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神隠しによる放浪記  作者: レブラン
第四章
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襲撃者と決着

 巧の目の前にいる存在。

 悪魔と言うよりもサキュバスと言うほうが正しいだろう。


「ええ、そうよタクミ」


 そう答えたサキュバスのシロ。

 シロは巧の腕、怪我をしている部分を触り悲しそうな表情を向ける。


「私が来たからもう安心だよ。タクミに近づけさせないようにしていた女はもう来ないから」

「まさか殺したんじゃ」

「心配しないで、あなたの言う通りちゃんと殺してないよ? 気絶させただけだから。だから私を褒めて、ねえ褒めて」


 その表情は紅潮こうちょうしていた。


「あ、ああ。よく頑張ったなシロ」

「うふふ」


 褒められて嬉しいのかシロは満面の笑みを浮かべる。

 その表情は魅了されるような、どこか惹かれる笑みであった。


「それで……タクミを酷い目にあわせたのはあなたね」


 男はシロに視線を向けられると、一歩下がらせた。

 絶対強者と言う名の威圧感だっただろうか、それとも殺気による回避しようがない死を向けられたからだろうか、男の手は震えていた。

 シロが一歩前に踏み出すと、男も一歩後ろに下がる。

 

「シ、シロ!」


 シロは止まると顔だけ振り向く。


「大丈夫よタクミ、あの人も殺さないようにするから」

「待てシロ……、俺から話をつける」


 男に問いかけた。

 

「まあ見て分かる通り俺と言うか、こいつはあのエルフ女よりも強い。つまりはお前よりも強いわけだ。このまま大人しく降参してくれたら助かるんだが」


 虎の威を借る狐のようでもあるが、巧は気にしてはいられなかった。


「悪いがその案は乗れねえよ。これでもこの仕事が生業なりわいなんでね」

「そうか……。シロ、この剣はお前専用だ、もってけ」


 シロは長剣を受け取ると、両手に二本の剣を携え試し斬りをするよう数度振るう。

 

「へえ、良い剣ね気に入ったわ。さあ、決着付けましょうか」

「チッ!」


 男は両手に持っている短剣を何度もぶつけ、金属特有の音を鳴らす。

 

「【音周波おんしゅうは】!」


 通常の金属同士が擦れ甲高い音を出すのだが、その音が直接巧やシロの耳に届かせ三半規管を麻痺させた。


「な、なんだこれ……」


 巧は視界が酔い平衡感覚を失っているのか、バランスを崩しそうになり足元が覚束ない。

 シロは両剣を外側に向け、顔を地面に向けうつむいていた。


「悪いな、行動は制限させてもらったぞ。これで終わりだ!」


 男は飛び出し、短剣の刃先をシロへと突き刺そうとした。

 だが……。

 

 「なっ! ……がは!」


 男は驚く。

 シロに突き刺そうとした瞬間、短剣は両方とも弾き飛ばされ、逆に男の腕や手に数ヶ所切り傷を付けられたのだから。

 そして顔面を殴り飛ばされた。

 

「うふふふ、無駄よ? あなたぐらいの動き何て、手に取るようにわかるのだから」


 シロは不敵な笑みを浮かべ相手を見下す様な目で見る。

 そして男に近づくと剣を振り上げ、数度切り刻む。

 

「シロ!」

「大丈夫よタクミ。動けなくしただけだから」


 シロは振り返ると微笑んだ。

 だが、男は動けなくなっているのか痙攣けいれんをしていた。

 生きてはいるものの、その行為はまさに鬼畜の所業とも言うべき所だろう。

 巧は魔法水を飲み状態異常を治す。

 

「ふう……シロは大丈夫なのか?」

「ええ、私は大丈夫よ。移植してから状態異常にも強くなったから今のも平気」


(まじかよ……ここも悪魔の手の恩恵ありすぎだろって、あれ?)


 巧はシロの頬に掠り傷を見つけ、インベントリから回復薬を取り出す。


「シロ、回復薬やるからその頬の傷治せ」

「ありがとう。けど、回復薬を飲んだ所で無理なの」

「何故?」

「この手を移植してから、ポーション効果が全く“受け付けなくなった”のよね。回復魔法はまだ試したことないから、わかんないけど」


 衝撃の事実を巧に告げる。


「それじゃ、もしも大怪我とか負うと……」

「多分、死んじゃうかもね」


 そう悲しそうに微笑む。


「けど、心配しないで。この手のおかげで身体能力は上がったし、それに自己治癒速度も大分速くなったの。これぐらいならすぐ元に戻るわよ? だから……タクミ?」


 巧はシロの頬を触る。


「俺は回復魔法が使えるんだ。ほら腕の傷、もう治ってるだろ? だからその頬の傷だって治せるさ」


 実際、光の投擲を受けた傷は完治していた。

 しかし、自分だけ回復させる事ができるが、まだ他人に試した事がないのだ。

 巧は想像する。傷の回復、傷の修復、傷が塞がる想像を。

 だが暫くしても、何も起きずにいた。勿論シロの頬傷も治癒されてはいない。

 巧は想像力をより明確にするためか、力強くつむる。

 頬を触っていた巧の手にシロの手が重なり、巧は目を見開きくとシロは微笑み首を横に振った。

 

「いいのタクミ、こうなったのも私自身がそう望んだ事。それに強くなったから、私はタクミを守れればそれで充分なの」


 巧の手を離させるとシロの頬傷はまだ残る。

 他人を回復させる事は不可能な証拠であった。

 そんな巧は苦虫を噛み潰したような表情をする。

 

「ま、まだ、まだ想像力が足りないだけだ……だから!」

「タクミ、心配しないで!」


 巧はシロを見上げる。

 

「あなたはとても、とても優しい子。私はそんなタクミが好きなの。だから心配しないで、そうならない為にもお姉さん頑張るから」


 巧の手を強く握り締める。


「今はそれよりも、リウス達を探しましょ?」

「……ああ、そうだな。すまなかった、シロ」


 今はまだ戦場である。

 まだ敵が残ってる以上、下手に動揺し過ぎると戦闘で支障をきたしてしまう。

 だから切り替えが必要であった。

 

「それで、見てないでそろそろ出てきてくれるかしら?」


 巧は反射的に後ろを振り向き警戒した。

 シロとのやり取りで動揺し、集中できていなかったのだ。

 巧はすぐに集中し探知を始めると一つの動く気配を感じ取る。

 その気配は巧も知っているものであった。

 

「いやー、流石に出にくい雰囲気だったからな。それにビックリしたぞ、こいつらが現れるなんて」


 そう言いつつ出てきたのはハリトラスであった。

巧は主人公なのに小物臭が半端なくなってきた


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