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今世は運任せ  作者: サイコロ
8/23

第8話 瀕死になりました

気が付けば…俺は倒れていた。

起きようと動くと地面がぬかるんでいる事に気がつく。


周囲をよく見ると地面以外にも草木も濡れていた。

雨が降った、のか?


…!!

いや、そんな事より邪霊は?

あいつ、シャルはどうなった!?


辺りに邪霊は一体も見当たらない。

そこらに黒い結晶のような物や、細長い針やら兜のような物が沢山落ちていた。

その反対方向に…


「シャル!」


シャルが倒れていた。

金髪は泥に汚れて輝きを失い。

蒼い双眸には虚ろで光が無い。


まさか死んだのかと思い、急いで駆け寄りシャルに触れる。


…冷たい。

シャルの身体は冷えきっていた。

まるで大事な物が、命が零れ落ちてしまって温度を失ってしまったのかと錯覚しそうだ。


しかし、微かにだが、息はある。

胸が少しだが上下に動いている。

まだ生きているのだ、シャルは。

力無く開いていた目を優しく閉じ、シャルの首に触れ脈を測る。

…やはり、間違いない、生きてる。


それでも命の危機には変わりはない。

まずはシャルを暖めなければ…ここで雨が降ったのならば、シャルは…放心した状態で雨晒しだったはず。


それじゃ、俺はなんで無事なんだ?

俺もシャルと同じ時間、雨晒しだったから動けないのでは?


再生を持っていたから?

…本当にそれだけか。


よく、よく思い出せ。

あれだけ居た邪霊はどうなった。

意識があった俺の最後行動は?


…熱。

そうだ、新しい能力、発火を使ったのだ。

そして感じたのは熱だ。


…あぁ、今はその熱が欲しい。

シャルを暖める為に熱が必要だ。


ただ、あの時の、発火を使った記憶は熱しかない。

シャルの屋敷から持ってきたシーツも、道を覆い尽くす邪霊の全ても焼き尽くす熱だとすれば…


…あぁ、そうだ。

これしか今は手が無い。

あれこれ考えても仕方が無いのだ。

今は一刻も早くシャルを暖めなければ命が危ないのだから。


安全の為にシャルから離れる。

発火の効果を俺はまだ分かっていない。

言葉からして熱、火に関する能力だとは思うのだが…


あの時は強く発火を念じた。

そのせいか分からないが、意識と記憶まで失う羽目になった。

ならば…弱く弱く念じれば…発火…


「あぁ!」


熱い、あつい、アツイッ!!


体が、暑い、いや、熱だ。

体が燃えているのか。

視界が炎のせいか揺れて見える。

音は何かに塞がれたように遠くに感じる。

鼻はきかず、声を出す事も難しい。


ザブン。

体全体に衝撃と共に何かに包まれ沈んでいく。

熱が、痛みが引いていく。

…あぁ、あまりの熱にどうやら水中に転移したようだ。


俺は力を抜いて静かに水面に浮かび上がる。

発火の能力は…俺自身を燃やす能力か。

最初の発火は雨によって火が消えたのだろう。

だからこそ、俺はシャルのように冷えていなかったのかもしれない。

それほどの熱を発生させていたのか。

もし、再生を持っていなかったら焼死体の完成だろうさ。


すぐにシャルの姿を思い浮かべてシャルのすぐ側に転移した。

シャルから少し離れた所、俺が発火を使ったと思う所で火はまだ燃えていた。


近づくと肉の焦げる匂いが漂う。

火の中をよく見るとホルモンのような…俺の内臓だろうか。

他にも体の一部と思える物が火の中で燃えていた。


俺はそれを見て安堵した。

これで焚き火が出来る、と。


周囲は雨で濡れて燃料になる物は探すのが困難だろう。

その中で俺の内臓や体の一部を燃料に焚き火が出来るなら、シャルを暖め続ける事が出来る。


俺はその後も何度か発火を使い焚き火を大きくしていく。

熱と痛みがその度に襲うがさほど気にならなかった。

これでシャルを助けられると思え、苦痛を苦痛と感じなかった。

次第に周囲の地面は熱で乾き始め、複数の焚き火で囲まれた場所が出来た。


そこへシャルを抱き抱えて運ぶ。

複数の焚き火のおかげで夜でも明るく暖かい場所。

これなら体も暖まるに違いない。


雨水で濡れた服を少し強引に脱がせ、近くの枝を折って焚き火の近くに干す。

他にも木の葉を火の近くで乾かす。

地面に直接、寝かせては病人には酷だ。

乾けば敷き詰めてそこにシャルを移そう。


シャルも火の暖かさを感じたのか顔に少し生気が戻ったように見える。

…体も乾いて少し熱が戻り始めたようだ。


俺はその後も火が弱まる度に発火を使い、乾いた木の葉を敷き詰めた場所にシャルを寝かせた。

その上からも乾いた木の葉を掛けたからより暖かくできるだろう。


「…ぅ」


しばらくするとシャルが呻きながら少し目を開けた。


「シャル…まだ寝てろ」


起きたか。

今は安静にしてないと。

少しはマシになったとは言え、まだ体は冷たいままだ。

…いや、その前に言うべき事があるか。


「シャル、邪霊は倒した。

もう居ない。

だから安心して…」


「…」


シャルが弱々しく何かを言った。

しかし、声が小さ過ぎて聞き取れなかった。


「何だ、シャル?」


俺はシャルの口元に耳を近付けて尋ねる。


「…きて……かく…を……はやく…もって」


シャルは同じ言葉をうわ言のように繰り返し言っていた。

何度も聞いてようやく文として理解できた。


かくを、はやく、もってきて。


…かく?

もしや邪霊を倒した時に落ちていたあの黒い結晶か?


「核だな。

分かった、すぐに取ってこよう」


今、必要だとシャルが言うならば。


俺は急いで近くに落ちていた黒い結晶、邪霊の心臓である核を数個拾い、シャルの元へ戻った。


「シャル、核を持ってきたぞ。

これをどうするんだ?」


シャルは黙って被せていた乾いた木の葉から手を出して開いた。

手の上に乗せろと言う事か?


俺はシャルの手のひらにそっと核を一つ乗せた。

シャルは聞き取り辛い言葉を唱えると黒い結晶はまるで水を掛けた砂糖のように溶けてシャルの手へと吸い込まれた。


「…足りない。

もっと、持ってきて」


シャルは催促するように手を動かす。


…よく分からない現象が目の前で起きてはいるがシャルの顔色が目に見えて良くなったのは分かる。

言葉が先程よりも力強く、活気がある。


シャルが元気になるならばと拾ってきた核をシャルの手のひらに全て乗せて俺はまた核を拾いに行った。

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