10.
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俺達一行はその後、宿を後にしてアメリカの鬼人を仲間にする活動を行うことになった。
始めは支部長イブネさんの仕事仲間であった人物たちと会うことになった。
アメリカでも日本支部同様に反逆団の手が及んでおり、参加する派と参加しない派に分かれていた。その中でも俺達と同じく仲間を募って戦おうという鬼人はアメリカにもいた。
アメリカの仲間たちは、廃墟と化した工場を拠点としており、探すのが一苦労だった。
そこで初めて知ったのだが、転移門は場所や人物を頭の中で想像し、髪の毛を抜いて転移門を創り出す。それが一連の流れらしい。もし宇宙を想像して転移門を作ってしまった場合・・・と考えてしまうとぞっとする。
「君たちも、反逆団から逃げてきたのか?」
支部長が日本語で話しかけると、いかにもアメリカの支部長的な男が流暢に英語で話し始める。
そんな一気に話されても分かるはずがない。最初はそう思ったがそんなことはなくなった。
支部長イブネは相手に日本語で話している。しかしアメリカ鬼人は英語で話したままだ。
それでも意思疎通はできていて、見るからに全員がアストラル体になっている。
「カイト、これって・・・・」
カイトは一度、目だけで一瞥し、口を開く。
「気体は人の雰囲気や人間性を察知できるエネルギー、そして霊体は心で感情や思いを感じて現れるエネルギー。じゃあアストラル体は?」
いきなりの質問だったので言葉が見つからない。どうやらカイトは俺がこの質問を解けるか試したみたいだ。
「あ、あれだろ。アストラル体は、ほらーあれだあれ。」
カイトは大きくため息を吐くと、いかにも「あわれだな」と慈悲の眼をこちらに向けてくる。
「アストラル体は魂で動かしているの。そしてアストラル体は魂から出ているエネルギーとも言われている。だから使いすぎると魂がなくなり死んでしまう。」
「そうなのか。」
魂で会話する。その神秘的な響きにあまりピンとは来ないがそれでも流暢にしばらくイブネさんやミツネさんは長い会話を続けていた。しかしその場にヒビネさんの姿を確認することができなかった。コトネさんは白人外国人と仲がいいのか仲良く話し合っている。
辺りを見てもヒビネさんの姿はなかった。工場廃墟には大きな扉がひとつあり、そこからしか誰も出入りすることができないかたちになっている。
航士朗はそっとそこから外に出て、辺りを確認する。しかしその工場は海辺の近くにあり、目の前は小さな港が活気よく活動している。
まさか港にいってなんかいないよな。そんなことを考えていると横から転移門が現れる。
「おおっ!」
その転移門からはエンジン音がブンブン聞こえてくる。そしてその音はヒビネさんと共に姿を現した。黒光りしているアメリカンバイクだった。どうやって乗り方を覚えたのかは知らないがすでにまたがりアクセルを軽く踏んで俺の横で止まって見せる。そして疑問なのがヘルメット姿ということ。コンビニで初めて出会った時とはまた違う。ヘルメットもバイクも全く違うのだ。
「ヒビネさん・・・・」
「なあに?」
そう言うと当たり前のようにエンジンを切り、ヘルメットを外し、左右に長い髪を振り払う。
「なんでバイクを?」
「大丈夫大丈夫、ちゃんと返す返す。私、バイクをバイク屋さんから借りてそれで走るのが趣味なんだ。」
セリフの趣旨が分からない。というより言っている意味がわからない。
「でも、ヒビネさんは霊体だから道路を走っても誰からも認識されないんじゃないですか。それって危なすぎません?」
するとヒビネさんはにやけはじめる。
「ちっちっち。君はもうちょっとアストラル体を知った方がいいかもね~。」
すると再びヘルメットを被りだし、後ろのトランクから似たようなヘルメットを俺に手渡してくる。そしてバイクにまたがりエンジンをかける。ものすごい迫力のあるエンジン音に一瞬圧倒される。
「ほら、乗って乗って。」
言われるがままに俺はヒビネさんの後ろに腰を置いた。目の前にはエンジン音と潮風によって、長い黒髪がなびいている。
「じゃあ、行くよっ!」
という声と共に一気にアクセルを踏んで物凄いスピードで発進しだす。
「うわうわうわうわうわうわ~!」
その声が聞こえたのか、ヒビネさんも
「うわうわうわうわうわ~!あははははは」
と真似したあと大笑いしていることがエンジン音すら掻き消して俺の耳へと届いた。
すると急に直角なカーブをし、俺の体はむち打ちに。
「ぐぐっ!」
大勢が元に戻り、バイクの進行方向を見る。そこには廃墟工場が目の前に広がっている。
すると体が何かに包まれるような感覚に陥る。体を確認すると、ヒビネさんのアストラル体がバイクごと、そして自分すらも包んでいることがハッキリ確認できた。
そして廃工場すらもすり抜けて車行き交う道路へ出る。しかし車すらもするするとすり抜けていく。
すげえ、すげえ、すげえ、すげえ、すげえ、すげえ!
