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月下のアストラル  作者: カネミズ
4/15

03.

3.

航士朗の肩あたりまでしかない転移門をかがみぎみにくぐって中に入った。

入る寸前から聞こえていた喧噪がさらに体全体に浴びせられる。そこは大広間で天井がどこまでも伸びており、二階、三階、四階とショッピングモールさながらの階層が天井どこまでも続いている。

本来ならブティックが軒を連ねていそうなその建物には、入店できそうな店はなく代わりに本が隙間余すことなく式詰まられている。

日本人らしき日系人は少なく、外国語が飛び交っており、どこもかしこも鼻の高い外国人や、中にはターバンを巻いたいかにもアジア系といった人物も多々見受けられた。

俺は、生まれて初めて度肝を抜かれるという感覚に陥ったことに気が付いた。今までの航士朗は、ただ学校に通い、バスケで汗を掻き、大也や貴衣と語り合いながら帰宅して・・・・という極ふつうの生活を送っていたのだから、驚きなんて監督に怒鳴られるくらいだっただろう。

「ありゃ、変なとこに転移してしまった、わるいカイト少し歩くよ」

「大丈夫です、バスの中でしたし、座標がずれるのは仕方ありません」

すたすたと歩いて行く二人に航士朗もついて行くことにした。

周りには、すらっとした外国人もいれば図体の大きいアイスランド人のような恰好をした勇ましい男性もいる。数々の人の壁を慣れているのか、流れるようなスピードで抜けていく二人を見失わないように、航士朗も必死について行く。

するとだんだん人気が薄くなり、アーチ状の大きな扉が目の前に接近してきていることを察知した。アーチの上には有名人のサインのように「JAPAN」と擦れかかった文字で書かれているのが見て取れた。こんなに古風に描かれている「JAPAN」は初見だ。

 ミツネさんと言われている長身の優男は躊躇なく重たそうに扉を開け、入室していった。

カイトはその扉が閉まらないよう一度手で押さえ航士朗を一瞥したが入室する。

「冷たい奴・・・」

とぼやきながらも再び閉まりきった扉の前に立ち尽くす。今にも軋んでガタガタと音を立てて壊れそうな扉を開いた。

入室すると誰もいないんじゃないかと思うくらいの静寂。中は円形広場になっており、さっきまでいた大広間と同じ高さの天井を誇っていた。

しかし、それでもカイトとミツネはすたすたと広場中央に歩を進める。

まったく気にしていないその態度に航士朗は不思議と除け者にされたみたいで癪だった。

普段は隣に誰かいて、誰かと話していて、他人がいることによって俺という人間は形成されていたーーーーということに気付かされる。こんなところでそんなちっぽけな自分の存在に気付くなんて思っていなかった。俺からバスケを抜いたらなにが残るだろう。俺から人間関係を抜いたらなにが残るんだろう。そんな虚無感に陥りながら、こんな現象に驚きはあったが心のどこかで期待していたのかもしれない。何か起きてくれないかな・・・と。

