第一話【最弱のカードバトラー】
「行け!エレメンタルバードの攻撃で止めだ!」
「くっ、うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
三色に輝く鳥の攻撃を受けレン・ルーカスは声を上げて後方に吹き飛んだ。彼の体にはボロボロになったモンスター。国立魔札学園で配給されている一般的な疑似モンスターがいた。レンは対戦相手のモンスターの攻撃で吹き飛んだ疑似モンスターに突っ込まれたのだ。
「よし、これで一回戦はらくらく突破だな!」
対戦相手はニヤニヤしながらレンを見下ろす。その表情にはレンを見下していた。しかし、レンはそれを歯を食いしばり耐える事しか出来なかった。レンが通う国立魔札学園はカードバトラーとしての能力を育成するのを目的に作られた学園である。学園ではカードバトラーとして強い者が優遇され弱い者は不遇な目にあってしまう。
レンは国立魔札学園に入学してから既に半年が経過していた。その半年の間に幾度となく行われたテストでレンは連戦連敗を決めていた。
『学園最弱のカードバトラー』それがレンに付けられた二つ名であった。
「…はあ」
国立魔札学園はとても広い。学園があるアクアリオン王国の王都の五分の一を占めるほどである。その学園の教室棟近くにある。公園でレンはため息をつきながら仰向けになっていた。芝生の上で大の字に横になりその傍らではレンに支給された疑似モンスターであるプチリザードがいた。既にバトルは終わっているためボロボロであった体も既に元通りになっていた。
「…また、負けちまったな」
レンは呟くように言う。先程レンが敗北した学園対抗トーナメントは一月に一回行われる学園でも最大級のイベントである。その為文字通り学園に所属する生徒全てが出場していた。レンは今回のトーナメントに備えて準備を行い万全の状態で挑んでいた。
そして、その結果が一回戦敗北という物であった。相手が学園でも上位の実力を持つ人物であったならレンも諦めることが出来たかもしれないが負けた相手は自分と同じ疑似モンスターを使用し特に珍しいカードも使っていない者であった。それだけにレンは大きく自信を失っていた。
「くそ!何で勝てないんだよ!」
レンは今日の試合を振り返りこぶしを地面に打ち付けた。レンが座る右横にこぶしの跡が出来上がる。
「あ!やっぱりここにいたー!」
と、そこへ一人の女性の声がレンの耳に入ってくる。はきはきとした口調のその声はレンにとって十年以上聞きなれた声であった。レンは上半身を起こすと声がした方向へと顔を向け声をかけた。
「レンは試合に負けるといつもここに来ているよねー」
「うっさい、ほっとけよ」
レンは女性、幼馴染のミーシャにそっぽを向きながら答えた。ミーシャとレンは十年を超える付き合いである。家が近いと言う事もあり学園に通う前はよく一緒に遊んでいた中であったが学園に通ってからはそれも一変した。
ミーシャは学園から支給されるモンスターではなく精霊種の水精アクアと契約していた。それに加えて実力が高い事もありミーシャは学園でも上位に入る実力者であった。それに加えて容姿も良く彼女の周りには追っかけや親衛隊もどきが多数おり最弱のカードバトラーとして学園中に知られているレンガ近づくことは出来なかった。その為この会話も久しい物であった。
ミーシャは笑みを浮かべながらレンの隣に座る。その近くでミーシャを見守るように彼女の契約するモンスター水精アクアが立っていた。
「で、また負けたの?」
「…」
レンは一瞬ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべるミーシャの顔にパンチを入れたくなったがぐっとこらえるとぐるりと体を動かしミーシャに背を向けた。それ自体が既に答えを言っている様な物でミーシャは笑みを深めた。
「全く。そんなに弱いと留年どころか退学になっちゃうよ?」
「…三日前にフリッド先生に言われたよ。このまま負け続ければ退学だって」
空気が一気に凍る。ミーシャとしてはただのからかいであったがまさか本当に言われているとは思ってもいなかった。
しかし、国立魔札学園はあくまで強いカードバトラーを育成する学園である。毎回敗北するレンにこの様な事が言われているのは当然と言えた。
「え、えっと…。ごめん」
「別にいいよ」
落ち込んだ様子のミーシャの謝罪にレンは背を向けたまま答える。暫くの間二人を取り巻くように低温の空気が流れたがそれは近づいてくる騒音で打ち消された。レンは体を起こしてその騒音の方を見る。そこにはミーシャと同じ幼馴染であるクロノの姿があった。
クロノ・ヘイス。レンの幼馴染であるがレンとは違い国立魔札学園で圧倒的な実力を見せ学園が誇る最強の十人の一人に数えられていた。しかし、ミーシャと違いクロノは弱者であるレンを嫌っていた。今回もたまたま近くを通ったらしく取り巻きやファンと思われる人だかりの中央からレンの方をしっかりと見ると眉を顰めた。その様子を見た取り巻き達はレンの方を見るとニヤニヤとミーシャとは違う悪意の籠った笑みを浮かべた。
「おい、あそこにいるのは学園最弱のルーカスじゃないか?こんなところでお昼寝とはずいぶんと余裕だな」
「おまけに学園でも指折りの美女であるミーシャさんをそばに侍らせて…。きっとミーシャさんを脅迫しているに違いない」
「だろうな。じゃなきゃ最弱のカードバトラーに構う奴なんていないよな」
クロノの取り巻きの言葉にミーシャは怒りレンは歯を食いしばるとその場を離れようと立ち上がった。そこへクロノが近づいてくる。
「…レン」
「…何?」
クロノの言葉にレンは素っ気なく答える。これ以上クロノと話していても苦痛でしかないため一刻も早くこの場を離れたかったのだ。しかし、次の言葉でレンの心に怒りをともした。
「いつ、学園を去るつもりだ?」
「…は?」
「ここはお前の様な弱い奴がくる場所じゃない。今すぐにでも実家に帰れ」
「クロノ!」
クロノの言葉にミーシャが止めようと割り込もうとするがクロノの取り巻きに邪魔をされ近づくことが出来なくなってしまう。そうしている間に更に続けていく。
「レンは学園に入学してから一体幾つの勝利を得た?一回も勝てていないだろ?トーナメント以外でも授業で試合を行っている。それなのに一度も勝てないとは異常でしかない。お前はカードバトラーに向いていないんだ」
「…さい」
「教師だってこれ以上お前に何を教えても無駄だと思っているだろう。教えた事を生かせず敗北し続ける奴に何を教える必要があるんだ?」
「うるさい」
「今の貴様は学園にとってお荷物どころか害虫と言えるほどだ。百害あって一利なし。それが今のお前にぴったりな言葉だ」
「うるさい!」
クロノの言葉に遂に耐え切れなくなったレンは腰から下げているカードホルダーを開け中から紙の束、モンスターに力を与える補助カードのデッキを取り出した。
「俺だって頑張っているんだ!教えられた事を守り戦う度に補助カードや戦術を考えているんだ!」
「…それが実を結んでいなければ何の意味もない」
クロノはそう言いながら同じくデッキを取り出した。
「教えてやるよ、レン。お前がカードバトラーとしての才能がない事を」
「絶対に負ける訳にはいかない!」
「「ゲーム、スタート!」」