エリーゼのために4
少し短いですが続きをどうぞ。
日々の中にこの小説を混ぜてくれる人に感謝をいたします。
あなたはとても頑張り屋さん、きっと。
「ごめんなさい、気分が悪いでしょう」
エリーゼは部屋から出た途端、アスターに話しかけた。
アスターにはエリーゼの言う意味がよくわからなかった。呑気な思考を、少しだけ振り返る。
「なんの話だ?」
「この場所の話。あなたがここに行きたくないって言ってた理由、考えてたの」
廊下の端にある花瓶に、小さなカエルが止まっていた。花瓶と同じ色の、白に体を変えている。特別な色の種類にも見えるが、そういうわけではないのだろう。
「この場所ではね、誰でも白くなるの。段々と、この場所に通うごとにね。私の髪の毛もそれの一つ。理由は、よくわからないんだけどね」
カエルはエリーゼの足元に落ち、そして潰れた。
飛び出した内臓や、血液も粘膜も、その全てが白い。なんの色も付いていない、透明ですらない、影もつかない白。
誰であれ白くなる空間。
何であれ白くなる空間。
花瓶や、挿してある花も、落としている影でさえ白くなる。だからこの空間には少しも色がない。
それは呪いよりも美しく、そして強力な何かだ。
「あの人は、ここに住んでいるのか?」
「えぇ。ここに住んでいるのはあの人だけね。呼ばれた時、他に人がいたのを見たことがないから」
ここに住んでいるというのはどのような感覚なのだろう。食事をしなくなって久しく、生活という概念は壊れてきていた。それでも、なんとなく理解はできる。
食べるものが全て白く、自分の血液も、内臓も、恐らくは真っ白だ。そんな存在を、人間と呼べるのだろうか。
「あなたは白が嫌いなんでしょう。色がなくて、まだ何も知らなくて。そんなものが南部の最大の都市。それに反感を覚えてる。でもそれに気づいたら、意識してしまったらここにいられない。だからあなたは利己的になるのね」
「…どうだろうな。僕はそれほど、複雑な思考をしていないかもしれない」
「ね、私からも質問していいかしら」
「なんだ?答えられることは、そうないけれど」
エリーゼは回廊を降りていく。白い壁にエリーゼの髪の毛は溶けて、少しだけ短くなったように見えた。
「あなたって何世代の人形なの?分解した時、中がぐちゃぐちゃすぎてわからなかったから」
それにあなた改造されてたし、と付け足す。
アスターは無表情のまま、淡々と答える。この答えが、少しも間違っていないという風に。
「僕は十世代目の人形だよ」
「…あら」
前を歩いていたエリーゼが振り返る。
自動人形に、十世代目は存在していない。
南国に行ったら霜焼け治りました