第12話 能力の説明をしました
何やら聞き慣れない単語が飛び交う会話は唐突に止まった。
シャルが眠ってしまったのだ。
頭の上に重さを感じるから、そこにシャルが蒼い目を瞑り、俺の頭に寄り掛かかっているのだろう。
段々、体重を掛けてきたから眠いのだろうとは思っていたが会話の途中で寝落ちしたか。
思えば食事は俺の血液のみで満足に食事を摂れず、夜の寒さに耐え、邪霊から命を狙われる日々。
目的地に着き、温かい風呂と飲み物を飲んで緊張の糸が切れたというのもあるだろう。
外の時と同じように安心しきった寝顔で俺に寄り掛かかっているだろうシャルに皆が注目している。
話の内容は分からなかったが重大な話だったのだろう事は雰囲気からも分かる。
しかし、シャルはまだ幼く、長旅の疲れも色濃くある。
今、起こしてもまともな会話は難しいだろう。
話の続きはまた明日だな。
「キョーカ…と言ったか?」
「…はい」
アドルフから唐突に声を掛けられた。
何か聞きたいのだろうか。
俺はシャルがずり落ちないように支えつつ、痩せこけた顔のアドルフを仰ぎ見る。
「先ほどの…シャルロット様の話は本当か?」
確かに信じるのは難しい話だ。
俺も火事の屋敷で会った後しか分からないが…それでも幼い女児だけで邪霊という化け物が彷徨う外という環境、大した準備もせずに餓死や凍死もせずに一月生き延びた。
それだけでも信じられない話だろう。
俺についても知りたいだろうか?
アドルフ達にとっては俺はどこの馬の骨かも分からぬ子供。
シャルの話だけを信じるならば神の加護を受け、魔法とは違う能力を使う者。
人間、未知と差異に恐怖するものだ。
分からないから怖い。
違うから怖い。
怖いから排除する。
人は、人種や宗教、文化が異なるだけで争うと歴史からも分かる事だ。
…今、排除されるのは困るな。
逃げるのは簡単だろうが、シャルをこのままにするのは…
…いや、既に目的地には辿り着いた。
避難は済んだのだ。
シャルの身の安全はアドルフ達が保証してくれるだろう。
本当に、そうだろうか?
シャルとアドルフ達の関係性を知らない。
シャルの取り巻く状況を知らない。
本当にシャルはここに来て助かるのか?
…心配、だろうな、この気持ちは。
一月も一緒だったのだ。
情も芽生えるか。
ならば、どうするべきか。
考える必要もない。
一緒にいられるように努力をすればいい。
まずはアドルフ達からの信用を得よう。
今やシャルの保護者となるのは彼らだろう。
信用出来ぬ者を身内に近付ける者はいない。
信用されるには…会話が一番だ。
「シャル…様と会った後の事は大まかに話された通りです。
火災の遭った屋敷から逃げ出し、襲いかかる邪霊を倒し、このローガーまで辿り着きました。
それと、俺…私の事でも話しましょう。
始めに能力を説明しましょうか?」
「能力…シャルロット様が言っていた魔法とは別のチカラか?」
訝しげにアドルフが尋ねる。
そう、魔法とは違う、魔力とやらを使わないチカラ。
「はい。
今は再生、転移、発火、暗視、肥大、擬態の6つの能力があります」
少しだけ、能力の効果を、使った時の感触を思い出しながら俺は能力の説明を始めた。
「再生は怪我が早く治る能力です。
火傷や骨折、欠損も治ります」
発火による火傷も、2階から飛び降りた時や邪霊に襲われた時の骨折も瞬く間に治る。
そして、疲れない。
無尽蔵な体力。
…それと、肉体の健康状態も良くなる。
最初に得た時は皮と骨だけだった身体も肉付きが良くなったからだ。
毒と病はまだ効くかどうか分からないけど。
「転移は思い浮かべた場所に飛ぶ能力です。
人を思えばその人の近くに飛びます」
俺の感情やイメージで距離を無視して飛ぶ能力。
しかし、この能力で飛べるのは俺だけ。
俺以外の人や俺が身に付けた物も置いて俺だけが飛ぶ。
「発火は私が燃える能力です。
強く思えば思うほど火力が増します」
シャルが火を操る能力だと言ったが、俺が燃えるだけの能力だ。
火は身体全体が燃え出す為、再生が無ければ一度きりの能力だっただろう。
その火力はただ念じただけでも近くの邪霊すら跡形も無く燃やすほどに高い。
また、肥大を使った後の発火の威力は目を見張る物がある。
「暗視は暗い場所でも見える能力です」
夜の暗さも昼間のように見える能力。
思えば思うほど暗い場所が見え、明るい場所は変わらず見える為、影のない絵を見ているように錯覚してしまう。
そのせいで距離感がおかしくなってしまう。
「肥大は身体を大きくする能力です」
歪に大きくなるだけの能力。
大きくなると上手く動かせずに身じろぎしか出来ない。
今は発火で燃やさない限り元に戻せない。
しかし、大きくなる時の衝撃は強く生木を押し倒すほどだ。
また、肥大した部分は丈夫になるのか、感覚が鈍くなるのか、衝撃に対する痛みは無かった。
「擬態は身体の色を変える能力です」
身体はもちろん、髪や瞳まで色を変えられる。
色というよりも柄と言った方が良いか?
近くに物があれば、それと同色になれる。
岩や木肌、茂みや泥にでも擬態で溶け込める。
「私は…遊戯神と名乗る方から能力を得るチカラを得ました」
遊戯神の事はどう説明をしようか?
俺の能力の増え方は一定数、邪霊、もしくは生き物を殺して呪文を唱えればサイコロが現れる。
しかし、言葉だけでは分からない事もある。
人間は聞いて、見て、体験した情報を優先する。
ならば1つ、能力を見せよう。
能力を得るチカラは見せるには条件が揃わないと無理だ。
だからこそ、能力を見せる。
あの時、シャルの目の前で能力を使った時に魔力が使われていない事に気付いた。
実際に魔法とは違う能力である事を伝わるだろう。
この中で見せ易いのは…
再生、目の前で自傷行為をする必要があるからダメ。
転移、シャルが寄りかかっているからダメ。
発火、絶対ダメ。
暗視、伝わり辛いからダメ。
肥大、シャルに被害が出そうからダメ。
残りの…
「この中で擬態は安全で分かり易いのでやってみましょう」
髪を黒から輝く黄金色へ。
瞳を黒から綺麗な蒼へ。
肌を寄りかかるシャルの肌と同じ色に。
次に全身を風景と同じ色へ。
そして、擬態を解除する。
「…なるほど、確かに魔力を感じない。
魔法とは別のチカラだ」
アドルフが眼を光らせ…実際に光ってないか?
暗い黄土色の瞳から淡い緑色の輝きが溢れている。
何か魔法を使っていたのか?