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神隠しによる放浪記  作者: レブラン
第四章
72/144

ウエルスと巨体岩人形

長めです

『グオオオオオオオ!』


 巨大な岩人形は叫びと共に巧達へと近づいたのち腕を振り下ろす。


「うおっと!」


 巧達は避けるが、地面に叩きつけられた手は強い音と共に地揺れが大きく、辺りの壁からは砂や岩の破片などが地面に落ちる。


「タクミ。あの水のおかげで元気になった。だから指示だしてくれれば、いつでも使えるぞ!」

「いや、だめだ! さっきとは違ってどう考えても効きにくい!」


 ハリトラスが再び筋力膨脹と鉄触硬化を使ったとしても、効果が切れると疲れて使い物にならなくなる可能性が非常に高いのだ。

 そう思考を巡らせているうちに、巨大岩人形は再び手を振り上げ次の攻撃に移ろうとしていた。


「チッ! 水レーザー!」


 水レーザーを放つ。

 そのままぶつかり、貫かれ粉々になるはず……だった。


『ウオオオオオオオオ!』


 巨大岩人形は叫ぶと、体全体を覆うような光のオーラを放ち、水レーザーを受け止めたのだ。

 硬さも違う様で貫かれる事はなく、巨体は吹き飛ぶ。


「もう! びっくりしたじゃないのよぉ! けどぉ~、ざ~んね~んでしたぁ!」


 起き上がると巨体の体はボロボロになっているものの、普通に動けているのだ。

 そして次第に再生するよう元の状態に戻る。

 再び同じ水レーザーを撃ち放つが、先程以上の効果は見受けられずにいた。


「同じ攻撃した所で無駄むだぁ~、この子は学習するのよぉ? さっきの攻撃は焦っちゃったけどぉ、二度目は通じないわぁ~」

「くそ!」

「あなたのその威力は高いけどぉ、私の岩人形ちゃんのほうが上だったわねぇ」


 巧の顔に焦りの色が見受けられる。

 何せ、最大火力の水レーザーを与え、動けているのだから。再び撃っても効かない状況。

 そんな巧の肩にシロは手を置きリウスはローブを引っ張る。


「タクミ、焦らないの。私達がいるじゃない」

「あ、ああ、すまない」

「けど、どうするんだ? このままじゃ俺等お陀仏になっちまう」


 巧達に向かって来る巨大岩人形に対して巧は考える。

 どうすればいいのかと……。


「そうだ……。リウス、お前の火炎ビーム砲、最大級で撃ち放て。それまで俺達があの巨体の進路を塞ぐ」


 水がダメなら炎で……。

 リウスは巧の意図を理解したのか、縦に顔を頷くと巧は杖魔祖をリウスに返す。

 巧はインベントリからローブをハリトラスに渡す。


「ハリトラス、熱の余波でやばいだろうから着といてくれ」

「ねえタクミ、私のは?」

「お前は平気だろってか、もう迫ってきてるから! シロは波状攻撃。リウスはチャージして、撃てるようになったら叫べ」

「うん!」

「ハリトラスはリウスを守ってくれ」

「ああ、俺じゃ無理そうだからそれぐらいは任せろ」

「よし、行くぞ!」


 巧とシロは巨体岩人形に向かって走る。

 間近に迫った巨体岩人形、足を上げ勢いよく踏み潰そうとする。 


「風壁!」


 巧は地面に付いているもう片方の足に目掛け、風壁を放ち当てる。

 巨体岩人形のバランスを崩す。

 だが、バランスを崩しながらも巨体岩人形の腕は振り被り、巧達に当てようとした。


「そんな事はさせないわよ? 光斬!」


 光の線を放った光斬は、巨体岩人形の腕を斬り落とすと砂になり、無くなった腕は空を切る。

 起き上がると、巨体岩人形は巧達を見下ろす。

 巧達は見上げると、腕に注目した。

 巨体岩人形の腕は切り離されて、存在しない。

 だが……。


『グオオオオオオオ!』

「あらあら?」

「マジかよ……」


 砂が腕に付くよう集まり、たちまち腕は再生。

 再生した腕は前と同じ形をし、斬り跡も見つからない。


「驚いたでしょ~、私の自信作なのよこの子。勿論弱点何てないのぉ」

「くそ、シロ。あいつの頭狙うぞ」


 シロは頷くと身構える。

 巨体岩人形は拳を振り下ろす。

 だが巧達は見切っていたのか避けた。


