不穏分子とその実情
王城広間の椅子にベランジェは座っていた。
そのベランジェに対面するよう、一人の貴族であろう男性が立っていた。
「よく参られたブライ卿」
「陛下の通達と在らば、私奴はどこにでも陛下の前にて馳せ参じ致します故」
ベランジェを見据えると、ブライは手を胸に当て一礼。
「改まらなくても良い、この度は貴公と話をしたくてな。貴公はこの国の支る一人であるが故に、大変であろう」
「何とも勿体ないお言葉。お気遣いしていただき誠に感謝いたしております」
ベランジェが労いの言葉をかけると感銘を受けたのか、再び一礼するよう頭を下げる。
「よい、それよりも領地具合とその近況報告を聞かせてもらおうか」
「は! ここ最近は賊などの出没はなく、大変穏やかではございます」
「そうか、前までは賊などが現れ大変であったからな」
「左様でございます。しかしながら、陛下のご助力の御蔭で賊共の討伐には成功いたしました。これも陛下の知恵の賜物でございます」
「それで民のほうはどうなっている?」
「私の領地内にいる民は皆、活き活きとしており国の為に尽くしております。ただ……いえ」
「なんだ、申してみよ」
ブライは少し考えたのち言葉を発する。
「私の領地内にて難民……他の領地内から逃げてくる民が多いのです」
「ふむ、外からではなく内側からか」
「はい、他の所での税収が多く徴収されているのと、治安の問題かと思われるからでしょう。来る民は受け入れるのですが、何せ人数が多すぎると拒まざるを得ないので」
現在ベランジェが頭を悩まされてる原因の一つであった。
ベルチェスティア王国では広大な広さの為、領地ごとに区切りが敷かれ、爵位などの地位が高い領主がその箇所を統治している。
だからか、税率なども各領主によってに大きく変わるのだ。
本来なら暴動や内乱でも起きてもおかしくないのだが、統治してる領主の周りには実力のある衛兵や冒険者などがいるので民衆は怯えていた。
「なるほど、やはりか……」
「気づいておられましたか」
「ああ、現在の反国王側の動向を探らせてみた所、どうも裏で糸を引いてる貴族がいるのでな」
「それはもしかして、二大貴族のフェルティ卿とプルート卿ですか?」
「そうだ。それに内部にも繋がりがあると思う。そこを潰す為に現在動いているのだが……」
そう言うと、どこかを見据える考え始めるベランジェ。
その一方、フェスはシュワルと話していた。
「どうだフェスよ。この前の事を考えてくれたかな?」
「ええ、シュワル。しかし、本当にこの国を変えようとする事ができるのか?」
「ワシはお主を買っている。お主ほどの力量があれば、この国をも変えられると思っとるよ。それにお主は不満であったろう現国王に」
「ベランジェ陛下にか。だが、どうやって国を変えていくのだ?」
「ふむ、今度の顕彰会にて王国側と反王国側の人間が一同に集まる。その時にベランジェ陛下には退位を決断してもらい。第二王位継承者で在らせられた、グリヒット第二王子に王になってもらうのだ」
「グリヒット様にですか?」
第一王位継承者がベランジェなら、第二王位継承者がグリヒット。
兄弟ではあるのだが、今は亡き前国王ドルランは遺言によりベランジェに王位を譲ることになり、グリヒットは表舞台から退かせるように城内にてひっそりと暮らすようになっていた。
従ってグリヒットは表舞台に立つことは基本無くなるのであるのだが例外はある。
「しかし、ベランジェ陛下を何故退位させ、グリヒット様に王に仕立てようと?」
「前国王では統治として敏腕で在られたが、ベランジェ陛下になってから上手くまとめられずにいる。これは上に立つ者として由々しき問題であり、このままではこの国自体の存続の危機に直結する」
実際には反王国側が言い掛かりなどをつけ揉めさせる事が多い。
だがそんなシュワルは驚く事を提案する。
「だからグリヒット第二王子に王になり、貴族側での有利になるよう統治してもらう」
フェスは反論するよう口を開こうとするが、今朝のベランジェとの約束を思い出す。
――――場所は王城内の王室。
「フェス、シュワルの報告を聞かせてくれ」
「は! 昨日、私が部屋から出て行く後にシュワルが来られ話をかけてきました。その内容が、陛下への裏切りと貴族側への加担となります」
「ほう、やはり内通者はシュワルであったか……」
手で顔を覆うようにし溜息を吐く。
「しかし何故だ……」
「それは存じ上げませんが、不満はあったのではないでしょう」
「ふむ、それでもやはり……いや……」
ベランジェは少し考え込む。
手を放すと、何かを決めたような顔をし命令を下す。
「フェス、近々シュワルが再び声をかけてきたら、話に乗れ。そして確証でき次第、報告を怠るな」
「畏まりました」
――――シュワルを前にフェスは内心怒りが湧き上がるような思いをさせるが、それでも踏み留まる。
今殺してしまうと、王国側に波紋が広がる為、その隙を付き反王国側を助長させる破目になるからだ。
だがあと少しで確信的な証言が手に入ると予想した。
「つまり、それは貴族側で王権を操ろうと言うわけか?」
「結果からすればそうなるな。だが上手くいけば王国側は我々の手中に収まるのだ」
王位を交代をさせたのち、グリヒットを新国王として名を轟かせ。貴族たちの操り人形として名が挙がったのだろう。
「しかしそう上手くいくのか?」
「そうだ。何せ」
その時一人の兵士がシュワルとフェスの前に現れる。
その顔は強張った顔をし、息を乱していた。
「シュワル様、フェス様。急報です!」
「どうした。落ち着いて話せ」
「大量の魔物が出現し我が国へと進行して来てるとの情報が入っております」
「ふうむ、時期によっては集団で現れる事もあるのだが今の時期は……」
「シュワルもそう思うか、にして数はどのぐらいだ?」
「その数はおよそ五百! ランクにして最低六以上と判断。このままではあと三日以内にこの国に攻めてくる模様!」
「ランク六以上だと? 更にその数はやっかいだな。陛下には私から伝えに行き進言を貰う。城の守りとこの城下町周辺の様子を怠るなと各兵士に伝えろ」
「は!」
兵士は敬礼すると急ぎその場を離れる。
「すまないシュワル、私は陛下の所へ行く」
「ほほ、なに時間はまだある。次に会うときまた話をすればよかろう」
「ああ、では」
シュワルは振り返り歩き出す。
その顔は神妙な面立ちである。