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月下のアストラル  作者: カネミズ
5/15

04.


4.

転移門を出ると、そこは薄闇の橋の前へと出た。辺りは木々が揺れ、体に悪寒を感じさせる。

「あのいいわね」

そう言うと、ヒビネさんは薄っすらではあるが、ほんのり膜のようなものが体から流れ出していることに気が付いた。その姿からなにか学ぼうとしているかのように凝視しているカイト。

ヒビネさんは木の枝を確認し軽くジャンプすると、空中に漂い続け、泳ぐように木がたくさん生えている森に向かう。

その奇妙な光景を何も言われず、見せられた航士朗は、目の瞳孔をひたすら大きくするしかなかった。

「はいはいはい~ちょうどいい枝見つけてきたよ~」

ヒビネさんが手に持ち帰ってきたのは直径五センチ、長さ一メートルほどの木の枝だった。

「はぁ~、院内銀山の霊は何度消しても浄化できないんだよな~」

「それはそうです、怨念が強いですから」

浄化?怨念?もしかして霊媒師?それとも陰陽師かなんかか?

「あの、もしかして幽霊除去とか、オカルト系の仕事なんすか?」

俺はおもわず、怖くなって聞いてしまった。それは今ある状況の怖さもあるのだが、それよりもしかして自分がすでに黄泉の国の手前まで来ているではないかという思考があるからだ。

「だから、言ったでしょ説明するより見せた方が早いって」

ヒビネさんは木の枝を左右に切り払ってから、俺の顔を見てはっきりそう言う。するとみるみると枝にすら薄い膜がおおわれていく。

しかしその言葉はすぐに現実のものとなったのだ。

橋の向こう側から教室で見た人型の薄透明な影がのっそのっそとゾンビのように近づいてきているのがはっきりと見て取れた。

「すでに、漏れ出ているようですね」

ミツネが顔をひどく厄介そうに歪めると、カイトが軽く頷く。

それに対してヒビネさんは楽観的に、

「楽勝、楽勝、こんなの三十分で行けるでしょ、カイト、ミツネ!」

そして、ミツネさんのすらっとした体にもヒビネさんと同様に薄い膜が体から流れ出す。

「あ。君は見学ね、ここで見てて、これが私たちの仕事だからっ!」

すると地面に足が付いていないまま、物凄いスピードで橋の向こうの影に枝を片手にかかっていく。その動きはさながら舞空術。

「おらおらおらおら~!」

軽く枝を振ると、影が嫌がりながらも消滅していくことが見て取れた。すると加勢するように

ミツネも木の枝を振り回し、同じく影が消滅している。

二人が人型の影を倒している中でも、俺はまだその真実に直面できないでいる。

これはなんだ?なにをみているんだ?と。世界がよく分からない、自分が誰なのか分からなくなってきた。頭の中で今日の一日を図面化していく。

コンビニでメット姿の女性と合う。

昼飯中に突然に誰からも視覚されなくなる。

カイトが見えている。

バスにのせられ、イケメン男が突然と現れる。

人混みの所へ瞬間移動。

今朝あったメット姿の女性がジャージ姿で現れる。

急に仕事がなんチャラで、再び瞬間移動。

そして今に至る。

「はぁ、はぁ、はぁ。」

頭が混乱してきた。これはどうなってるんだ、頭がおかしくなりそうだ。ここはどこだ。

すると、その困惑にさらに追い打ちをかけるように隣で「ふん、ふん!」と踏ん張っているカイトがいる。

 カイトはその後、再びエンジンの調子が悪い車のように力を入れると、体がヒビネやミツネと同じく薄い膜がぼわんっと飛び出るように出てくる。

「よし!やっとでた!」

そう言うと俺を一度一瞥した後、カイトも空中を飛ぶようにした後、滑空し加勢していく。

橋を渡り終えた先で激しい一方的な駆除、が行われている。

ヒビネさんは枝を三国志の呂布のように。ミツネさんは慎重に近づいてくる影を倒している。

カイトも眉間にしわを寄せながら、近寄ってくる影を枝で切り捨てている。

「おぉ~~らっ!」

最後の一体であろう人型をした影をヒビネさんは、手に持っていた枝を槍投げし、影の体に突き刺さる。影はうめき声を上げながら抹消されていく。

 突き刺さった枝が虚しく、コロンッ。と音を立てながら、地面に転がり落ち、それをそっと拾い上げると美女はこちらに向き直り、満面の笑みを浮かべる。

「いぇい!どうよ、これが私たちの仕事だよ!すごいでしょ!」

と、彼女が言い終わると、体の薄い膜が消えさっていく。それに続いて、「ふぉん」という効果音と共にミツネさんも纏っていた膜を解除する。しかしカイトに関しては解除というよりは囚われからの解放と言った方が早いだろう。

