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01 私がヒロインです

よろしくお願いします。

 いやまさか自分が転生するなんて思わないじゃん?しかもヒロインポジションとかさ、想像しろって方が無理じゃない?


 自分の置かれた状況を冷静に分析しながら考えた。

 ここは城下街の一角にあるごくごく普通の平屋の一つ。お母さんと二人慎ましやかに暮らしている。

 名前はアイリス。年齢は五歳。平民にファミリーネームはない。

 でも、ここが私の知ってる乙女ゲーム『Princess of Wonderland』の世界だったら私にもファミリーネームが存在する。

 男爵家バルバッサ。私はそこの当主と、当時侍女を務めていた母との隠し子だ。


 しかも未来予知の能力を持っている。乙女ゲームのヒロインである。


 乙女ゲーム『Princess of Wonderland』、通称PoWLは未来予知の能力を持つヒロインが、貴族が通う学園に入学して選り取りみどりのイケメンと恋愛しながら世界に降りかかったり降り懸からなかったりする厄災を解決し、世界を救って最終的に“聖女”に認定される。そんな、設定としてはありがちなゲームだ。厄災をどうこうする都合上、バトルも育成もある。主人公のステータス上げをがっつりしなきゃクリアできないから、純粋な恋愛シミュレーションというよりはRPGって感じだったけど。


 ゲームのモデルは不思議の国のアリスなのに、主人公のデフォルトネームはアイリス――つまり私の名前なのだが――で、サポートキャラクターの名前がアリスだったりする。当初は何故?とか思ったりもしたが、まあそこらへんは些細なことだ。

 アリスはヒロイン顔負けのチートスペックを持ち、アリスの名前に相応しい好奇心旺盛な女の子だった。公爵家の令嬢であるアリス・ベルラーシは、淑女としての気品だけでなく、知識、武術、魔法など様々な分野でその才能を発揮する。婚約者はこの国の第一王子で、第一王子のルード・ヴィクトリアスはアリスを溺愛しているというどこに出しても恥ずかしくないヒロインスペック。

 アリスも自分を大切にしてくれるルードを表に出さないが憎からず想っている描写があって、攻略そっちのけでキュンキュンしたのが懐かしい。ルドアリ、私の最推しカップリングです。


 そんなアリスが唯一手に入らないのが人並みの自由。彼女は自由に憧れて、だからこそ窮屈な貴族社会に突如放り込まれたアイリスに手を差し伸べてくれる。

 学園の生徒たちが遠巻きにしている中で声をかけてくれて、アイリスが攻略キャラたちと親密になっていくのを手助けしてくれる。ゲーム中に度々出てくる災厄の攻略でも大活躍で、編成の中にアリスを入れると攻略がスムーズになるし、ルードの従者である騎士団長の息子――ジャック・スペードのルートではルドアリが見れるので、私は積極的に編成していた。アリスを編成するデメリットに、災厄クリア時の攻略キャラの好感度上昇値が減るっていうのがあるけど是非もないよね。


 してそんな有能アリスちゃんは、ゲームの最後に死ぬ。

 初めてトゥルーエンドを達成した時に思わず「は?」とだいぶ低い声が出た。あの時は真顔だった。それから何度も何度もプレイして、全ルートを埋めた時に絶望した。


 アリスはどのルートを通っても最後の災厄で必ず死ぬ。編成に入れても入れなくても死ぬ。


 本気で意味がわからない。なぜアリスは死ぬのか。辛い。運営は絶対に許さない。

 私のように思っていた人は多かったらしく、当時PoWL専スレは荒れに荒れた。TLも荒れた。

 その後続編が出て、ルードが攻略キャラとして出てきたところでそういうことね、とはなったけどやっぱり許せないし専スレもTLももう一度荒れた。

 運営絶対許さないマンと化した私は続編を買う予定はなかったわけなのだけど、ルードのルートは愛する婚約者を失ったルードを慰めつつ愛を育んでいくという内容で、ルドアリをルード視点で見れると聞いて敢え無く購入した。やっぱりルドアリは最高だった。


 という諸々の感情を、予知夢をみることで思い出した。

 金髪の女の子が大きなドラゴンに殺され、止められないまま世界が滅びる夢。ゲームの冒頭シーンである。

 あー!困りますお客様!あー!困ります!困ります!

 アリス死亡シーン地雷です!!!!!!!!!!!!!


 不意に私は理解した。私が前世の記憶を、ゲームの内容を思い出した理由を。


 ルドアリを幸せにする。


 そう、私はそのために記憶を思い出したのだ。

 ヒロインの、アイリスの幸せをずっと隣でサポートしてくれたアリス。そんなアリスを愛していたルード。この二人が幸せになれないなんておかしいじゃないか。

 聖女と呼ばれても、サポートキャラ――いや、友達のアリスを救えない、そんなヒロインは間違っている。


 アイリスは確か、お母さんや町の人に夢で見たことを話していくうちに予知の力があるんじゃないかと噂されるようになったはずだ。そして十四歳の時に病気で母が死んで、バルバッサ家に迎えられる。そんな流れだったはず。


 ヒロインのバックグラウンドなんてちょろっとしか描写がなかったけど、きっと大丈夫だ。絶対にうまくやってみせる。

 続編ヒロインのためにアリスが死ぬなんて許さない。必ずルドアリを幸せにする。


 そのためには私が強くならないと。

 武術も魔法も、多分知識も必要だ。ここはゲームじゃない。リアルの世界だ。それってつまり、ステータスに限界はない。

 アリスのステータスがどのくらいかはわからないけど、ヒロインの上限ステータス以上の力があれば犠牲なしにドラゴンだって倒せるはずだ。絶対にやってみせる。


 転生チートも何もないけど、やらねばならない。

 私のために、最推しのために。私はこの日、アイリス・バルバッサとして生きる覚悟を決めた。


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