「あっははははー!」
興奮状態のままヒビネさんは猛スピードでバイクを加速させていく。時々人すらも目の前に現れるが、案の定するするとすり抜けていく。しかし通り過ぎて巻き起こった風を歩行者は感じ取っていて、時々倒れる人もしばしばいた。つまりバイクごとアストラル化しているというわけだ。その後も十分ほどオフィスビルや車を通り過ぎた。
そしておかしいと思ったのが、ヒビネさんは物体をすり抜けることができるのに信号にはしっかりと従って止まるのだ。その光景ほど面白いものがあるだろうか。
「ヒビネさん、別に止まらなくてもいいんじゃないですか?」
「えーだめだよ。もし誰かが飛び出して来たらどうすんのー。子どもなんか飛び出して来たらもう子供は吹っ飛んでしまうわよ。」
「そこはちゃんと気にするんですね・・・・」
そして、アストラル体になれるのは三十分が限界なので、二十分ほど走ったら、バイクを勝手に借りたと思われるバイク屋にバイクをそっと返した。その後にヒビネさんは転移門をだしてみんながいる廃工場へと移動した。
「別の所に来るたびにバイク乗り回してるんですね。」
「そう!私の唯一の楽しみなんだ。バイクを乗り回すの。それと、前までは私のことを見える人間がいれば陰陽石を渡してたんだけど、もう君が見つかったからそれもやる必要がないんだけどね。でも、君もいずれ一人前になったら誰かに陰陽石を渡して弟子をとることになるんだよ。そして鬼人として戦っていく。なかなか素直に戦ってくれる人なんていないんだけどね。」
頭の中で大也がよぎる。
「前の弟子はどういう人だったんです?」
「君と似た背格好でさ、やる気も元気もあって鬼人にもなる気でいたんだけど。急にやめたくなったのかな。やめてしまった。記憶を消すときは辛かったな~。消したらもう私のこと忘れてしまうから。」
前の弟子のことを知っているなんて到底言えたもんじゃない。ヒビネさんには嫌なことを思い出させてしまったのかもしれない。
「君は鬼人になること怖いとは思わなかったの?」
「俺も怖いですよ。」
「怖いんだ。」
ヒビネさんはしんみりした声を上げる。
「なんで怖いのにやろうと思ったの?」
その質問を頭の中で何度も反芻しても答えはでなかった。
「ん~、じゃあヒビネさんはなんで鬼人をやってるんですか。誰かの幸せや笑顔の為にやってるんじゃないんですか?」
ヒビネは驚くように目をまん丸くし、下に顔をうつむかせる。
「・・・・どれだけの人がこの世に希望を持ってないんだろうね。実はとってもいい所なのに。でも私はそれに気付いてもらいたくて鬼人をやっているのかもしれない。」
すると、ハッと何かを思い出したかのように俺を見つめる。
「あ!ちょっと来て。見せたいものがある!」
そう言うとヒビネさんは髪の毛を一本抜き転移門を再び出現させる。
「来て来て」
ヒビネさんがやけに楽しそうに言ってくるので、少し恐怖心を抱く。実際さっきのバイク走行もとてつもなく怖いという印象を覚えたのだが・・・・。
そして転移門をくぐると、多分だが廃工場の近くの人通りがある通路にでた。通行人は俺の事を見えていないので、どんどん俺に突っ込んでくる。
俺もそれを忍者のようにするするとかわしていく。霊体になって分かったことだが街にでるといたるところに霊がいる。ヒビネさんがアストラル状態なので、霊も自らの危機を察して襲って来ようとしているが到底アストラル体のスピードには追いつきそうにはない。
すると、ある人間を指差すヒビネさん。
「あの人を見てみて。」
そこには霊に憑りつかれ、下にうつむいている男性がいた。ブラックスーツに身を包み、だるそうに何度もため息をついている。
そこで霊の恐ろしさを再び知った。こんなに人間を変えてしまうのか。こんなに人間を苦しそうにしてしまうのか。見ているだけで『助けたい』『救いたい』という感情があふれ出し顔がだんだん引きつっているのが自分でも分かった。
ヒビネさんは、すでに慣れているのか顔を一度も変化させずにじっとその男性を見ている。
