第23話 殲滅しました
「我が命運、ここに顕れよ」
呪文を唱えると左手に突然サイコロが現れた。
やっと…チカラが手に入る。
疲れないはずの体から力が抜けて座り込んでしまう。
再生でも精神的な疲れは取れないようだ。
しかし、素肌で座ると痛いな。
そこら中に邪霊の核が落ちていて公園に設置されているような足ツボロードの上に座っているように感じる。
…痛いな。
少し見渡して、適当な岩があったため、そこに腰掛ける。
ザラザラな岩肌が乙女の柔肌を削る為、大きな葉をひいて座り直した。
一爆離脱戦法は焚火として利用していた為か発火と転移のタイミングは大丈夫だった。
おかげで意識を失わずに断続的に燃え続ける事ができた。
肥大で火力を底上げせずとも発火の回数を上げれば邪霊は倒せた。
しかし、結界の周囲に群がっていた百足の邪霊だけでは新たなチカラを得るには足りなかった。
だから俺は次の獲物を求めて飛んだ。
幸い、今回は姿が同じ邪霊が何体も存在する特殊ケース。
わざわざ空から探さずとも百足の邪霊の姿を思い浮かべれば目の前にはソイツが存在するのだ。
頭上から奇襲自爆をかければ難なく倒せた。
時には手足や腹を食い千切られたが、意識さえあれば転移で逃げれるし、発火を使えば体内から邪霊を焼けた。
何度も何度も繰り返す内にいつの間にか発火する部位が全身から、半身、腕、ついには指先だけを燃やすなど、一部だけを発火させる術を身につけていた。
そして、そのコツを応用して肥大も一部だけ膨れるようになった。
やはり能力は使い込むほど応用が効くようになるらしい。
最後の転移した場所には百足が固まって球のようになっていた。
その球を削るように燃やしていくと、無数の核と今までと比較にならない大きさの核が1つ残った。
俺は遅まきながら最後に燃やした塊が主だったと理解した。
俺は感慨深げに巨大な核を眺めながらサイコロをぽいっと放り投げる。
カランコロン、と硬質なサイコロと地面がぶつかる音を聞きながら脳内に響くだろう言葉を待った。
ーアビリティ【同化】を習得ー
今回の新たな能力は同化、か。
名前からして擬態と似たような能力だろうか。
今の所、体に変化した様子はない。
同化を意識する。
殆どの能力は意識すれば使える。
例外は魅了と再生ぐらいか。
つまり能力を意識すればどんな能力か分かる事が多い。
しかし、いくら待てども何も変化は起きない。
発動に条件があるのだろうか。
再生は怪我をしていない時は発動しない。
同化にもそんな発動条件が存在するのか。
ふと、お尻に違和感覚えた。
痺れるような、引き攣るような変な感覚。
まさか、変な虫にでも噛まれたのかと思い慌てて立ち上がろうとした。
再生で傷は治っても毒はまだ分からないのだ。
最悪、転移すれば取り除かれるとは思うが、だからと言って毒を流し込まれて嬉しいとは思えないからな。
しかし、俺は立ち上がる事ができなかった。
まるで岩にお尻がくっついたかのように…いや、まさに接着剤でも塗られていたのかと思うくらいくっついていた。
無理に立ち上がろうとするとお尻に痛みを感じて無理だと悟った。
…そうか、これが同化の能力。
物がくっつく能力か。
もしくはお尻にひいた葉が接着剤のような役割を果たしたのか。
絶対、前者だろ。
しかし、くっつく能力だなんてどう活用しようか。
あまり使える用途が思い浮かばないのだが。
まぁ、良いか。
さて、新たな能力も得たのだし、シャルの元へと戻ろうか。
その前にこの岩から離れないとな。
とは言え、岩はくっついただけの異物。
転移すれば取れるだろう。
そう思って少し離れた場所、巨大な核の近くを意識して転移を使った。
転移した後、俺はバランスを崩して、というよりも何か重い物に引っ張られるように後ろに倒れた。
その際に、鈍い音と共に感じたお尻の違和感に嫌な感じを覚えながら。
「…ウソだろ」
思わず心の底から言葉に出てしまった。
俺が居ただろう所に視線を移すと岩があったはずの場所はぽっかりと大きな穴が空いて下の土が丸見えだ。
恐る恐る起き上がり、背後を確認すると岩があった。
岩が転移に付いてきた。
…え?
待て、どういう事だ。
転移は俺しか飛べないんじゃなかったのか。
この岩はどう見ても俺とは別の異物なのに。
なんで転移で俺にくっついたまま飛んだのだ。
どういう事か考えて思い至った結論は、俺は同化という能力を勘違いしていたのではという事だった。
同化はくっつく能力ではなく、触れていた物を自身の一部に変える能力。
つまり、この岩は今は俺の一部となっている訳だ。
つまり、なんだ。
俺は今後一生、裸で岩に座り続けなきゃいけないのか。
いや、上着は着れるだろうし、工夫をすれば下着やズボンも履けるだろうけど。
そんな嫌な将来を考えていたら、思い付いた。
お尻で発火すれば岩が取れるのではないか、と。
くっついた場所が燃えて俺の一部と認識されなくなれば転移でくっついたまま飛ぶ事もないし、なんならその場で岩から離れられる。
俺は少しの地獄を味わってようやく岩から離れる事に成功した。
それにしても同化か。
使う場面はいっぱい思い付けたが、使う時は注意しないとな。
さて、そろそろシャルの元へと戻るとするか。
気付けば、夜は明け、すっかり日が昇ってしまっていた。
まだシャルは目を覚ましてはいないだろうが居なくなった侍女見習い、つまり私を騎士達が探していたら面倒だからな。
巨大な邪霊の核はどうするか。
確か国宝級の魔道具の材料になるのだっけ。
今なら同化で私の一部として転移で持って行けるしな。
炎の魔法で主を倒したって事で結界近くまで持って行くか。
なに、見えない所に隠して騎士の人に見つけてもらえれば後は色々と考えてくれるだろう。
人は自分に都合の良い状況を受け入れるものだからな。
本当はここら一帯に落ちている普通の邪霊の核も持って行きたいが、流石に全身玉付き怪人になるのは嫌だな。
後々、外すのが面倒だしな。
俺は全身に邪霊の核を付けてゾンビのようなぎこちない動きをする俺を想像して首を振った。
うん、ないな。
巨大な邪霊の核に触れて同化を…いや手じゃなくて髪の毛でやるか。
上手くいけば同化した後も軽く引っ張れば外れるだろうし。
【再生】
【転移】
【発火】
【暗視】
【擬態】
【肥大】
【魅了】
【同化】




