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今世は運任せ  作者: サイコロ
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第11話 執事長アドルフ

俺達は館に連れられた後、まず風呂に入れられた。

細かく言うと館に着いた途端にシャルが大勢の人達に囲まれてどこかに連れ去られた。

魔力がどうの怪我がどうのと聞こえたが、あっと言う間に別の方向へ連れて行かれて姿が見えなくなった。


既にシャルの事が連絡されて待ち伏せされていたのだろう。

それは見事な一切の無駄な動きも無い集団行動でシャルが抵抗する事も出来ずに連れ去られた。

…害はないだろう。


そして残った俺は静かに風呂へと連れて行かれたのだ。


風呂か、最後に入ったのは肉塊に遭う前の念入りに洗われた時以来だったか。

あの時と同じく人に身体を洗われる羽目にはなったが…今の俺は幼子、1人では入らないと判断されたか?


風呂の面倒を見てくれる女性から服を脱げと言われたから擬態の能力を解いて身体の色を戻すと固まったがすぐに動いてテキパキと洗ってくれた。


しかし、俺の場合は洗わなくとも綺麗ではある。

夜や雨の度に熱を求めて発火を使い、身体を燃やしていたからな。

その後は熱に耐えきれず水辺に転移してしまうから毎回、戻る為にまたシャルの元へと転移を使う。


転移を使うと俺以外の物はその場に残り、俺だけが別の場所に飛ぶ能力だ。

その能力のおかげで発火によって俺の身体の一部が俺と判断されずにその場に残り焚き火の燃料となった訳だが。

身体に付いた泥やゴミ、血が乾燥して固まった物も転移で綺麗に無くなってしまう。


…その前に発火の火で燃えるのだが。


しかし、風呂に入るとさっぱりとした気分にはなるし、ちゃんとした服を貰えたのはありがたい。


…良く思い出せばこの世界で初めて服を着たのではなかろうか。

意識を取り戻す前は牢屋で真裸のだった事を考えると間違いではないかもしれない。

服を着たと言えるのはシャルの家から持ち出したベッドシーツを身体に巻き付けたぐらいではないか?


風呂から上がると丁寧に身体を拭き上げサイズが少し大きいワンピースを着せられた。

…初めて着るワンピースと下着は短パンのような物のせいかスースーとする。

腰から吊るしていた、邪霊が落とした物は後で渡すと言われて別の部屋に移動した。

少し待つとシャルも風呂から上がったのか綺麗になっていた。


金髪は栄養状態が悪かったせいか輝きが鈍く、長旅のせいで会った時よりはやつれてしまったが、泥や血で浮浪児のような姿からは打って変わって気品すら感じる。

しかし、顔が少し強張っているようにも見えた。


「キョーカ!

あぁ、良かったわ。

無事かしら?」


「大丈夫だ」


その蒼い瞳が俺に向くと安心したように笑い自分の足で俺へと駆け寄った。

別々に風呂に入ったから少し心細かったのだろうか。

だが、走れるという事は怪我は治ったのか。

やはり魔法だろうか。

便利なものである。


少し大きめで俺と似たような服を着て駆け寄るシャルを受け止めながらその後に入ってきた初老の男を見る。


この男がシャルの言っていたローガン卿とやらか?

高齢で引退したと聞いていたが、こいつか?

元はと言え、騎士団長と言うくらいだから体格がどっしりとしたイメージが有ったのだが、やけに細いな。


というか、皮と骨しか無さそうに見えるぞ?

体格は細いがその鋭い眼光で弱そうというよりも不気味と思ってしまう。

確かに、こんな怖い男と2人で居ると心細くもなるか。


「それではシャルロット様、そちらでお話を致しましょう」


シャルが落ち着くのを見計らってか初老の男が口を開く。

初老の男が足をトトンと鳴らすと、ドアから女が入って来て近くのテーブルに軽い食事と湯気が立ち上る甘い香りの飲み物を置いて行った。


「ええ、いいわ、アドルフさん」


アドルフ?

ローガン卿とやらでは無いのか?


シャルは俺の手を引いてテーブルの方へ歩き俺達に対して大きい椅子に2人で座る。

…マナーとしては悪いと思うがシャルが俺から中々離れようとしないから近くの女の人が一緒に抱えて同じ椅子に乗せたのだ。

大人でもゆったりと座れる程の大きな椅子は俺達2人が乗ってもまだ隙間がある。

…それで良いのか?


アドルフと呼ばれた男は俺達の対面するように座り俺達、シャルが話すのを待っている。


「…結界の巡回中に革命軍と名乗る賊に襲われ…両親と姉様2人が応戦したのよ。

私は…私はまだ幼いからと、帰還の指輪を使って私だけでも避難するようにと母様から言われて…」


シャルが話す。

その内容は俺も初めて聞いた。

あの屋敷が燃えた原因などシャルは知らないだろうと聞かなかったのだが…

その時の事を思い出しているのか顔色が少し青い。

賊に襲われ、両親や姉を残して己だけが逃げろと言われる。

その時の気持ちなんて俺には想像も付かないが、決して単純な物ではなかったはずだ。


「その際に賊の1人から火の魔法を使われて…気付けば結界魔法を私が継承していて、燃える部屋の中、私は1人だったわ。

その時、助けてくれたのがキョーカよ」


シャルも転移のような力であの部屋に飛んだ、という事か?

その直後に俺と会ったのか。


「キョーカは…」


話していたシャルは俺の方を見る。

俺の事を話しても良いかと聞きたいのだろう。

俺は了承を伝える為に頷いた。


「キョーカは神の加護を受けた子よ」


その後は屋敷からここまでの俺の活躍を誇張気味に伝える。

…おい、俺は火を操ったり、巨人になったりしないぞ?

どこの怪物だ?

シャルも興奮気味に話し、凄いと連呼し出した時はシャルをつついて正気に戻した。

これは後で正確な力を伝えた方が…いや、信じる事が難しいか。


アドルフは表情を変えずに聞いてはいるが子供2人だけで邪霊が彷徨く道を行くのは難しいだろう。


シャルの結界魔法、膨大な魔力からなる感知能力など。

俺の再生と発火のおかげで邪霊を倒したり、シャルが生き延びるようにできた。


しかし、シャルの話が進むにつれて、アドルフの眼光が鋭くなっていくのは気のせいだろうか?


シャルの話がこのローガーに入った所で終わり一息つきたいのか、湯気も立ち昇らなくなった甘い香りの飲み物をコクコクと飲む。


アドルフが俺の方に視線を向ける。

俺に話せという事か?

いや、すぐに視線をシャルに戻した。


「それで…シャルロット様。

我が主人、ローガン・ドルターに保護を望まれるのですか?」


「…そうね、保護も望みたいわ。

でも、結界の巡回を優先したいの。

まだ南側の結界に行けていないわ」


…初めてアドルフの表情が変わったな。

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