01.
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カーテンに日差しが入り込み、部屋の中はカーテンの黄金色に包まれている。
なんかいつもより、気持ちがいいなと思い心の違和感にふと気が付く。
あれ、今日って平日だよな、なんか土日みたいで気持ちいい。
あれ、今日って平日か、てことは学校行かなきゃいけないのか。
あれ、俺ちょっと寝ぼけてないか、今何時だ?
あれ、七時?いやー、まてまて嘘だろ、八時だ。
かぶっていた布団を跳ね起きるように豪快に床に落とす。
髪は漫画の主人公、顔にはよだれの乾燥跡が口の横を一直線に伸びていた。
「なんで、起こしてくれなかったんだよ」
とぼやきながら、急いで部屋を出て、アパートのリビングへ向かう。
廊下で小指を痛め、壁に幾度か衝突して、リビングの扉を開ける。
「なあ、母さん、俺今日学校なんだから起こしてくれよ」
腹の虫が収まらずついきつめに言ってみたが、返事はなくいつもなら開いているベランダのカーテンもしまったままで、ソファーの上には脱ぎ捨てられた母親のパジャマが死体のようにくたびれていた。
母さん?そう呟きながらリビングの中に入って行く。それでもまだ返事はこない。
まさか、台所で刺されて死んでるんじゃないだろうな。母はそれくらい破天荒なのだ。
死んだふりをして、脅かすために僕が起きてくるまでずっと、倒れたふりをしているような母なのだ。
恐る恐る見て見るが、そこには人影もなにも、洗いおわった食器すらしっかり棚にしまわれていて、物音ひとつしなかった。
まじでどこ行ったんだ?でも、母さんのこと気にしている時間はない。どうせきっと、ゴミでも捨てに行ってるのだろう。自分も気持ちを切り変えなくては。
八時半まで登校しなくてはいけない、じゃないと皆勤賞が狙えない。小さなものを目標にこつこつ頑張ってるなと高校三年生になって今頃付かされる。
意識を切り替えて、部屋に戻ってブレザーに着替えようとした時だった。
眼の端で、テーブルにポツンと、白い紙が置かれていることに反応した。
白い紙には殴り書きでこう書かれていた。
『ごめ~ん!今日仕事私も早いの忘れ(解読不可)、悪いけど、これで、コンビニでお昼ご飯買って食べて~!』
母より。の部分だけがやけに達筆に誇張されており、母が言いたい意図を理解した。
紙の裏には野口英世が二人こちらをじっと見ていた。
なんだか、急いでいた母を想像するだけで、クスッとなってしまったが、飯代をはずんでくれたようなので、そこのところは尊敬しよう。
俺は野口さん二人を掴み、急いで自身の部屋に戻り、制服に着替えはじめた。
急いで部屋を閉め、靴を乱雑に擦るように履いて、玄関を出る。
玄関のカギは掛けたあと、花がしなれている小さなプランターの下に隠しておく。
外はすっかり、朝になっていたので、ほんのり日差しが顔に当たり、一瞬顔をしかめ、
急いでアパートの横に掛けられている錆びついた階段を降りて、自転車にまたがる。
そして、目覚めていない頭の中で自分が今行わなければならないことを図面化していく。
学校に行く途中にコンビニはあるが、そこのコンビニはなんとなく好きになれなくて、学校とは真逆の大手のコンビニに行くことに決めた。
真逆ではあるがアパートのわりと付近に大手のコンビニは存在する。
しばらく立ちこぎして、座って、を繰り返しているといつの間にかコンビニに付いていた。
先週も登校前にこのコンビニを利用し学校で読む用の週刊少年ジャンプを買うために立ち寄った。その時は時間に余裕があったので、他校の制服姿や、出勤前の人々が忙しそうにしていて、コンビニの入店時に鳴るBGMが鳴りやまなかったし、焦る気持ちなど微塵たりともなかった。
しかし、今は逆。まず、お客らしき人は少なく、店内は入店BGMが響くほど。いつもより静かだった。急ぎながら僕はおにぎりのコーナーに直進した。
