巧とベランジェ再び
鐘が三度鳴り響き、巧達は馬車に乗り城へと向かう。
馬車の中には巧、ヘルデウス、ルフラの三名が乗り、約束通りベランジェに会うため向かっていた。
「だけど、皆さんを連れて来なくて良かったの?」
「ああ、今回はヘルデウスの顔見世もあるだろうし、それに俺が代表として行ったほうがまとまると思うからな。それにルフラの件もあるし」
実際には、何か起きた時に逃げる旨を巧はハリトラスに伝えていた。
その為に二手に分かれている。
「何だか先程から街の衛兵達が急いでいるね」
「ああ、なんだろうな?」
馬車の窓に映っているのは人々や建物が景色と共に流れ、その途中の大通りには兵士達が慌ただしく走っていた。
それは何かしらの違和感を巧は覚える。
「そろそろ着くわね」
その言葉に意識が戻り、窓の外を見上げると城の城壁と城門が映り込む。
それは巧達を待ち構えていたかのような風景。
――――場所は変わり、王広間に巧とヘルデウスとルフラは立っていた。
巧達の目の前にはベランジェが椅子に座り、顔は微笑む。
その笑みは異性を虜にさせていたであっただろう。
「ようこそ、お越しになられたヘルデウス卿。タクミ」
「こちらこそ陛下直々にお呼び下さりありがとうございます。こちらに着いてから、顔をお見せするのを遅れて大変申し訳ありませんでした」
「いや、ヘルデウス卿がこの王国に来てから、お忙しいのは重々承知していたよ」
ヘルデウスに向けにこやかに語る。
「ヘルデウス卿、ルイスは元気であるか?」
「はい、ルイスも私の所に務めてから教育係として色々教えられ、貴族のたしなみとして日々精進させてもらっています」
「そうか、早速だがそれにしても、そちらにお送りしたルフラが勝手にした事をお詫びしたいのだが」
ベランジェはそのにこやかな顔は健在だが目だけは見開かれ、視線はルフラを捉える。
その言葉と視線にルフラは一瞬、肩を震わす。
「いえ、陛下。ルフラの処罰をタクミから提案があるのですが、よろしいでしょうか?」
急な提案にベランジェは顎を撫でる。
「提案? ではその提案を聞かせてもらえないだろうか?」
「ルフラに関してはヘルデウス卿と共に話をしたのですが、ヘルデウス卿の所で護衛としても雇いたいと私は考えております」
「……何故そのようになったのか、理由を聞かせてくれないだろうか?」
「はい、今回陛下はルフラが勝手にと仰いました。つまりはルフラは陛下の判断をも無視した。それで合ってますね?」
「ああ、そうだな」
巧はその言葉を聞き、ニヤリと笑いそうになるのを抑える。
「でしたら、自己判断でヘルデウス卿の敷地内に浸入し、それを私達が返り討ち。本来でしたらルフラ含め全員を殺されてもおかしくありませんが、あえて彼女を生き残らせました」
「君達にその実力は確かにあるようだな」
「ええ、ですので。彼女を今後はヘルデウス卿を護衛すると言う意味でも、今回の件を私達は見なかった事とし、代わりにルフラを“奴隷契約”として置かせようと思います」
この世界の奴隷には二種類存在する。
①契約契約を使用して奴隷を使役させる方法。ただし、奴隷をさせる相手との意思の合意が必要。
➁非人道的であり、相手の意思を無視を無視。奴隷の首輪などの道具を使用して強制的に手駒にさせる方法。
襲撃に対しての失敗、その母体がベランジェである以上見過ごせない失態。
従ってルフラを奴隷契約をする代わりに、それを口外しないと言う約束を持ちかけたのである。
「奴隷ならルフラではなく、他の者でも良かったのではないのか?」
「いえ、彼女の強さは対峙したこそわかるのです。このまま殺すのは惜しいと言う判断をしました」
「ふむ」
「納得しないようなので重々承知でありますが。でもそちらとしても、まずいんじゃないでしょうか?」
巧の目の前に居るのが王、一声かければ実際にこの場で三人は消される可能性がある以上、一種の賭けでもあった。
巧は笑顔を崩さないが、額から一滴の汗が流れ落ちる。
広間は緊迫感が漂う状態であっただろう、緊張からかベランジェは喉を鳴らす。
暫しの沈黙。そして数分間の時が経つと沈黙が破られた。
「くくく、ふはははは!」
突如ベランジェの笑いに一同は驚く。
「いや、失礼。タクミ、君がそこまで考えていたとは思わなくてな。思わず笑ってしまったのだよ」
「はあ」
「だが、奴隷契約するのはいくつか条件を飲めば許可を出そうと思う」
「条件?」
「そうだ、ルフラは我が兵の戦力の一人である以上、本来なら付かせる事は不可能なのだ」
(機密を漏らす可能性があるわけか)
「だが現王国には勢力争いがある。そこでヘルデウス卿には我が王国側に付いて貰う事」
まだ幼いとはいえ、勢力争いで少しでも有利にする為にヘルデウスを引き入れようと言う戦法であった。
だが巧には疑問が残るが何も言わなかった。
巧はヘルデウスに視線を向けると、ヘルデウスは頷き一歩前に出る。
「我が陛下の為、その承諾快く引き受けましょう」
「うむ、助かる。それからもう一つ。現在、我が国に魔物の軍団が進行している。このままでは直に襲われるのは確定的だろう、もし魔物達がこの城下町を襲撃すれば被害は尋常ではないと予測される」
「その魔物討伐に俺達を向かわせると言うわけですか?」
「理解が早くて助かる。魔物は以前、君が倒した再生持ちの魔物と同様だと考えられる。ただ、現在ギルドで参加者募集しているはずだ、それに参加してほしい。勿論別途報酬はだそう」
「畏まりました。その魔物討伐お引き受け致します」
「そうか、紹介状はもう出来ている。城を出る前に兵士から受け取って、今日中迄にギルドに渡してくれ」
その言葉に巧は苦笑する。
「畏まりました。それから私の事、今後よろしくお願い申し上げます」
「ああ、俺も君達の事が知れて良かったよ」
巧達は広間を出て行くと、ベランジェは扉を見据えていた。
「くく、全く面白い少年だ。それでフィティア、シュワルの様子はどうだ?」
ベランジェの前に突如現れるフィティアと他数名。
全員闇に紛れる為か全身黒装束を纏う。
全員が全員ただ者ではない雰囲気を醸し出していた。
「現在動きはありません」
「そうか、まだか。それから魔物討伐の際にこの国に残った反王国派の貴族を多少排除する必要性がある」
「それなら我々精鋭を別けましょう」
「そうだな頼むぞ」
フィティアと黒装束数名は一礼すると、どこかへ消え去るように姿を消す。
「さて、これから忙しくなるな」
ベランジェは立ち上がると、その表情は楽しくもあるのか不敵な笑みを浮かべていた。