すると急にアストラル体になりだし、男に付いていた霊がヒビネさんを倒そうと目をギラっと光らせて迫ってくる。それだけではない。付近にあるビルからも道路の下からも一気に霊が飛び出してくる。それをヒビネさんは回し蹴りを含め、蹴ったり殴ったりしている。殴った腕も蹴った足も次々と通行人をすり抜けていく。吹っ飛ばされた霊は、まるで雪溶けみたいに消えていき、そのまま消滅していく。おそらくあの世には行くのだろう。
男に付いていた霊もすんなりと、雪解けのように消えていく。
すると、下をうつむいていた男は顔が晴れたように前向きな笑顔になっていることが読み取れた。
辺りの霊はもう一掃してしまい、ヒビネさんがアストラル状態でも襲ってくるような霊は一体もいなかった。あんな落ち込んでいた人でもあんな笑顔をつくる事ができるではないか。
でも、霊たちがいるせいでみんな元々持っている笑顔や勇気が無くなってきているということも同時に理解できた。
「でも、もしかしたら今の男の人だってもう一回霊に憑りつかれてしまう可能性だってあるんですよね。」
「そう。憑りつかれない、ということは無いわ。でも自分のエネルギーで憑りつかれるか憑りつかれないかは選べる。あの人がもし自分から変化してなにかしら希望や夢を追ってくれるなら世界はもっとよくなるだろうし憑りつかれなくもなる。そして私達の戦いは終わる。なあんて、終わるなんて何万年後とかになるんだろうけどね。」
もっと頑張ろうと思った。俺はヒビネさんに陰陽石を渡されて、『助けられた』に等しい。もし俺があのまま生きていたら間違いなく霊に憑りつかれて生きていたことだろう。しかし今はそうではない。ヒビネさんの言うとおり今度は操られる側ではなく、救う側になってしまった。でも操られる側も操られない側もそんなに変わらないと思う。ただ戦っているのか、戦っていないかの差しかないのだから。
でも、これだけは言える気がする。
あの時、母が遅れて寝坊していなかったら。俺が寝坊しなかったら。それがあったからコンビに行った。そしてそこでこの時間、この場所だったからこそヒビネさんと出会えた。でもそこでもし俺が人見知りで避けるようにヒビネさんから逃げてしまったら。
偶然に・・・いや自分が悩んでいたからヒビネさんを見ることができた。
そこで陰陽石を渡された。
学校でおにぎりの袋をあけた。そこで気付かなかったら・・・いや好奇心がなくて触る気にすらならなくなったら。そしてそのまま触ることなく捨ててしまったら。
そう思うととてつもない恐怖に襲われてしまった。あの時何もしていなかったら、今この状況、この風景、カイトと関わることすらなかっただろう。
もしかしたら人間が変わるなんてすぐなのかもしれない。
ほんとちょっと何かに興味をもって、ちょっと動くだけで何もかも変わるのかもしれない。
生活も。行動も。そして今がある。もしかしたら本当にそんなことなのかもしれない。変わるのなんか一瞬だ。本当に一瞬。それだけは分かる。実際俺が変わったのはたった三日だ。
でも、それでも後悔なんて微塵もない。だって俺みたいに世の中に疑問を持って生きていた俺に似たような人間は世の中にまだいるかもしれない。
だから、俺みたいに苦しんでいる人がいたら、君は大丈夫。あってるよ。間違ってない。
とは言葉では言えないが助けることはできる。でもそれは俺一人では何にもできない。逆に俺がいなければ鬼人は確実に一人増えなかった。霊から人間を救う数も少なくなっていたのかもしれない。
「でも人間が一人一人変わってくれれば、霊はいなくなりますよね。」
「でも私たち鬼人は待つことしか選択肢はない。みんなが変わってくれるまで必死に霊を倒し続けなければならない。それが私たち鬼人に託された使命なのかもしれないわね。」
「でも待たなきゃいけないなんて誰が決めたんですか。支部長ですか?それとも先代の鬼人たちですかね。でもそれって鬼人たちが何もできないって思ってるからできなくなるんだと思います。まあアストラル体にもなれない初心者の意見ですけど。」
