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今世は運任せ  作者: サイコロ
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第15話 迎えが来ると聞きました

この世界に、少なくともこの屋敷には本が存在しない。


まず、本を探したのは旅の間でも自然から食材や毒物が分かればもっとマシな生活をシャルが送れただろうと思ったからだ。


俺は眠らない。

再生の効果か眠気に襲われず、眠らずとも活動が可能だ。


さらに暗視で暗い場所でも見える目がある。


昼間は侍女としての勉強やシャルとの活動で本をゆっくりと読む暇が無い。


だから植物図鑑でも夜中に読むかと思い先輩達やシャルに聞いてみたが本とは何かと逆に聞かれた。


先輩達…まぁ、この館の侍女の人達だ。


最初はこの世界は識字率、文字の読み書きができる人が少ないのかと思った。


先輩達が分からないのは少し分かる。

身分が高くないと文字を教えられないとかあるからな。


地球も知識は限られた者しか伝えない地域や時代があった。

この世界もそうかもしれない。

そう思ったが…


シャルに貴族としての勉強はどうしているのかと聞けば魔法道具でプロジェクターのように映像で地図や歴史を学んでいるらしい。


文字が書けない、読めないというレベルではない。

文字が存在さえしないのだ。


一応、魔術に使われる文字のような物があるらしいが絵文字のような感じだ。

火や川を表す漢字の雛形のような物ばかり。


それも魔術を使う貴族か研究者ぐらいしか使わないそうな。


基本的に知識は口伝か魔道具で映像としてしか伝えないらしい。


なるほどと思った。

文字が必要ないのか。

それは魔法だ。

魔法があるから、映像として記録に残せるからこの世界では文字の文化が廃れた。

もしくは発展しなかったのだ。


もしかしたら何処かで文字があるかもしれないが広まらなかったのだ。

必要がないから。


これでは食材の知識は誰かに聞くしかなさそうだが、先輩達はいつも忙しい。

毎日、数人でこんな大きな屋敷の雑事をこなしている。

一切の無駄な動きをせずに一種の軍隊のように連携が取れた先輩達。


そんな先輩達に尋ねるのは気が引ける。

気が引けるが聞いた。


聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥、だ。


結果は収穫ゼロ。


そもそも、街の外に出るのは邪霊を狩る者だけらしく、外の知識を持った者は必然的に戦う者が持っているらしい。


…そもそも俺は勉強が苦手だ。

暗記や書き込みは特に苦手だ。


体を動かしたり、興味を持った物は覚えられる。

だから地球での知識もマンガから得た知識が多い。


知識が得られないならばどうするか。

簡単だ、強くなれば良い。


幸い、俺は敵を倒せば能力を得るチカラがある。

ならば夜の間、皆が寝静まった時を見計らい、転移で邪霊の居る場所に飛び倒せば良い。

だから…


「シャル、俺は夜に邪霊を倒して新たな能力を得るように努力しよう。

だから今日から1人で寝ろ」


既にベッドに入って俺を待っていたシャルにそう伝えた。


「…え?

…いや、いやよ!

行かないで!」


一瞬、俺が話した事についていけずにキョトンとした顔をしたが、すぐさま理解するとベッドから飛び出し、シャルが俺に飛びついてきた。


年相応のわがままを言うようにシャルが嫌がった。


体格差はシャルの方が大きいが、俺の方が力は強い。

俺を行かせない為に咄嗟に飛びついたのかもしれないが、転移で飛べば意味がないぞ、シャル。


衝撃に耐え倒れずに踏ん張ると不恰好な姿勢できつくなったのかプルプルと震え始めたシャルをベッドに押し戻す。


「今朝、アドルフ達の話を聞いた。

王都に向かうそうだな?」


今朝、聞いて気になっていた事をシャルに確認するように尋ねた。


「…そうよ。

国王から直々に連絡が来たわ。

私の保護を名目にここへ迎えに来るわ。

それも3日後の朝。

ローガン卿に会えずじまいなのは残念だけれど仕方ないわ。

…キョーカも一緒よ?」


鼻と鼻がくっつきそうな距離で怪訝そうにシャルは連絡を受けた事を説明し、最後に不安そうに俺を抱き締めながらそう言った。


「もちろん、是が非でも俺は着いて行く。

だが、心配な事がある」


迎えの者に同行を拒否されても後で転移でついていけばいいのだから、そこは心配していない。


「シャル、お前は革命軍と名乗る輩に襲われた。

奴らはお前が死んだと思ってるだろうがお前は生きてる。

それを知れば奴らはどう動くと思う?」


相手の狙いがシャルなのか大公なのか…

そこまではっきりと分からないが…


「…私を狙いに来る?」


シャルが少し考えて答える。

その結論に恐怖を抱いたのか抱き締める力が強まった。


「その可能性がある。

さらに誰が革命軍の関係者か分からない。

全てが敵だと警戒して行動した方が良い」


そんな状況で王都に行けばいつか命を狙われるかもしれない。

だからこそ、守れるように強くならなければいけない。

俺はシャルを安心させる為に背中を優しく撫でる。


「俺の能力は魔法とは別の力だ。

相手もシャルの側にそんな奴が居るとは想定外だろう。

その分、俺への対処が難しくなるはずだ」


能力の数だけシャルを守れる手段が増える。

誘拐であれば転移でシャルの元に行ける。

再生で肉壁にもなれる。

暗い場所でも俺ならば見える。

擬態で隠れる事も隠す事も可能だ。


しかし、今の能力のでは使い勝手が悪い物もある。

発火や肥大が主に使い難い。


俺の意思で発動はできるが制御はできないしな。


「だから、能力を増やすと言いたいの?」


耳の側で小さくシャルが言葉を続ける。


「その為に危険に飛び込むと言うの?

…私は貴女に傷ついて欲しくないわ。

ただ、側に居てほしいだけよ」


か細く弱々しく言う。

今にも泣きそうな雰囲気だ。


「側に居るだけじゃお前を守れない。

悪意から身を守る為に力が必要だ。

そして害意を抑圧する為にも必要だ」


それでも俺はシャルに自分の考えを伝える。


「…そう、分かったわ。

ただし、これは守って。

私が起きている間は離れないで。

私が起きる前に戻ってきて。

この2つは守ってちょうだい」


「了解だ」


シャルがベッドに入って寝る準備を整えた事を確認し俺は灯りの火を消した。


そして、俺はシャルが夢の世界に入るまでいつものように隣で椅子に腰かけ、いつもの子守唄を小さく、優しく歌う。


数分もしないうちに小さく規則正しい寝息が聞こえる。

寝つきが良い事を知っている俺はシャルの頭を優しく撫でてから服を脱いで綺麗に畳み、椅子に置いた。

そして邪霊を思い浮かべて飛んだ。


「…嘘つき」


飛ぶ瞬間、小さいシャルの声が聞こえた気がした。

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