確認
ゴブリン亭へと入るとテーブルに幾人か座っており、その全員が冒険者であろう恰好をして食事や雑談をしていた。ゴブリン亭の亭主のおっさんは巧に気が付くと声をかけた。
「おお、恰好が変わってるな。何だ、鎧は諦めたのか?」
「魔法を使うならこっちのほうがいいと言われてね。あとギルド登録してきたよ」
「遂に冒険者デビューなのか!」
おっさんは腕を組みながら笑う。
「依頼はまだ探していないけど、今日はとりあえずって感じかな? あと靴も明日できるし」
おっさんと雑談していると、近くのテーブルに囲っていた冒険者達の一人が声をかけてきた。
「見た事ない奴がいるなと思ったら、どおりでまだ間もない初級冒険者かよ。ぷはぁー、大丈夫かよこんなヒョロッコイので」
酔っていたのか顔が赤く、笑いながら巧の肩に組み酒を飲む。
「まあいいじゃないか、仲間が増えるって事は歓迎するぜ」
酔っ払いおっさん冒険者の仲間であろう人物が言ってきた。
「そうね、冒険者が増えれば私達も大助かりなんだしいいじゃない。さあお酒一杯驕ってあげるからテーブルに戻って。ごめんなさいね、この人達討伐の収穫が良かったからはしゃいでるのよ」
(おばさんグッチョブ)
この宿の亭主の妻であるおばさんが空気を読んで助けてくれた。
「気にしてないよ、けど収穫良かったってすごいね」
「ああ、森の奥でばかでかいブラックウルフを倒したって言うんだからな」
「ブラックウルフ?」
「狼なんだが、通常の狼より大きくて全身が真っ黒で尻尾が太くて長い。身体は硬いから普通の武器じゃダメージを与えるのも困難らしい。そいつに殺された初級中級冒険者も多いとか、あいつらのランクじゃ到底勝てるはずもないが運よく倒せれたと言うし」
「嘘じゃねえぞ! あのブラックウルフに出会ったのは近くにあるあの森だが、俺らが命懸けであいつを追い詰めて、右目をやったあと最後には槍で頭を突いて倒したんだからな!」
その話を聞いた巧はあの森で出会ったブラックウルフを思い出す。
ブラックウルフは巧が倒したものだと気づいたが、巧は開きそうになった口を閉じた。
(まあいいか、このおっちゃん達も喜んでるし)
「そろそろ部屋に戻るね、やる事もあるし」
「ああ、そうか。飯を食べたくなって来たら降りて来い、作ってやるからな」
巧は礼を言うと自室部屋へと戻りベッドの上に座ると腕に付けていたドッグタグを握る。
「確か、念じるんだっけか」
目を瞑り念じると目の前が明るく感覚が巧を襲う。
目を開けると巧の目の前に画面が現れたが…………文字が日本語ではなかった。
辛うじて星のマークだけわかる。
平仮名片仮名英字と比べようとしても、そのどれにも当てはまらず、画面はPCでたまに文字化けするような難読不明な状態。
「こういうのって普通読めるように翻訳されてないのかよ……」
ドッグタグから手を離すと画面も消える。
ベッドに仰向けになり天井を見ていると”田”の存在を発見する。
田は端のほうに存在していたが、邪魔にもならない隅っこにある。
目を動かすと前と同じで一緒に田も動いている。
不思議と思った巧はその田に手を近づかせると、触れれた。
「え?」
触れた瞬間、画面が現れる。
田は日になっており、MMOゲームようなステータス画面。
そして表示されたステータス画面を見ると……
名前:山内 巧
年齢:15歳
性別:男
種族:人族
レベル:3
状態:なし
HP:67/68
MP:28/53
[取得スキル]
夜眼、隠蔽、闇眼、気配探知、翻訳、回復、風、水
[装備]
灰色の魔術服:暑さ耐性小 寒さ耐性小
ローブ:熱耐性小 寒さ耐性小 防水耐性小 防音耐性小
「まるでゲームのステータス画面のような感じだな日本語でもあるし。それに年齢が……十五歳! え? 十五歳って俺、今年で三十歳のはずだぞ? 何で十五歳に……」
巧は異世界に来た際に、身体が縮んだのを思い出す。
「あの時……か、身体だけで年齢まで若返るとは思わなかった。確かに顔を触ってみると肌も若くなってる気がする。それに周りのおっさん達は坊主とか言ってたし、本当に若返ったんだな」
巧は三十歳で日本人男性じゃ平均的な身長ではあったが、成長が遅かった巧は十五歳の時の身長を思い出そうとしたが覚えていなかった。
「それにしても他の能力はどこだ?」
ドッグタグと比べても、レベルであろう部分しか分からずじまいであった。
「そうだ、物を調べられねえのかな?」
”日”となっている場所を触り、ステータス画面を閉じると”田”に戻る。
言わばブラウザの日は画面を開く、田は画面を閉じる感覚であった。
ベッドに向かってステータスと叫んでみたが、一向に何も気配起きない。
次にステータスと想像してみたが同じく一向に現れず。
「やっぱ無理なのかな?」
ドッグタグを見てステータス画面を思い出す。
そして想像してみると、ドッグタグに[ドッグタグ]と日本語が表示された。
「うお!」
急な事なので巧は驚くが、次にベッドを鑑定してみた。
そうすると[ベッド]と表示されている。
「もしかしたら……やっぱ無理か。日本語に表示されれば楽だったのに」
ドッグタグが表示するステータス画面は日本語に表示されないまま。
もう一度、田を押し一度ステータス画面を確認してみると、”鑑定”の文字が追加されていた。
「増えてるな」
ステータス画面の取得スキル欄を見てみると、鑑定の文字が表示。
つまり新規で新しいスキルを使えばステータス画面の項目に自動追加されるのだ。
「この画面見るのにいちいち押さないといけないのは不便だな。もう少し簡略にできないのか」
巧はステータス画面を触れると、平べったい板を触った様な感触を味わう。
「触れるのか」
何度か触っているうちに画面が触った箇所の欄が二重にずれた。
「おお、ならこれはどうだ」
MPバーを画面の外へずらしてみると、画面外にMPバーが表示。MPバーは動かした場所に浮かんでいると言ったほうが正しいだろう。
視線をステータス画面に向けると、元にあった位置にもMPバーは表示されていた。
一度画面を閉じ、MPバーは目の前に浮かぶ。
バーは表示されっぱなしで、他でも試してみるとMPバーと同じようになったのをこの時初めて知る。
不要な情報を消すために叩くが消滅せず、ステータス画面に移してみると情報はステータス画面に吸い込まれるように消える。
「これで最低限必要情報だけ残せたかな?」
巧の目の前にはHPとMPバーのみ表示。
作業を済ませ顔をあげると、周りは薄暗くなっていた。
この日はまだ次話に続きます。