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勇者不在の魔王討伐  作者: えほうまき
1/1

はじまりのはじまり

 

 古来より伝わるお伽話があった。

 

 その昔、魔王は封印を破りてかの地に蘇る。魔王は悪魔を従え、悪魔は魔物を従え、人の住む領域に侵略を始める。被害はすぐに広まり、世界中が恐怖に陥ろうとしていた。

 その時立ち上がった一人の若者がいた。

 彼の者はその心を神に認められ、剣を賜り、人々を救う旅に出た。魔王の元へ向かう彼は道すがらに魔物を切り、悪魔を断ち、多くの人を、村を、街を、果ては国をも救った。そんな彼を人々は勇者と呼び崇めた。

 やがて、彼は軍を率いて、魔王の元へたどり着く。魔を討ち滅ぼさんと始まった戦は一日の休みもなく30日以上続いた。長い戦の果て、多くの犠牲を払ったが、ついに勇者は魔王を討った。しかし、魔の王、肉を失えども魂は生きていた。そこで勇者たちは最後の力を振り絞り、かの地に封印した。

 魔王を失った悪魔は立ちどころに消え、かくして人々は平和を取り戻した。封印が解かれるまでの束の間の平穏を。


 帝国歴640年、各国の占星術師の予言通り、魔王が封印を破り復活した。

 世界の最西端に位置する封印の祠、および周辺が城塞化し、その巨大さ故、世界中が魔王復活を知るのに一日もかからなかった。

 大陸中央に位置する聖アインツェント王国は神託により選ばれた勇者とその仲間をすでに用意しており、魔王城出現とともに国を挙げて出撃を開始した。

 合わせて、来るこの日のための連盟国大小10の国が進軍を開始。復活から時間をおかずに短期決着を臨んだ。

 

 復活より二月が過ぎ、悪魔と人との領域の境目にて、ついに戦線が激突。お伽話の、架空の大戦が現実に始まったのだ。


 世界の半数が応じた大戦だ。統率の取れていないと見られる魔王軍、いや、悪魔の群れに連盟軍は劣るはずもなく、戦況は一方的なものであった。やがて城壁まで進軍し、攻め落とすのみで人間の勝利であった。悪魔の相手を軍に任せ、勇者含む神託により選ばれた精鋭の一行は魔王を討つため城に攻め入る。


 連盟軍は驕った。勇者らが勝鬨をあげるまで戦線を維持するだけで世界が救われるのだ。統率のない悪魔

達相手に虐殺を続けるのみで勝てるのだから。そして、勇者たちが乗り込んでから二週間が経っても誰も戻ってはこなかった。一部隊を斥候に送るも、同じく誰も戻っては来なかった。


 勇者たちの進行より、初めて城から姿を現したのは、恐怖を体現した巨大な人型だった。前線はもちろん後方にて待機していた者たちも、彼の姿を一目見た瞬間に理解した。自分はここで死ぬと。


 以降の正確な記録は残っていない。辛うじて逃げ延びた者達からの報告では、異常な恐怖に飲まれ、たちまちに前線は崩壊、指揮官も含めほうほうの体で逃げ出し、壊滅。魔王城到達まで損害一割に満たなかった連盟軍は六割が消滅した。


 初戦において、人間は敗北した。


 しかし、魔王はそれ以降の進軍は行わなかった。人と悪魔の境目において偵察、牽制を行うのみで、侵略は始まらなかった。


 そのため、世界を挙げてこのような声明が挙げられた


 「かくして魔王は復活した。初戦は大敗したが、悪魔の進軍は見られない。絶望にはまだ早い。再びの神託の後、軍を再編する。次こそは必ずや魔王を討つ。来る決戦に挑む勇気ある者たちよ、己が力を研鑽し我が御旗に集え」


 人魔大戦の始まりである。

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