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神隠しによる放浪記  作者: レブラン
第四章
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今後の状況説明とその予定

「勝者タクミ!」


 フェスは巧の勝利宣言を叫ぶ。


「やったなタクミ。それにしても、あの攻撃くらって大丈夫か?」

「ああ、平気だよ」

「どうした?」


 巧の表情は嬉しそうな顔をせず、苦い顔をして倒れているドルアガを見下ろしていた。

 ドルアガはうつむけに倒れ気絶しているが、大量に吐血、顔色が悪く苦痛の様子。


「まずいな……」


 そう呟くと、すぐさま回復薬を取り出し飲ませようとするが、上手く口に入らず零れる一方。

 巨体の為動かす事も困難であり、一本、また一本と無理やり口に入れようとするがどれも溢れ零す。


「チッ!」


 巧は焦り、それを表情を隠しきれない様子からか思わず舌打ちをする。

 そんな巧の肩に手を叩かれ振り返ると、近くにフェスがいた。


「変わってくれないか?」

「お願いします。内臓がやられてるぽいので早く治してやってください」


 吐血の原因は肺や胃が傷ついたり、血管の破裂によるものも原因と言われている。

 だからそのまま放置しておくと窒息死や失血死もありえるのだ。

 フェスの言葉を信じ、交代するとフェスはドルアガの体を仰向きにさせ、回復薬を飲ませた。

 その色は通常の赤いポーションよりもより赤く、例えるなら濃い赤、深赤しんせきと言ったほうが良さそうな色であった。


「これで大丈夫だ」

「もう平気なんですか?」

「そうだ、こいつの顔を見てみろ。先程より大分マシな顔だ。暫くしたら気が付くだろう」


 ドルアガの苦痛の表情は和らぎ、顔色にも血の気が戻ってきていた。

 その表情を見た巧は安堵の表情を浮かべる。


「ありがとうございます」

「一つ聞かせてもらっても良いか?」

「ええ、構いませんが」

「この者は殺す気でいた。だが、何故手加減をしたのだ? 私の権限で言わば殺し合いをもする許可は出した」


 どうやらフェスは巧が相手に対して、殺さないほどの手加減をした事に気づいていたのだ。

 実際本気を出していれば、ドルアガの腹をも突き破れるほどの威力はあった。


「……ただ単に俺のほうがこの人よりも強いと確信できてました。だから殺す意味すらもないと思いました。まあ加減に失敗しましたが」

「そうか、だがこれが実際の戦場。対峙する者が敵、魔物ではない紛れもない人間であればどうするのだ?」

「それは……」


 その問いはこの国の将来を想定してるのであろう。

 いつ起きるかわからない戦争、そうなれば巧にも参加させる可能性すらあるだろうと。

 巧は暫く考え、そして問いに答える。


「多分……、今回と同じように戦闘不能にさせるだけで命まではとらないと思います」

「そうか」


 巧の答えに少しがっかりしたような表情を見せるフェスであった。

 フェスは巧から視線を外し周りの冒険者達を見回す。


「さて冒険者諸君! これでタクミはお前達と共にこの魔物討伐に参加させる資格を得たが、他に異議のある者は申し出よ!」


 誰しも前に出ず、言葉を発さず、反論する者は誰一人いない。

 先程の戦いにて巧の実力は認められ、討伐参加に不服はなかったのだろう。