店員さんも暇なのか、僕がおにぎりを選んでいる様子をじっとレジの前で見ている。
起床してあまり時間がたっていないので、あまり油ものは見たくない為、質素なおにぎりを大量に朝ごはんの分も含めて大量に買い、野口さんは小銭に風変りした。
「はい、いってらっしゃい、がんばってこいな~」
店員さんのなまりと気前の良さに心がリラックスしたが急いでいたことを思い出す。
「あ、はい、行ってきます!」
こう言った人情あふれる所も田舎のいい所なのかもしれない。逆に変質な行動をすればすぐに周りに周知してしまう。これもわりと多く起きることで、隣町の情報すら時には入ってきて、恐ろしく感じる。
コンビニの入店BGMを鳴らし、コンビニの前に止めた自転車へと駆け足で向かった。下シャツが汗で体に染みついているのを感じ、嫌な感覚に陥る。
―――――その時だった。
来る時にはいなかったバイクが自分の自転車の前に止まってあった。
駐車場に止めなきゃいけないんじゃないのバイクって?と思いながらも自身の自転車に近づく。
そのバイクに乗っている彼女は、黒いヘルメットを被り、流れるように長い黒髪がはみ出していた。俺よりは長身な彼女は、ジーンズが長い足にフィットしていて、細身の体がよく分かるファーの付いたモッズコートを着ている。
こちらが、視線を向けているのに気が付いたのか手を勢いよく挙げ、
「よっ!」とテンションの高い挨拶をしてくる。
僕は軽くうなずき、会釈をしておく。
朝から元気な人だな、この町の人にしては破天荒な人だな。そんな印象を覚えた。
自転車のかごに買ったばかりの大量おにぎりをあずける。するとバイクのエンジン音が消えて、
足音がこちらに向かってくるのが分かった。
「ねえ、君、私のこと見えてるの?」
「え!」
「あはは、なんでもない」と言いながら肩をポンポンされる。
そう言ってヘルメット彼女は、メットを被ったままコンビニに入って行こうとした。
その異質な光景にハンドルを握ったまましばらく硬直してしまい、通報されるのではないかと心配癖の強い俺はそう思った。黒髪ロングの彼女は店内に入っていき、すると入店BGMがならない?鳴らないと言うか、自動ドアが反応しない。
――――――――――ドアをすり抜けた。
ええ!?
そのまま、店の奥にすたすたと平然に直進していき、俺は不思議を頭の中で連想させながら出てくるのを待った。それから一分もたたないうちに、また自動ドアをすり抜け出てきた。手には一つのおにぎりが握られており、俺がまだいることに気が付くと、こちらに勢いよく駆けてくる。
彼女は、おいしそうでしょ。と言いながら俺の顔前におにぎりを見せつけてくる。
おにぎりには【昆布】と緑色のシールが張られており、それをもう一度自ら確認しだす。
じとーーっと見た後に、
「何て読むか分かんないわ」と笑い混じりの声に俺も愛想笑いを浮かべる。
すると、ヘルメット彼女は、俺のかごに入っている、大量のおにぎりに気が付いた。
「あ!同じだね!こんなにたくさん。オレンジのも、茶色のもあるじゃん」
左腕を突っ込んで、俺のビニール袋の中をごそごそといじくり回す。あ、同じのあるじゃん。
そのいま時の口調からして、多分年齢は若いんだろう。
ビニール袋の中をぐりぐりといじくり回して、中のおにぎりの種類を一個一個裏返っているのも確認する。
「これ、全部きみが食べるの?すごいね、私より九個も多いよ」
喋り方がなんだか幼い。そう感じだ。
「あ、はい!僕結構食べるんで!」
俺特有の運動部テンションて答える。これでも、三年間バスケをやってきたのだ。
「元気いいね~。私、あんたのこと気に入った!」
「あ、あ、ありがとうございます!」また同じく部活テンション。
そして彼女はおにぎりを腹部のポケットに入れて、バイクにまたがり、クラクションを鳴らし去って行った。俺はなんか寝ぼけてるんだろうと思い、俺の都合のいい脳内回路にうまく補正されてしまった。