「はぁはぁはぁはぁ」

すっかり真っ暗な空を瞼を閉じながら仰ぎ、腰に手を置き、息継ぎを激しく繰り返している。

「お疲れカイト、前より長く保てるようになったな」

ミツネはカイトの肩にポンポンと軽くたたく。

おそらく二人は、先輩と後輩関係なのだろう。俺も似たようなことを部活をやっていた頃先輩にされたことがある。

そんなことを思っていると、橋の先にいる三人の下から、蛍のような丸い光のたまが天高く登って行く。丸い光はそのまま、山の奥の方角へ吸い込まれるように戻っていく。

「再生霊・・・・」

そうぼやくカイトにミツネとヒビネが飛んでいく丸い光を、一瞥した後、すたすたと俺のいる方角に戻ってくる。そして、目の前に弁慶のごとく仁王立ちで構えるヒビネ。

「これが、私たちの仕事よ、それでなんだけど・・・・」

「いや、やれるはずありませんよ彼に。」

カイトがわざと「航士朗」と呼ばず、「彼」と呼んだのは検討がつく。

「ヒビネさん、前も似たような子を誘って断られたじゃないですか」

ミツネもカイトに続いて口をはさむ。

「う~ん、なんだよ二人ともそんなに新しい仲間ができるのが嫌なの~」

「そ、そんな!そういう訳ではないんですけど、普通の人間にできるかどうか・・・」

「また、それ・・・自分が一家そろって鬼人家系だからって普通の人間にはなかなかできないと思ってるんでしょ」

「そんなこと思ってないですよ!」

焦るように素早く訂正しようと必死になっているミツネ。

「それで?君の判断によるんだけど~、せっかく私の落とした陰陽石を拾った縁もあるんだから、もしよかったらだけど・・やってみない?私たちの仕事」

すごくカイトには睨まれ、ミツネさんは不安げな顔をしてみている。それとはまるで対称的にニコニコとえくぼを創り出しているヒビネという女性。

「あの、俺・・・」

「俺、俺?俺?」

期待の顔を航士朗にだんだんと近づけ、俺に『やる』というように促してくるヒビネという女性。

「や、やってみます、なんか面白そうだし、大学までの・・・・」

「面白そう?航士朗、ふざけてんの!」

カイトが顔を赤面させ、罵声を浴びせてくる。どうやら失言してしまったらしい。

 『やってみる』という俺の意見に怒っているのか、それとも面白そうと言ったことによりプライドを傷つけてしまったのかまったく分からなかった。

ヒビネさんがカイトの口を抑えつけながら、喜びの笑みを徐々に爆発していき、

「やった~!じゃあ支部長に報告しなくちゃね。記憶消すのはもううんざりだったの」

「うんざりだったら、ボランティア感覚で陰陽石落とさないでくださいよ~」

ミツネさんがため息まじりに注意しているがその言葉はまったく美女の耳には届かなかったらしい。

「さっきから気になってたんですけど、記憶消すってどういうことすか?」

「ああ、もし君がやらないって答えたら、私があなたの石を拾ったあたりの記憶から全て消滅しなくちゃなんなかったの」

「え?は?」

「つまり・・・・あれ、君、名前なんて言うんだっけ?」

「あ、俺、大阪屋航士朗っていいます!」

「ああ、航士朗くんね、よろしく。」

ヒビネさん同様ミツネさんも満面の笑みを浮かべる。

「ええっと、だからつまり簡単に言うと、今の通り幽霊を倒すのが仕事なんだけど、このことは世間にはばれてはいけない規則になってて、だから記憶を消さなくてはいけないんだ」

「記憶って消せるもんなんだ・・・」

「そうよ、こうやって。」

ヒビネさんの透き通った肌が俺の額にそっとつく。

特になにも起こる気配はない。しかし、まつ毛の上あたりがほんのりと発光していることが分かった。

「はい、こんな感じ」

その言葉の意味が分からないまま、頭の中がだんだんとホワイトアウトしていく。

気が付くと俺は知らない橋の上にいることに気がつく。そして目の前には、髪を夜風になびかせたジャージ姿の女性と、長身の男、そして怒り顔のカイトが立っている。

夢?誰だこの人たち?妙にリアルだ。

「大丈夫かな?」

ジャージの女性が心配そうに俺の顔を伺ってくる。

「急に記憶なんて消すからですよ!」

長身痩躯の男が注意を促している。男の隣にいるカイトはじっと俺を睨みつけている。その異様な光景に夢だと思う他ない。俺はどうやら立っているらしい、夢の中だとはいえ、とてつもなく現実に近い。夢なので言葉はなかなか発せない。

「ごめんね、今戻すから」

そう言うと、ジャージ姿の彼女は額にそっと手を当てる。頭の中の空虚なホワイトアウトはだんだんと色味を帯びてくる。今度は夢だと思っていた感覚もしっかりと記憶された元の状態へと戻っていた。

「記憶戻った?」

「・・・・・・はい」

俺は気を確かめるように左右に首を振る。夢の中では立っていたがいつの間にか橋の上で、大の字になって横たわっていた。

「本当に消せるんですね、はは、すげえや」

ヒビネさんは手を差し伸べてくる。よっと、俺の体を持ち上げると、「ふふふ」と笑って見せる。

「で、本気なのあんた・・・・あんたみたいのが一番腹立つ!」

俺に元々キレ気味なところがあったがそれ以上に沸点を上昇させている。

「そんなこと言うなよカイト。もしかしたらカイトみたいに本気でやってくれるかもしれないだろ。」

ミツネさんがカイトをなだめるように言ったが、それでもまだ期待はされていないらしい。

まだ会話の意図が読み取れないが、三人は話の進行を次々と進めていく。

「じゃあ、今日はこんなところね。本部に戻りますか」

ミツネがそう言うと、カイトは睨みながらも軽く頷き、ヒビネさんは俺の肩に腕を回してから、

「じゃあ、支部長に報告だ!」

はりきりの声を上げ、髪の毛を一本抜く。

橋の上に転移門が開き、そのまま俺は中へとヒビネさんと共に入っていった。

その後に続いて、ミツネさんとカイトも入ってくる。



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