「では早速、魔物の説明に移る。今から配られる討伐依頼紙を見てほしい」


 受付嬢達が依頼書である羊皮紙を各冒険者に配られる。


 緊急討伐 ★★★★★★

 場所 ベルチェスティア王国へと進行してくる魔物討伐

 討伐証明 場合により必要

 期限 なし

 達成報酬 大金貨二枚


「結構報酬出るな」

「タクミもか」


 巧はウエインの依頼書も覗くと同じ報酬額が確認される。


「ランクは六の為、報酬額は一律だ。だが魔物によっては可能なら持ち帰る必要性があるかもしれないと肝に銘じてほしい」

「ちょっと待ってくれフェス、持ち帰り? 討伐のみじゃ?」


 そうフェスに問いただすのは背中に弓を背負い、眼帯をかけた男のエルフと思われる人物。

 その首に飾っているドッグタグの色は銀色。巧よりも上のランクである証拠であった。


「魔物は最低★六以上の自己再生持ちの魔物と聞く。だからか生きた魔物の研究をする為に必要だと陛下は所望している」


 フェスの言葉を聞いて巧はサイクロプスや岩人形を思い出していた。

 それは厄介極まりない討伐依頼と言う事になる。


「ちなみに、現在進行している魔物の大群は総数にして五百匹。中には大型の魔物もいる可能性はある」


 辺りはざわつく。

 巧は思わずフェスに問う。


「フェスさん一つ質問なんですが、捕まえる数の指定はありましたか?」

「特には聞いていないが」

「何だ、なら良かった」

「何が良かったんだよタクミ。五百匹だぞ? 流石にそれだけの数を捕まえろって無理だ」


 ウエインは理解できずにいる。

 一部を除き周りの冒険者もウエインに同意するように頷く。


「いいかウエイン、この王国に進行している魔物の大群は数にして五百匹」

「ああ」

「この羊皮紙にはどんな依頼と書いてある?」

「魔物の討伐依頼」

「そ、討伐依頼。だが、フェスさんは研究の為に魔物を捕まえろと言う。それは全てを捕まえる必要性はあるか?」

「……ああ!」


 巧の言葉にハッと我に返る。


「わかったな」

「何がわかったんだよ。俺等にもわかるように教えろ!」


 大多数の冒険者は理解したようだが、まだ一部の冒険者にはわかっていない様子であった。


「簡単に言えば、五百匹全て捕まえれなくても、指定されていないのなら進行中の魔物を一匹だけ(・・)捕まえれば問題ないと言う事だよ」


 “五百匹”と言う数字に惑わされ、捕まえる数と言う“指定数”が抜けていたのだから焦るのも無理はない。

 理解したのか、周りの冒険者達もどこかホッとした表情をする。


「ですよねフェスさん」


 フェスは鳩に豆鉄砲をくらったような顔をしたと思えば、突如笑い出す。


「そうだな、そう肯定しようではないか。だが最低条件としては再生持ちの魔物を捕まえてもらうがな。はっはっはっは!」


 上機嫌であり、笑いつつ巧の肩を数度力強く叩く。


「と、ところで他に何かあるんですか?」

「おっと、すまんな。さて……、改めて話を再開しよう」


 巧達は頷く。


「この王国に魔物の大群なのだが、三日以内にこの王国へと到着する。到着すれば甚大な被害をもたらすだろう。現在迎撃準備には入っておるが、緊急だったため下手に騒ぎを大きくしないために、一部の貴族以外まだ民衆には伝えていない状態だ。だが、明日には王国中に伝わるだろう」


