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今世は運任せ  作者: サイコロ
9/23

第9話 辿り着きました

振り上げた得物を勢い良く突き刺し、中身を抉るように得物を動かす。

これで何度目か分からない作業を繰り返し、シャルの食事の用意をする。


「ねぇ、それって痛くないのかしら」


「…痛いから早く飲め」


俺の手首に刺した得物をグリグリと動かしながら滴る程の血を流す。

その血をシャルが舐め易いよう近付けて血を出す作業を続けた。

最初はあれほど抵抗していたシャルも素直に血を飲み始める。

人に舐められるというあまり経験しないくすぐったさを我慢しながらその様子を見て安堵する。


…最初はシャルからは激しく抵抗された。


貴族がどうのから始まり、終いには泣き出してしまった。

私は化け物ではないから血は飲まない。

要約するとそんな言葉で抵抗された。


…この世界にも吸血鬼みたいな化け物が居るのだろうか。

魔法がある世界だから迷信では無く、実在するのかもな。

もしくは血を吸う邪霊が居たとかか?


俺は淡々とシャルに事実を伝えて説得した。


俺はこの辺りの自然の知識は無く、シャルも疎い。

周囲は森だが、どの植物が食用で、毒物であるか分からない。

更に、虫も同じく、獣に至っては俺もシャルも狩りの心得など持ち得ない。


つまり、食糧に当てがないのだ。

水も同じく。


シャルに食糧と水の問題をあげて飢え死になるか、血を飲んで生き延びるかを聞いた。

人間、7日は水のみで生きられるが、飲まなければ3日も持たないと聞く。


人は何もしなくても水分を出す生き物だ。

汗や尿、口から出す息にも水分は含まれているそうだ。

その状態で何も飲まなかったら…


人は8割は水で出来ているのだからそれだけ水分を得るという事は重要なのだ。


結論、シャルは血を飲む事を了解してくれた。


邪霊の針を得る前は前提条件の血を流す事すら困難だった。

俺自身の爪や歯では血が滲む前に怪我が治ってしまう。

地面に擦ったり、木に打ち付けたりすれば血は出るが地面や木に吸い込まれてしまう。

再生能力の高さがここで仇となるとは思わなかった。


邪霊の群れに遭ったのはある意味、幸運だったと言えるかもしれない。

邪霊の針が手に入ってからは血を出す事自体は容易くなった。

ただ突き刺せば良い。


それまでは舌を何度も噛み切る為に噛み、涎と血の混ざったと信じたい体液をシャルに口移ししていたからな。


舌は弾力があって幼女の顎ではなかなか噛みきれない代物だ。

また、再生で血が出る前に治ってしまうのか全然血が出ない。

ようやく口に溜まった物と言えば舌を良く噛んで出た涎。


…水分は渡せたから良いか。


邪霊に追われた時は大変だったが、良い得物が手に入って本当に良かった。

時間効率が素晴らしい。


…木の枝や石で手首を切る事も考えたが、雑菌が怖くて実行しなかった。

再生で怪我は治っても感染症は治るか分からない状況ではデメリットが大き過ぎる。

あの時は発火も得ていなかったから熱消毒もできなかったしな。


あの時は俺も血を出すなんて経験がないから太い血管を突き刺してしまい血飛沫をシャルに浴びせてしまい…気絶とはいかないが放心状態にはさせてしまった。


あの後、運良く、小川を見つけて洗い流す事ができたのは良かった。

血の匂いに惹かれて肉食の獣や邪霊が来ては対応が難しくなるからな。

ついでにシャルの泥水でカピカピになっていた服や髪も洗う事ができ、シャルの機嫌も直った。


そろそろ血はいいだろう。

シャルから離して手首から針をどかし蔓で作った腰巻に落ちないように吊るす。

あの時に比べて血を一定量、流し続ける事が上手くなった。

…ただ、血だけではシャルの体も心も限界に近い。


急な環境の変化に悪い衛生状態。

血を飲むという忌避感と長旅のストレス。

血には含まれない栄養素の不足や鉄分や塩分など一部の過剰摂取。

すでにシャルの体調が崩れ始めているのは顔色からも分かる。

…それと表情も。

血を飲む事に抵抗が無くなったのは良いが、表情が怪しい様に思う。


このままではシャルの体も心も歪んで壊れてしまう。


燃える屋敷から飛び出して何日経っただろうか。

数え間違っていなければ既に一ヶ月は過ぎた。


その間に遊戯神から受けたチカラ、その新たなチカラを得る条件が分かった。


その条件は…命を奪う。

肉塊や邪霊を倒した後に呪文を唱えればサイコロが現れた。

一体に付き、一回できるという訳ではなさそうだ。

一定数、命を奪えば、使える、かと思う。

間違ってるかもしれないがな。


既に芋虫の邪霊以外にも双頭の犬や木と人を混ぜたような怪物などを倒した。


シャルが先に気付いて奇襲されずにシャルの結界魔法で足止めし、俺が燃える。

俺達の必勝法だ。

誰も火が効いて助かった。

…虫さえ出なければシャルは良く戦ってくれた。


奇襲されずに邪霊に気付いたのは、シャルの魔力の多さに関係するらしい。

魔力が高ければ高いほど、他の魔力や気配に敏感になるらしい。

近付いた邪霊の魔力をすぐに察知して事前に結界魔法を出してくれたおかげで命拾いしたのは何度も有った。


そして得たチカラは3つ。

暗視、擬態、肥大。

既のシャルにも増えた能力を伝えて試しに使ったが、やはりどれも魔力は感じなかったという。


暗視は暗い場所でもよく見えるようになる能力だ。

…ただし、意識すると影の中でさえも同じようにはっきりと見えてしまう為、影の無い絵のように見えてしまい距離感が掴み難くなる。

普段は、夜目の効く程度だろうか。


擬態は体の色を変えられる能力だ。

タコやカメレオンのような能力だ。

シャル曰く、透明になる能力かと聞かれた。

…ただ、この能力は…名前から考えると色だけを変えるって訳では無さそうだ。


肥大は…体が大きくなる能力だ。

なら体を大きくして走ればその分早く進めるだろと思うだろう?

肥大という言葉の通り、成長する訳では無く、歪に大きくなるのだ。

身動きは出来てもまともに立ったり走ったりという事は難しい。

しかし、大きくなる時の衝撃は凄まじく、近くの木々が押し倒される程の威力がある。

また大きくなるだけで小さくはならない。

…発火をすれば元には戻る。

その際、周囲に何も無いところでしないと大惨事になるという事だけは言える。


以上の新たな能力を得たが、流石に俺の足では馬車と同じ日数では辿り着けなかった。

それでも近くまで来たと思いたい。


栄養状態が悪いせいかシャルの捻挫は未だに回復していない。

色は引いたが痛みがあるらしく、足首を触ると少し熱もある気がする。

残念ながら温める方法は思いつくが冷やす方法は水につけるしか思い付かず、水と言えば途中で通り過ぎた小川か雨しかない。


つまり、今は冷やす方法がないのだ。


シャルを抱えるのも一月近くも繰り返せば慣れてきた行為だ。


「…!

キョーカ!

もうすぐよ!

もうすぐでローガン卿が治める領地。

ローガーよ!」


少し進むとシャルがそう叫ぶ。

その言葉を信じ、俺は前へと走った。

【再生】

【転移】

【発火】

【暗視】

【擬態】

【肥大】

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