「暫く地面に手を張り付いてもらうぞ。水ビーム!」


 水ビームを腕に当て地面に固定させ、その瞬間を狙ってシロは巨体岩人形の腕に飛び乗る。

 そのまま走り続け、飛び跳ねると光斬を放とうとした。

 だが、そうはさせないと言わんばかりに、巨体岩人形のもう片方の手がシロを掴もうとする。


「させるかよ! 水ビーム!」


 放った水ビームによって妨害。

 手はシロを掴まず空を握る。


「流石私のタクミ。光斬!」


 光斬により、巨体岩人形の顔と胴体は切り離されると、力が抜けたように倒れた。

 シロは地面に着地すると巧に嬉しそうに近づくが、巧は警戒を解いていない。

 首を完全に切断し倒せたはずなのだ。

 しかし警戒をして疑問に浮かぶシロ。

 その疑問はすぐに解消された。


「シロ、警戒を解くなよ? まだ(・・)完全に倒し切れていない」


 シロは先程の巨体岩人形に視線を向ける。

 本来なら頭を潰すか切り離せば倒せたのだろう。

 だが、一向に砂にはならない。


「もうびっくりしたわよぉ? 確かに首を切り離したり、頭を潰すのは正解よぉ? だけど、それは普通の岩人形ならね」


 そう、動き出したのだ。

 頭がない状態で。


「核ごと潰すしかないのか」

「そのようね。光斬!」


 光の線は核を狙う様に放つが、巨大岩人形は体が突如光らせると光斬を弾く。


「無駄無駄~、さっきも言ったじゃない、この子は成長するってぇ。攻撃は二度は効かないわよぉ? ってかぁ、あの奥に居る子が何だか怪しいわねぇ。行きなさい!」

「くそ、リウスの事ばれた。守るぞ!」


 巧とシロは邪魔をするかのように立ち塞がるが、進路を妨害できない。

 巧達の上を通りすぎ、リウスの所へと向かう。

 その速さに巧達は追いつけない。


「させるかあ!」


 ハリトラスは走り出し巨体岩人形の関節部分を狙う。

 巨体岩人形は手を振り下ろすと、ハリトラスは吹き飛ばされた。

 リウスとの距離はあと数メートル、巨体岩人形が殴りつけようとしたら確実に届く。

 間近に迫る、だがリウスは目を瞑り落ち着いていた。

 杖魔祖は巨体岩人形に向けて先端を光らす。


「あの子ったら怖くて目を瞑ってるわぁ~。つまんないわねぇ」


 ウエルスは知らない、リウスが何を放とうとするのかを。


「いくよ!」


 その声と共に目を開けた。


「まずい、シロ、伏せろ!」


 巧とシロは地面に伏せたと同時に、強烈な閃光と轟音と熱風が広がった。

 光が収まると、巧は顔を上げ、その光景に目を疑れる。


 巨体岩人形の胴体は二つに分断され、胴体よりも上は地面に転がっていた。

 下半身の分断された部分は熱を帯びていたのか、赤く熱で溶け、核が完全に破壊された現れである。

 それほど強烈な威力なのか、先程の光によってもたらされたのかがわかる。


「すげえな……。そうだ、リウスは」


 そう呟きながら立ち上がり、倒れてるリウスに近づき揺する。


「タクミ大丈夫よ。ただの魔法消費による気絶だから」


 シロは魔開眼で相手の魔力の流れが見えるのだ。

 巧はその言葉を信用し安堵する。


「それにしても、威力高いわね。流石の私もびっくりしたわよ? この辺りを見てよタクミ」


 巧は辺りを見渡すと、リウスが居た位置から広範囲に地面がえぐるように広がっていた。

 どれだけ、その火力の強さであり威力の高さが伺えるほどに。


「ああ……、確かにすごいな……」


 目の前の光景を目の当たりにして、呪い子と言う存在を改めて理解する巧であった。


「そう言えば、あのオカマは……」

「オカマじゃないわよ!」


 声が響き渡る。

 巧達はウエルスの居る方を向くと、隣にはいつの間にか仲間であろう、もう一人の人物がいた。

 その人物は仮面で隠していたのだが、ウエルスと同じ灰色掛かった白髪。

 巧は鑑定をするが、対策を施されていたのか、全て”クエッションマーク”が表示をされ、身分自体不明であった。

 しかしその人物の髪色から、巧はルベスサを思い出す。


(鑑定無理……それにあの髪色はもしかして……)