 その言葉に周囲はざわつく。

 三日以内なのだ、期限ももう間近に迫り危機的状況。

 事の重大性が深刻である。


「なら今すぐにでも我々が行かなければならないじゃないか?」

「だが今はだめだ」

「何故?」

「まだ準備が足りていない。三日以内とはいえ、王国を出てからすぐに対峙できればいいが、実際いつ衝突するかは分かっておらんのでな。すぐに出発するわけにはいくまい」

「くっ……」


 エルフ男は苦虫を噛み潰したような顔をした。

 この準備とは飲食関係の事である。

 実際何も準備いせず出発した所で、飲まず食わずは戦闘にも支障をきたしかねない。

 この準備がどれだけ重要なのか、冒険者であれば誰しも知っている事なので、反論の余地がなかったのだ。


「従って今日はこれにて解散をする。出発は明日に立つ」

「そういや、俺達だけで行くのか?」

「まだ他の冒険者達は集まるだろう。だが今この場にいる私達は第一陣として先陣を切る。その後、成り行きにより第二陣、第三陣へ連絡が行き渡り加勢に入らせる」


 つまりは囮役兼視察隊と言うわけである。

 囮役と言えど主は迎撃なので殲滅、捕獲をしても問題ない。


「私がこの第一陣の顔役としていくが、もしもの場合はクレッチカ、貴公に任せる」

「当然だフェス」


 そう答えたのは先程のエルフ男であった。


「ウエイン、あの人誰?」

「タクミ知らないのか? 結構有名人だぞ?」

「君は俺ほどの著名人を知らないのか、いいだろ教えてやろう。俺の名はクレッチカ・トルルソー、【隻眼せきがん】の二つ名持ち。ランクは八。ベルチェスティア王国の中では一番高ランクだ」

「へえ、ランク八ってすごいんだな」

「ふふん、先程の君の決闘を俺も見させてもらったよ。まあそこらの奴等よりかは筋は良いが、それでもまだまだ甘いな」


 鼻に付く言い方をするクレッチカ。

 巧は周囲のを見回すと冒険者の誰しも嫌そうな表情を見せる。

 実力はあるのか、口答えする人はいない様子であった。


「その辺で止めておけ。皆の士気に関わる」

「はいはい、わかったよ」

「では諸君、明日に向け活躍を期待している。これにて解散!」


 広間に居た冒険者達はいなくなり残った面子は巧、ウエイン、フェスとドルアガの四名。


「起きねえなこいつ」


 未だ地面に寝転がり気絶しているドルアガがいた。

 ウエインが槍で男の体を突くと、反応するかの様に動き出したと思えば目を覚ます。


「やっと起きたか、話は終わったぞドルアガ」

「俺様は確か……、はっ! 小僧よくも!」

「見苦しいぞ、ドルアガよ!」


 巧の顔を見て襲おうとした瞬間、フェスは怒鳴る。

 その表情は鬼の形相とも思えるほどに。


「貴公は負けたのだ。それはどのような事をしても覆らない事実である以上、タクミに突っかかろうとするとは己の恥と知れ!」


 ドルアガは悔しそうな表情をし巧を睨む。

 だがすぐに俯き地面を殴る。


「くそ!」


 立ち上がると扉へと向かおうとするが、巧がその前に立ち塞がり止めた。


「どけ! 俺はお前に負けたんだ。俺よりランクの低いお前に!」

「それは俺が運良く勝てただけだって、お前と戦って技量や力は十分脅威だと思ったよ。それに憤怒だっけか? あれはやばかった。俺が勝てたのも相性が良かったおかげだと思うんだ」


 ドルアガは立ち止まり無言で巧の言葉を聞いている。


「なあドルアガ、俺に負けて悔しいのならまた相手するよ。だけど今はそんなプライドよりも迫りくる脅威を一緒に振り払わねえか? 俺等にはお前みたいな強力な仲間が必要なんだ。頼む!」


 頭を下げる巧。

 勝者が敗者に頭を下げる、それは異常な光景であった。


「ふん、いつまで頭下げてんだ! 勝者は勝者らしく堂々としていろ!」


 顔を上げると、巧を睨んでいるが、どこか先程と違っていた。

 巧の横を通り過ぎ扉へと向かうドルアガ。

 扉近くに着くと振り返ると。


「見ていろ。魔物討伐はお前よりも俺様のほうが上だという事を証明してやるからな!」

「ああ、期待しているよ」


 出て行くドルアガであった。


「良かったな」

「ああ、これで安心だ。外で待たせてるだろうし行こう」


 巧とウエインは広間を出て行くと、一人残されたフェス。


「陛下があの少年に目を付ける事だけはある。全く面白いものだ、これは陛下に良い報告ができるな」


 ベランジェの思惑通りなのか、フェスの口元は笑い嬉しそうであった。

報酬に関してまた変更するかもしれません

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