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月下のアストラル  作者: カネミズ
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13.

13.

 目が覚めたのはあれから三日がたった頃らしい。体の下から感じるのはふわっというなんとも久しぶりのベットというやつだ。まるで浮いているみたいだ。ゆっくり体をそのフカフカに体を預けていると、左方にあるべっこう飴のような色をした扉が『ぎぃぃ』という音を立てながらゆっくり開いてくる。そっとそちらの方角へ目をやると、服装も髪もまるで別人の姿になっているカイトの姿が。服は白い軍服のようなものを着ており、あの長い髪はバッサリと切られショートカットになっている。

「あっ!航士朗!」

なぜだか知らないけれど、「まずい」と思ったのは間違いじゃなかった。厚みのある布団にダイブして、俺の口から『ぐふっ!』というカエルのような声を出させる。

「ヒビネさん!ミツネさん!航士朗が起きました!」

完全に開ききった扉に向かって叫びだすカイト。カイトの声も久しぶりだな~。と思いながらカイトを一瞥する。布団の上で半分泣き目になりながらもこちらを必死にみているカイトに思わず笑いそうになる。そして扉の奥から複数の騒がしい足音が耳に届いた。

「航士朗!」

その初めて口にしたであろう俺の名前を当然のごとくヒビネさんは言ってのける。

「「航士朗くん!」」

異口同音で俺の名前を叫んだミツネさんとコトネさん。しかし三人の姿を見て再び驚かされる。全員がカイトと同じ白い軍服のような服装をしている。

「すみません。ここは・・・・」

四人は顔を見合わせながら、一度深刻そうな顔をすると『ぱあ』っと花が咲くみたいな笑顔に変わる。その後四人は俺の四方八方に座り込んでこの三日間の出来事を話し出した。

俺が意識がなくなった後、イブネさんとザブネさんの遺体は火葬したらしい。そして今ここはどこなのかという問題へと突入した。ここは新たに新設された鬼人本部だと言うことが分かった。しかしその存在はトップシークレットで反逆団には気づかれないよう結界が張られている。ここの支部長はヨーロッパ支部の支部長が務めているということだった。その鬼人は昔から鬼人からも恐れられるような存在でヒビネさんやミツネさんも彼なら当分は安定して鬼人として活動できるとのことだ。しかし、反逆団に対して手を緩めることは一切これからもないという。逆に彼ら反逆団も私たちに対して邪魔をしてくるのは確かだろう。窓からはロンドン塔が見えることがあるらしいが、時々赤いタワーや綺麗な円錐状の山が見えることがあるらしい。とにかく場所はどこに存在しているのかは誰にも分からないらしい。知っているのは支部長さんと側近の方々だけだ。本業の霊退治をしている鬼人は今この支部にいる人だけらしい。

そして新たに決まったルールとして、活動は支部ごと動くこととなった。霊を倒すときにも、一人や二人と言った、単独行動をできるだけさけるよう作られたルールだ。反逆団に襲われないように。ということと、これ以上反逆団側に行かれても困るからという理由でできたルールらしい。だから俺が霊退治に行くとなれば今いるこのメンバーを含め、日本の鬼人全体と一緒に活動することになる。

「それで、みんなが来ているその白い軍服は・・・・」

「ああ、これね。後で航士朗にもあげるけど、これを着ていない鬼人は反逆団としてみなす対象になるから。だからこれからこれを着用していないだけで取り押さえられるか、または気絶や悶絶させられるわね。」

ヒビネさんが坦々と説明してくれてはいたがそんなことより、ヒビネさんが航士朗と呼んでくれていることに感動する。微笑みながら喜んでいるのは照れている思春期の男だ。それをじっと凝視しているカイトは気色悪そうに眺めている。

「それで俺たちはこれから・・・どうすればいいすかね・・・・」

イブネさんやザブネさんの事を頭の中で連想させながら言い募る。

「そんなに落ち込むことないよ航士朗くん。君はちゃんと戦ってくれたんだから、今度は二度と同じようにならないように人間たちを助けようよ。反逆団もちゃんと更生させよう。」

いつものミツネさんならいつでも不安げに落ち込んだ風に言うのだがそんな事もない。みんなそれぞれきっぱり前へ向き直っている。もしかしたら死ぬのなんかこの人たちにとっては立派なことだったりするのかもしれない。ふとそんな事を思いながら、俺も若干微笑み返す。

「それで航士朗はどうするの?家に何か言いに行かなくてもいいの?」

「言いに行くって、何を?」

そっか、俺はもう人間からは視覚されないんだった。誰からも。

「カイトはどうするんだよ。家に何か言わなくていいのか?」

「荷物だけは持ってきたわよ。服だったりいろいろ。それと置き手紙。」

置手紙?