「・・・・・・・・」
ヒビネさんは終始沈黙を続けた。
「もしかして、見えてるのは、俺だけじゃないかもしれないですよ。本当はみんなみえてるのかもしれないですよ。」
ヒビネさんの沈黙を俺は横目でみながら、そう後につけた。
「世の中には・・・・」
話し始めたと思ったら、今度は言うのを拒むように、口を閉じる。
「私達のことなんて気付かないままいろんな方法で戦っている人たちも沢山いる。ちょっと来て。」
すると、おもむろに髪の毛を一本抜き、あたりにまき散らす。転移門が出現すると同時にヒビネさんは中へと入っていく。それに続いて航士朗も転移門の中へと入っていく。
そこを出ると、俺達がさっきまでいたアメリカと違い夜だった。
しかしそこはジャングルのように草木で生い茂っていて、奇妙な生き物の鳴き声が四方八方から聞こえ、付近に滝でもあるのか轟音が聞こえてくる。
ヒビネさんは暗い森を一人でずんずんと進んでいく。
「ヒビネさんどこに行くんですか。」
すると、ヒビネさんは神経を集中させて、辺りをちらちらと共同不信に見渡し始める。
「来たっ!」そう言いながら俺の腕を乱雑につかむ。
掴んだ手からだんだんと俺の体にしみこんでくるように膜が航士朗の体を包んでいく。
来たっ!という発言からほんの数秒のことだった。辺りの茂みがガサガサと音をたてて茂みから仮面の付けた黒肌の民族の格好をした人間が複数出てくる。完全に俺たちの存在を感じている。しかし俺とヒビネさんの体を触ることはできそうにない。
見るからに言語は聞いたこともないような固有の言葉を使っていて、ヒビネさんと俺の体をすり抜けていく。
「今のは・・・」
「・・・・・・・・」
ヒビネさんは再び無言を貫き通す。そのまま俺の腕を掴んで滝の音がする方角へ腕をひっぱっていく。案の定茂みや森林を抜けると、そこには大きな滝が広がっていた。
それだけではない。その滝の下には、丸太で足場を作り上げ、滝の奥からは光が差し込んでいる。おそらく滝の中の洞窟にも先ほどの民族が住んでいるのだろう。
「ここは、世の中から淘汰された民族。なにと戦っていると思う?」
「戦っている?それは・・・・獣とか、今晩のおかずとなるような奴らと戦っているんじゃないすか」
笑い混じりにそう言ってみせるがヒビネさんは今だに真剣な顔をしながら、滝の下で、活気のある民族音楽を鳴らして、奇声のような動物の鳴き声のような声をあげている民族を見やる。
「彼らは・・・・政府の管理下に置かれている。でもこんな民族がいることを君は知らなかったでしょう?それどころか、君の日本という国には伝わってきていないでしょう?」
そのヒビネさんの日本人という感覚はすでにない言葉。
その時初めて分かった。この人はこの地球を俯瞰してみているのだ。だから人間を救おうなんて考えが素直に心から出てくるのかもしれない。
「この民族は、私達には見えない他の異界物と戦っているらしいの。その異界物はこの島にしか出現しないらしくて、この民族が何千年もここで戦ってくれているから、他の国や他の大陸に異界物が行くことない。だから戦っているのは私達だけじゃない。」
おそらく先ほど茂みから俺とヒビネさんの気配を感じて現れたのは俺達を異界物だと判断したからだろう。俺達には見えない異界物が見えるこの民族は自分たち以外は全て異界物だと判断してしまうのだ。
「この民族と手を結ぶことはできないんですか。」
「好戦的すぎて、話し合いどころか殴り合いになってしまうわよ。はははは。」
ヒビネさんの笑い声をみるだけでもなんだか心が落ち着く。
「じゃあ、そろそろ帰ろっか。」
そして、転移門で元の廃工場へと俺ヒビネさんは戻った。
その後、バイクを何とか見つからないように返しに行くヒビネさん。バイクを触るとバイクすらもアストラル体になってしまうので、バイクを借りて返すなどお茶の子さいさいだろう。
イブネさんやミツネさんは今だにアメリカの鬼人との連合を組む話し合いを続けているのか俺とヒビネさんの自由行動には気づいているだろうが、それでもまだ実際話し合いを続けていることは確かだ。