しばらくすると広場中央で二人は足を止め、扉前で立ち止まっている俺に視線を向けた。

高身長なイケメンがなにやらカイトに耳打ちをしている。その動作に従ってか、

「ねえ、こっちきて」

と手をパタパタさせながら、示唆してくるカイトに俺は嫌悪の眼光を向ける。それはそうだ。

体が見えなくなり説明もなしにこんなところに連れこまれて、癪になるに決まっている。

しかし、どうやらカイトはそばのイケメン男に指示されたらしく、航士朗は大広間中央に近づいていく。

「で、僕たちのやっていることは知ってるんだよね?」

と、当然のことのようにイケメン男が聞いてくる。しかし俺は微塵たりともなにも聞いちゃいない。

「え、いや特になにも聞いてないですよ」と航士朗は疑問顔を浮かべる。

「あれ、もしかしてカイト何も教えてないの?」

「はい、どうせ記憶消すだけですから教える必要もないかなと」

その「記憶を消す」という言葉に過剰に反応してしまう。

「き、記憶!?」

俺の反応ににらみを利かせるカイト。

「だめだよちゃんと教えないと、もしかしてやってくれるかもしれないじゃないか」

「それはありません、多分前と同じパターンですから」

すると、突然、中央左側に六芒星が描かれていく。その転移門からはぶぉんぶぉんというエンジンが徐々に近づいてくるのを感じた。

そこから現れたのは上下ジャージ姿のすらっとしたプロポーション。艶のある黒髪。

一言で言うなら、そう美人。しかし、それが誰かなのか俺は頭の中ではっきりと連想できている。でも朝とは服装が違う。

「あっ」と航士朗が言いかけたところで彼女は目をまんまるくして。

「あれ、君!コンビニの男の子!」

バイクをその場で横転させ、勢いよく近づいてくる。その表情はまるで幼子。

「あ、どうも、今朝あった・・・・」

航士朗が言いかけたところでミツネが話をちょんぎる。

「ヒビネさん、いい加減にしてくださいよ、これ以上寄付感覚で陰陽石おとされたらこまります。支部長に注意されるのは自分たちなんですからね」

と疲れ切ったサラリーマンのように言い出す。

「だって私にだけサポートいないし~、みんなタッグでやってるのに私だけ、一人はさびしいじゃん」口をとがらせ左右に何回か首肯する。

「だからって・・・」色男の困り顔がため息を吐く。

「で、ヒビネさん記憶を早く消してください」

そのカイトの声にぎくっっとしながらも、彼女は否定の意見を述べる。

「ええそんな~、まだこの子がやらないって決めたわけじゃないよ~」

一人だけ話についていけず、置いてけぼりにされる航士朗。

「ねえ、君」

さらに、美人の顔が朱色に染まった航士朗の顔に迫ってくる。

「は、はい」

「あれ~もしかして何も聞いてない?カイトが何も教えてくれなかったのか~カイトも恥ずかし屋さんだな~」

そう言いながら、彼女は軽くにやけ、目を細くしカイトを睨む。

「いいから、早く航士朗の記憶を消してください、学校まで届けますから」

顔を嫌そうに歪めながら、頬を赤く染めあげている。名前を呼ぶのが嫌なのか?

小学生依頼に名前を呼ばれ少々驚いたが、カイトに聞き返す。

「さっきから記憶消すってなんなんだよ」

無表情のままカイトに無視される。俺って嫌われてるんだっけ?思考が過去に連想する。

「だから言ってるじゃない、この子ならやってくれるわよ、ねえミツネ?」

「で、でもヒビネさん普通の人間がアストラル体になれるかどうかですけど・・・」

「そういったら、カイトだって普通の人間・・それどころか私も普通の人間だよ」

そのわけの分からない事をひたすら聞かされながら、場違いさを味あわされる。

「あの、普通の人間とか、アストなんとかってなんなんすか、さっきから」

少しキレ気味に会話を続けている三人に話しかけた。

三人が一斉に俺の顔を見てくる。

「う~ん、それはそうだよね、だから~」

そう言って腕を組んで「う~ん」と、悩むポーズを取り出す。そして。

「やっぱダメだ。考えて説明するのは私は嫌いなの、考えるより私たちのやってること見て見てよ」

その直感的な美人―――ヒビネさんという人物の人間性が現れた発言に呆気に取られる。

「よし、じゃあ、せっかくだからミツネとカイトも一緒に手伝って」

話を切り替えて、カイトとミツネに趣旨を伝える。

「ええ~そんな~やっと今日のノルマクリアしたと思ったのに~」

「大丈夫です、行きましょう」

ミツネはうめき声を上げ、カイトは闘志をぎんぎんと燃やしながら答える。

「ええっと、確か場所は院内銀山よ」

「そんな~、あそこは倒しても倒しても出てきますから、嫌です~」

「ミツネさん・・・・」

ミツネさんに呆れたのか溜め息まじりに声をあげる。

おもむろにヒビネさんは艶のある長い髪を抜いて、辺りに撒く。円形広場がミツネ同様、琥珀色の光に包まれ、六芒星の転移門が激しく光り輝いている。

先に躊躇もなく、カイトとミツネが転移門に入っていく。

その流れでヒビネも入ろうとするが、入る直前で止まりこう告げられた。

「怖いの?この門は待ってはくれないよ」

と満面の笑みを浮かべ、転移門の発生による風圧により、ヒビネさんの髪も微笑んでいるように揺れている。そしてミツネさんと似たようなことを言いだす美人に俺は心揺さぶられる。

「はい!」

運動部らしい通る声を発して、俺は走りながら転移門に入った。首元に薄っすら光る緑色の石が輝いている。





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