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今世は運任せ  作者: サイコロ
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第7話 邪霊に遭いました

前へ駆ける。

シャルの甲高い慌てふためく声が耳元で響くが今は逃げる事を優先しなければならない。


俺達の背後から蠢き迫り来る邪霊から逃げる為に。


姿は全体が毒々しい色合いの芋虫を中型犬程の大きさをしたような虫嫌いが見れば卒倒してしまいそうな見た目だ。


1匹だけならば俺が踏むなり蹴るなりして倒すが…背後の道が見えない程、重なり合う群れに対して逃げるしかない。


シャルは振り返ってその群れを見て半狂乱で悲鳴を上げながらも結界を背後に張ってくれている。

そのおかげで自分よりも重い物を背負った幼女の足でも逃げ続けられている。


しかし結界も邪霊を足止めにしかならないのか結界を他の邪霊を踏み台にしてよじ登ったり遠回りしてどこまでも追いかけて来る。


確かに結界は壊されていないがそれを避けられては足止めもままならない。

結界をドーム状に張って囲めれば話が早いのだが、それを伝えると結界を壁のようにしか張れないと叫ばれた。


俺は遊戯神のチカラ、再生のおかげで疲れも無く、全力疾走を続行できる。

シャルも数日は結界を張り続けられるという言葉を信じれば邪霊に追いつかれるというのは今の所は無いだろう。


後は、邪霊が俺達を諦めて追いかけるのを止めれば良いが、虫に諦めるという思考能力はあるだろか?

…いや、邪霊には人に対して果てしない憎悪の感情を持ち合わせていたのだったか。

そんな存在が俺達を見逃すだろうか。

少なくとも、疲弊して動けなくなるまで止まりそうにない。


シャルの結界は魔力を燃料にして作られている。

その魔力が尽きれば邪霊は俺達に追いつくだろう。

このままではジリ貧だな。

俺だけならば遊戯神のチカラ、転移で逃げられるがシャルは邪霊に襲われる。


俺だけならば…


「シャル」


未だ半狂乱で言葉にならない悲鳴を上げ結界を張り続けるシャルに声をかける。

しかし、シャルの様子は変わらず俺の声は届いていそうにない。


「俺が突っ込む」


それでも言葉を続ける。

俺が邪霊を倒せば良い。

肉塊を倒した時と同じように。

時間を掛ければ。


「シャルは結界で身を守れ」


身体に巻いていたベッドのシーツを解いてシャルを前へと投げ飛ばす。

投げ飛ばされて違う悲鳴を上げながらシャルは少し先へと飛んでいきながら結界を張り続けていた。

その間にも邪霊は迫る。


「我が命運、ここに顕れよ」


チカラの呪文を唱えたがサイコロは現れなかった。

その事に落胆しつつも行動に移す。


シャルが飛びながら張った結界は重なり合い獣か魚を生け捕りにするような罠に似た形で張られ、都合がいい事に邪霊が1匹通れる隙間が空いていた。


今の俺は幼女。

軽い体重を乗せて踏みつけても潰せないかもしれない。

ならば…


近くに落ちていた石をベッドシーツに包んで素早く振り回す。

ヒュンヒュンと鳴る音を頭上で聞きながら勢いを落とさずに顔を出した邪霊に叩きつけた。


柔らかい物が潰れる音と共にその邪霊から煙が出る。

簡易の武器を急所に叩き込めばなんとか倒せそうだ。


動かなくなった邪霊を押しのけるように他の邪霊が頭を出す。


俺は再び、勢いを付けて振り落とす。

まだ結界の上までよじ登られてはいない。

それまではこの結界の隙間から出て来る邪霊の頭を潰すだけだ。


何度か結界に当たり硬い物同士がぶつかる音も響き、その度に邪霊の顔面に蹴りを入れて難を逃れた。


何度も振り下ろし、噛まれながらも蹴りを放ち、邪霊の数を減らして行く。

遠回りして罠に嵌らなかった邪霊が出始め、結界の上から今にも落ちてきそうなほど密集していた。


このままでは囲まれる。

まだまだ、邪霊が迫り続けている。

一旦下がり、シャルに結界を張り直してもらうか。


俺は振り返ると不透明な結界を挟んでシャルの何処か遠くを見る蒼い目と何も考えて無さそうな表情でペタリと座り込んでいた。


あまりの邪霊、虫への恐怖で放心してしまっているようだ。

…あれでは追加の結界を張ってもらうのは難しいか?


せめて、放心状態のシャルを回収して邪霊から遠ざからなければ。

俺はシャルの元へと駆け出した。

いや、駆け出そうと、した。


足先に熱を感じ、引き込まれ体勢を崩す。

倒れた拍子に口から変な音が出た。

咄嗟に後ろを見ると、巨大な顎で足首から先を喰われていた。


グチャグチャと生々しい音を立てながら、巨大な顎が骨まで砕き、地面に血が飛び散る。

見てしまったせいか急に鋭い痛みを感じる。

ドサリと近くで何かが落ちた音が聞こえた。


何が落ちたか確認する前に俺の身体の上にも落ちてきた。


結界を…超えられた。


邪霊は倒れている俺に群がり喰らい付いてくる。

邪霊は俺を容易く噛み千切り、咀嚼し、飲み込む。

痛いという感覚は麻痺してしまったのか、ただ身体が邪霊に触れて動かされている感覚しかない。

鉄の匂いが嫌に鼻につく。


「我が」


最初に倒した邪霊が落とした細長い針のような物を掴み近くの邪霊の口の中に突き刺す。


「命運」


既に再生した足を邪霊の下に入れて蹴り上げ別の邪霊にぶつける。


「ここに」


ゴロリと転がり上に乗った邪霊を振り落としその勢いを殺さず、邪霊の目に拳を振るう。


「顕れよ」


左手に何かが乗った感覚があった。

俺は迷い無くそれを転がした。


ーアビリティ【発火】を習得ー


新たなチカラを取得するや否や俺はそのチカラの言葉を強く念じた。


その言葉の意味を考え、理解する前に。

【再生】

【転移】

【発火】

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