活に全振りしてない?


「そうしたら、今日が二人でお昼を取れる最後の機会ね……残念だわ」


 ふう、と憂いげにため息を吐くアリス様が美しい。ゲームでは憎からずアリス様もルード様をお慕いしていた気がするけど、現実ではそうでもないのだろうか。ちょっと不安になる。


「アリス様は、あまり乗り気ではないのですか?」

「あら、そう見えてしまった?」

「……少しだけ」


 正直に伝えると、アリス様は悪戯っ子のように目を細めて紅茶を口に含む。かちゃりと小さな音を立てて、ティーカップがソーサーに置かれた。


「殿下のことはお慕いしているし、ジャックも好きだけど、同じくらい貴方のことも気に入っているの。私ね、お気に入りはあまり人目に晒したくないタイプなの」

「えっと……」


 つまりどういうこと?


「私も、殿下達も目立つでしょう」

「それは、まあ」

「ふふ、何か困ったことがあったらすぐにお話しして頂戴ね」


 もしや、私がまた嫌がらせされるから乗り気じゃなかったってことだろうか。

 えっ愛されてる???やっぱりアリス様、攻略キャラなのでは???アリス様ルートかな???


 思わずアリス様を見つめると、彼女はクスクスと笑って手を伸ばした。白魚のような手が私の黒髪に触れる。


「殿下もあれで、嫉妬深いのよ」


 するりと髪を一房撫でて、アリス様の手は離れていった。細められた瞳に睫毛の影がかかる。アリス様の口角は緩やかに上がっていて、きっとその嫉妬は不快なものではないのだろうと思わされた。ルード様が嫉妬深いのはもちろん知っている。ゲームのジャック様が言っていた。もしやルード様からの危害があることも懸念されているのだろうか。それだけアリス様を愛していらっしゃるルード様……えっルドアリが尊い。

 アリス様は残りの紅茶を飲みきると、戻りましょうかと立ち上がった。私も残りの紅茶を飲みきって、慌ててアリス様についていく。


「貴方、綺麗な髪ね」


 アリス様はふと振り返って呟いた。ひゃー!アリス様イケメンでは!?

 アリス様は女神も驚きのイケメンスマイルを発揮して、なんでもなかったかのように教室へと足を進めた。呆気にとられた私が置いていかれかけたのは仕方のないことだろう。


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