07.
7.
放課後。
俺は貴衣と大也の目線を気にしつつも、カイトと一緒に高校の玄関を出た。
「なあ、カイト。もしかしたら後付けられる可能性あるかもしれない。」
「どういうこと?」
「いや、さっき昼休みの時間、俺、貴衣に呼ばれたんだけど、なんかあいつ俺とカイトがただの関係ではないってのは気が付いているみたいだから。」
「ただの関係じゃない、って言ったの?」
「いいや、そんなことは言ってはない。」
危ない。本当に誤解を招くところだった。そう言いながらも校舎の裏側に歩いていくカイトを航士朗はただついて行くしかなかった。校舎の影に隠れた後、バックから陰陽石を出して、首に駆けはじめる。航士朗もカイトを真似て首から陰陽石を首から下げる。
下げてからしばらく微動だにしないカイトに「おい」と話しかけてみるが、じっと正面にある学校校舎を眺めている。
そこには貴衣と大也が窓から体を乗り出し、二階からきょろきょろと辺りを見渡している。
「こわっ!」
と間違えて言ってしまい、少し二人はこちらの方角に顔をよこしたが俺とカイトの姿には全く気が付いていないらしい。すると小声で
「また座標がずれた・・・ミツネさん・・・・」
呆れた風にカイトが言うので、座標という言葉でなにが起きたのかを察知した。
「転移門か?」
「そう・・・転移門で毎日、鬼人の本部に通ってるんだけどいっつもわけの分からないところに転移門をだしてしまったりするの。本当にこれだけは言いかげんにしてもらいたい・・・」
「そうなのか・・・」
すると、校舎の屋上から小金色が光り続けている。どうやら屋上にミツネさんは転移してしまったらしい。おそらく転移門の光を見ることができるのも陰陽石のおかげだ。
またもや、俺とカイトは学校の中を土足で上がり、人とぶつからないように、屋上へと向かった。しかし屋上に入るための扉は放課後になると、用務員さんに閉められてしまう。
カイトはそれを知らなかったのか、屋上への扉を開けようとドアノブを左右に回してみるが、当然、鍵は閉まってしまっている。するとこちらへ顔を向け手のひらを差し出してくる。
どうやら前に教室の扉をすり抜けるようなことをやるようだ。
「手を握って。すり抜けるから。」
航士朗は抵抗もなしに、カイトの手をぎゅっと握る。すると、眉間をしかめ、手をぎゅっと力強く握って体をプルプルさせ始める。
「はぁっ!」という掛け声とともに、航士朗の手を勢いよく引っ張り屋上の扉へと、全力疾走。航士朗もなんとなくカイトと一緒に顔を力みながらも、息を止めて扉へと突っ込んでいく。
目を開くと、黄金色のひかりが、目を瞑っていても感じることができた。
「はぁはぁ・・・・はぁ」
カイトはアストラル体になったため相当の神経と体力を使ってしまい、顔を苦しそうに真っ赤に染め上げ必死に肺に酸素を送っている。
いつまでもカイトを見ていてもしょうがないので、前方の転移門に目をやる。
そこには、転移門を出しっぱなしにしたままこちらに手を振っているミツネさんと、屋上の鉄格子に頬杖をかいてつまらなそうに学校の様子を見ているヒビネさんが待っていた。
しかしカイトのあまりにも大きい息継ぎに流石に気付いたのか、見返り美人のようにこちらに髪を舞うようにしながら振り向く。
「おお、君!来たね~。」
その学校中に響きそうな声も人間に届いていないと思うと寂しい感情になる。
「あ、はい、今日からよろしくお願いします!」
この掛け声をすると部活動時代がフラッシュバックする。
「お。昨日とはまるで別人みたい。もしかしてカイトに気合を入れ直されたの?」
「まあ、そんな感じですかね。」
どうしてもヒビネさんの前では丁寧語になってしまうようだ。
「それじゃあ、行こうかカイト、航士朗。」
ミツネさんに初めて呼び捨てで呼ばれた。認めてくれたのだろうか。なんだかとても嬉しい。
いつの間にかそばにいたカイトがいなくなっていた。おそらく俺がヒビネさんに見とれていた間に転移門から鬼人の支部局に入ってしまったのだろう。カイトの霊への闘争心か、または殺意のようなものを恐ろしく感じる時がある。恨みというのは時々、人をも洗脳する。下手すれば人間はなにかに憑りつかれていなければ生きていくことに必死になれないのかもしれない。
そうして、ヒビネさんとミツネさんの先に転移門に入っていく。