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神隠しによる放浪記  作者: レブラン
第四章
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信用と不安

「……なるほど、事情はおおよそ理解した。確かに、この第一陣にはあの場にいなかった者達が多いからか貴公等の実力は分かっていないのだろう」

「タクミ、俺もびっくりしたぞ? 何度か味わった事のあるものだから、急いで戻ってみたらこんな風になってるなんてな」

「このままじゃ、またこんな事態が起きるかも知れないですし、どうしましょう」

「では、この者達の事を納得していない者。受け入れる気がない者、この場に申し出よ!」


 シロの殺気に当てられた冒険者は視線を逸らし、前に出ようとする者はいない、ただ一人を除いては。

 その一人に視線が注がれる。


「これでもまだ認めずにやるのか?」

「ぐっ……さ、さっきはたまたま気を失っただけだ! けど、お前等が可哀想だから今回はやめといてやるよ!」


 先程までイッスに賛同していた冒険者達が味方に付くこともなくなり、自分の立場が危うくなったのか逃げるようにイッスはその場を去って行く。


「他に異論を唱える者が居なければ不満がないものとし、この者達を今回の討伐に参加する仲間と認める」


 不満の声をあげる者はおらず、その場は収まった。


「この場を収めてもらいありがとうございました」

「貴公、それにそちらの者達ならあの程度、勝てたのだろう」

「いえいえ、彼も実力は未知数であり現状互いに情報不足。駒が足りない以上どうなるかは……。仮にこの対決で負けたらどうなっていましたか?」

「勝敗には関わらず今回は規模が違う以上、戦闘の参加はしてもらう予定だ。だが、負ければ陛下の期待に応じられなかったとして、評価は下げさせてもらう所だったのだがな」

「そうですか……。ならその評価が下がらずに不戦勝になったのは運が良かったとも言えますね」


 そんな巧の言葉にフェスは顎を撫でる。


「見た目はまだ子供ぽさが残るが、十五は立派な成人。とは言え貴公の考えは大人びている」

「いえ、私などまだまだ未熟でありますので、この様なお手を煩わせてしまいました。更には仲間にも迷惑をかけてしまいました」

「ふむ……、貴公の行動がそちらの仲間も危うくなるだろう。その為行動にも責任が伴われる」

「はい、それは重々承知しております」

「何はともあれ、陛下の意向もあるが貴公には期待をしているので今回の討伐に参加させた。それは努々忘れぬように」

「ご期待に添えられるよう、今後も努力致します」


 納得したように頷くとフェス達は軍馬にまたがりその場を離れた。

 見送り、振り返るとハリトラス達は鳩に豆鉄砲を食ったような顔をしていた。


「どうした? そんな顔して」

「いやー、会話を聞いてるとお前本当に十五かってな。どう言った経験してきたんだよ」

「そうね、ちょっと歳と見た目が違うって感じかな? けどそこが素敵だけどね」

「うん、すごいと思う……。私はあそこまで堂々と話せないかも……」

「今、目の前に存在してる俺は年齢が十五のはずだが? それにヘルデウスを思い出してみろよ。あいつのほうがよっぽど大人びてるって」

「確かにヘルデウスも大人ぽく振る舞ってるって言うのか。それでもタクミ、お前とはなんか違うんだよな」


 ハリトラス達が巧に対する考えは的を得ていた。

 だが、巧がこの世界に来てからは実年齢は十五と半分になった事など。

 未だ誰にも話してはおらず、情報が漏れれば厄介ごとに巻き込ませると予想して巧自身が話してないのだ。

 だが、年齢ではなく精神的な面はこの世界に来て急激な成長をしていた。

 異常であったがレベルの影響なのかどうかは巧自身考えていたが、腹の虫が鳴るのを聞いて考えるのを止めた。


「まあいいじゃないか、そんな事を気にするよりさっさと昼飯食おうぜ? 腹減ったしさ」

「ああ、そうだったな。ほら、巧達の分だ」


 ハリトラスが巧達に渡した食品は携行食けいこうしょくと言われ、冒険者用の外で食べる基本的な食品。

 主にパンや干し肉などが主流であり、日持ちの長い物が基本である。

 持ち運ぶ為か、それぞれに竹皮の様な物に包まれ中に食品が入っている。

 巧は竹皮の中に入ってる干し肉を一口食べると驚きの声をあげた。


「量はまあまあ、でも中々美味しいなこの肉」

「お、そうだな。本来こんな美味い肉は中々巡り合わない、流石王国が用意した肉と言えるな」

「そうなのか?」

「ああ、たぶんこの肉だけで結構な値段はするはず。下手したら安い宿だと、この肉を買うだけで数日分以上の値段すると思うぞ?」

「マジかよ……、美味しい物は相応の値段ってか。価値基準はどの世界でも一緒なんだな」


 綺麗に平らげると、巧は周囲を見渡す。

 冒険者の面々も食べ終わり、先程の状況など気にしていないのか雑談や地図を広げ進行ルートの確認など。

 巧はふと上空を見上げると、雲行きが怪しくなるのに気が付く。


「何だか嫌な予感がするわね」


 シロのその一言は今後の展開を左右しそうな発言であった……。


《これより再び進行する》


 フェスの声が響き渡ると同時に、徐々に前へと進む。

 移動を開始してから数時間が経過していると、数度の水滴が巧の顔につき始めた。


「こりゃ本格的に降りそう」

「ああ、他の冒険者もローブ被り始めてるしな」


 周囲の冒険者はインベントリなどから取り出されたフード付きのローブを羽織り始めていた。

 巧達も同じようにフードの部分を頭に被せ、雨を防ぐ。

 雨は徐々に本格的な土砂降りになり、大雨と雲により隠れた薄暗さが重なり視界の状況が悪くなる。

 各々冒険者が持ち寄っていた光石により完全な暗さはないにしろ、それでも巧以外の人物にとって視界の悪さは最悪なのだ。


「条件悪いしこれで魔物でも攻めてきたら……ってマジかよ」


 周囲から気配が一気に広がる。


「タクミ!」

「ああ、わかってる。こっちに近づいてきてるな。数は……五百匹……とは言わないが、それでもそこそこか? 皆準備してくれ」


 冒険者の中には気づいている者もいるようで、それぞれの武器を手に持ち戦闘態勢に入る。


《各自、戦闘準備! こちらに接近して来る魔物の軍勢に対して警戒せよ!》


 魔物が近づいてきている事を知らされ、今まで気づけていなかった冒険者達も己の武器を持ち緊張した面持ちで待ち受ける。


「……くるぞ!」


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