「話し合いなんて嫌いだからいかなくていいや。」
学校の集会をサボるような言い方をするヒビネさんに再び笑ってしまう。そう言って端にある錆びたドラム缶にお尻をピョンッと乗せ足をブランブランさせているヒビネさん。
俺は少しでも早くアストラル体になるために、霊体の修行を励んでいたのでその姿をヒビネさは暇そうにじっと見ていた。すると唐突にヒビネさんは、
「霊体になれても、陰陽石はいつでも持っておいてね。」
「まあいまでも一応、バックには入れてますけど・・・・」
バックに陰陽石を入れてはいるがなぜ持っておかなければならないのか。俺には分からなかった。でも霊体にいつでもなれるほどの安定はしていなからだろうと俺は考えた。
そう言えば俺は今だにボロボロになってしまった制服姿だった。ここ二日も学校にも家にも帰っていない。でも二度と戻る気はない。というより戻っても視覚されることはないだろう。
「話し合いなんてしても、解決にはならないのに・・・・」
かすかにヒビネさんがそう言うのを俺は耳にした。ドラム缶の上で足をブラブラさせている彼女に視線を送る。しかしヒビネさんはこちらには一切振り向かず、地面を見ている。
確かに作戦を練ることは大事な事だろう。しかしヒビネさんが言いたいのは、行動した方が早いということを言っているのだろう。
しばらくすると、隣にいることが分かっていたのか、廃工場の扉が開き、中へイブネさんやミツネさん、カイトを含め、先ほどいたアメリカの鬼人たちもぞろぞろと入ってくる。
「ヒビネ、今日からアメリカ支部の鬼人と一緒に行動することとなった。いいか?」
「ぜーんぜん、いいよ。」
するとヒビネさんはぴょいっとドラム缶から降りて、幾度か両の拳を握っては閉じてを繰り返し行っている。なにかのウォーミングアップなのだろうか。
付近にいる鬼人は全員が英語を話しており、部活脳の俺にはさっぱり何を言っているかは分からなかったがイブネさんとミツネさんはその英語を日本語で返して、アメリカの鬼人に説明していた。しかし薄っすらと体に膜ができているのが分かった。おそらくはアストラル体、魂のエネルギーを使って会話しているから、意思疎通ができるのだろう。
「では、行くぞ。まずここから離れなくてはい・・・・」
そう言いかけたところで、辺り四方八方に転移門が次々と出現していく。
そこから出てきたのは鬼人であるのは確かだが、いかにも俺達に敵意を向けている。彼らは、深くフードをかぶっており誰だか分からなかった。そのフード姿の連中は顎だけが見えており、
中にはひどくヒゲが生えた人物もおり、年齢は多岐にわたっているようだ。
「ミツネ!学校!」
ヒビネさんがそう叫んだとともに、「はい!」というミツネさんの返事が辺り一面に聞こえる。
ヒビネとミツネはほぼ同時に髪の毛を抜いて、転移門を発生させる。
俺は逃がされるかのようにヒビネさんに背中を押され、転移門にこけるように入っていく。その時に肩掛けバックを落としてしまった。
まずい!
しかし、転移門を抜けたところはミツネさんのすぐそばだった。落ちてしまった肩掛けバックは、転移門からヒビネさんが投げたのか、飛び込んでくるように俺の体に直撃する。
しかし、またもや俺の目の前にはミツネさんが出した転移門が出現している。
「ミツネさん!私も戦います!戦わせてください!」
カイトは必死に自分を戦わせるように訴えていたが、それを聞く耳も持たずにカイトは転移門へとミツネさんによって入るよう促されている。
「カイト、今はまずいんだ!君たち二人を殺されたりなんか絶対にされてたまるか!」
そのまま勢いよくカイトは転移門へ突き飛ばされる。
「ミツ・・・・・・!」
カイトが自身の師匠の名を叫んだところで、カイトはミツネさんに首の襟足部分を強く強打され気絶し、倒れるように転移門へと入って行った。カイトが入って行ったのを確認すると、ミツネさんは転移門を閉じだ。