「なんだよ。『ありがとう、家出します。』ってか?」

「まあ、そんな感じかな。」

お茶らけた風に言ってみたもののまさかの図星だったらしく、ひどく顔を赤らめているカイト。

じゃあ俺も母親に何か言わなくてはいけないかもな。というより置手紙。なんて思うだろう。どうやって怒るだろうか。そんなことを考えてしまう。勝手にいなくなって戻ってきたと思ったら置手紙で出ていきますなんて書いていたらなんて思うだろか。

「じゃあ・・・・・俺も家に何かしら言わないとダメだな。言いたくはないけど・・・・」

「ん?行かないの?」

部屋のドアを白い軍服姿のヒビネさんが開けながら、こちらを見ている。

「あ、いや・・・・・・・い、行きます。ちゃんとみんなみたいにきっぱりと決めてきます。」

全員は不思議な表情をしながら俺の顔を見ていたが、そうなるのも当然だろう。

 それから俺も、皆の着ている軍服を着てみる。なんだか今までにないくらいぴったりで、いつもは制服を着ていたのに、今ではすっかり着ていたことすら忘れてしまった。

随分遠くまで来てしまった。元いた場所のことすらすでに覚えてはいない。もしかしたら自分がいる場所なんてものは無いのかもしれない。俺はずっとないものを必死に探していたのかもしれない。答えは自分が持っていたとは今になってようやく気が付いた。ようやく航士朗も鏡の前の軍服姿の自分を確認し、少しかっこよくなった自分に照れながらも微笑んでいると、

「航士朗、準備はいい?」

「準備ってなんの・・・・」

「え?それは家に行くに決まってるじゃん。」

「あははは。ヒビネさんなに言ってるんですか。もう俺ひとりで転移門だせますよ。」

そう、俺はもう一人前の鬼人になったのだ。だから一人でどこへでも行ける。自分の力でどこへでもいけるのだ。ってこうやってまた変に調子乗っていると焦ってバカしてしまうので気を付けなければとしぶしぶ思うのだった。

「そっか・・・・そうだった。」

ヒビネさんは残念そうにそう言うので、航士朗も残念そうに首を縦に軽く頷かせる。

そのあと着替えていた部屋で俺は家の自分の部屋をイメージする。イメージしたまま髪を抜いて、辺りに適当にまく。するとそこから転移門が出現し豪快な音を立てながら六芒星のマークのついた転移門が目の前に現れる。これで門を出すのは二度目だが、初めて転移門を見たときのことを覚えている。それはバスでミツネさんが出した転移門だった。なぜか今になってそのことを思い出している。そして俺はゆっくり歩を進ませて、転移門をくぐった。

そこは見慣れた風景に嗅ぎ慣れた家の臭いがした。家には母親はいなかった。仕事に言ったのかはたまた俺を探しているのか、どっちにしろ母がとりそうな行動パターンではある。

俺は、ある程度の荷物をまとめて、母と十八年間過ごしてきた、アパートを後にした。

 その後、バイクで登場したヒビネさんと少しのドライブをし、桜を見た。

「花火大会があるまでブラブラしてる」と言いながら彼女は去って行った。

俺にはもう、人から姿を認識されることはもう二度とないだろう。

でも、俺は生きてる感じがする、一人ひとりが世界を平和にできるならと心の底から俺は思う。俺にはもう怖いものなんてなにもない。そんな根拠のないことを言い切って見せる。

「多分、今日までの苦労はこのためにあったんだと俺は思った」

そんなことを何となく呟いてみた。だから俺はみんなの笑顔の為にこれかも頑張っていく。アンパンマンみたいなこと言っているかもしれないがそれでもそう言いたい。みんなにみられてないっていうのはちょっと達成感はないかもしれないけれど、これでみんなが笑って暮らせるなら、俺はなにより嬉しい。


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