 ウエルスは巨体岩人形が倒されたと言うのに顔色一つ変えず、喜色満面(きしょくまんめん)

 そして意外な一言を言い放つ。


「その娘、呪い子よねぇ! 見つけたわよぉ!」

「な……」


 その言葉に巧は動揺する。


「あらぁ? どうしてわかったのかって顔してるわねぇ。今は良い気分だし教えてあげてもいいわぁ」


 何故バレたのかわからない以上、今は喉から手が出るほど知りたい情報を話すのだ。

 巧は喉を鳴らすとウエルスの話を聞き入る。


「私達、魔偽師まぎしは元々は呪い子を基礎として、作られた実験体なのよねぇ。その本元である、その娘のような(・・・・・・・)呪い子が魔法を使えば私達は共鳴して、呪い子だって知らせられるのよぉ。すごいでしょ」

「魔偽師……、疑似的呪い子じゃないのか?」


 巧はルベスサの言っていた疑似的呪い子の事を思い出す。

 だが、その情報に魔偽師や共鳴などの説明は一切していないと言うよりも、そこまでは知らなかったと言うべきだろうか。


「あらぁ? そんな古くてダサい言葉知ってるのねぇ。あなた()テルヌス帝国の者ぉ?」


 自らの言葉に自爆する。


「やっぱり、お前等テルヌス帝国だったか」


 その言葉を聞いたウエルスは顔を顰めた。


「ちょ、今のな~しぃ……え、そうよねぇ……」


 ウエルスの隣にいた人物が何かを囁いたのか、ウエルスは大人しくなる。


「次はその子を私の実験生物達で捕まえてあげるわねぇ!」

「待て!」


 ウエルスの隣にいた人物はウエルスを支えると、身体を光らせ高く飛び上がり崖の上に乗る。


「それじゃあ、また会いましょうねぇ!」


 その言葉と共にどこかへ消え去る。

 巧は気配探知で探すが完全にいなくなったのを確認する。

 追いかけようとするが、シロに止められる。


「シロ!」

「タクミ落ち着いて。今の状況を冷静になって」


 シロの言葉に巧はリウスを見る。

 このまま追いかけても見つからず、下手をすればシロまでも更に危険に晒すかもしれないと。

 諦めた顔をすると、落ち着くよう溜息をつく。


「ああ、悪かった。しかし、また会うとか面倒だな」

「そうね、次は息の根を仕留めないといけないわね」

「いや殺しちゃだめだろ」

「いや、シロの言う通りかもしれない。あいつは危険だ」


 ハリトラスが巧達の近くに立っていた。


「無事だったんだな良かった」

「ああ、咄嗟に防御態勢とったから無事ですんだんだが、何もできなくてすまなかった」

「いや、俺等は無事だから大丈夫だよ。寧ろ、あの時行動起こしてなかったら多分リウス共々……」


 生死を決める一瞬の判断をハリトラスはしたのだ。

 その行為は褒められはするものの、責める事はない。

 リウスを抱えて、冒険者三人組の所へ行く巧達。

 途中放置されていた、岩人形を作りだす球体を拾いあげインベントリに仕舞う。


「これはひでえな……」


 顔も身体も見るも無残な状態。

 巧は顔を顰め不快な気分を感じ吐き気をもよおす。

 心配するかのようにシロは巧の顔を覗き込む。


「タクミ大丈夫?」

「ああ……」

「まあ何にしろ、先にここから脱出だな」

「そうだな……」


 その言葉に同意するように巧は一刻も早くここから離れたい気持ちになる。


「この壁を登らないとな」


 周りは人工的に引き起こした地震により、壁は迫り上がり通常なら脱出は困難に思えた。

 だが、巧はある方法で壁を登り切る。


「ちょっと二人共離れてろよ」


 巧の指示に離れるシロとハリトラス。

 リウスを紐で固定すると、巧は両手を下に向け風を噴出すると飛び上がる。

 所謂いわゆるジェット噴射であった。

 巧の魔力量の成せる技とも言え、そのまま壁の上まで無事到着した。

 シロを置いて行き、再び崖下へと降り立つとシロとハリトラスが近寄る。


「相変わらず無茶苦茶だなタクミは!」

「まあいいじゃん、登り切れたんだし。次は二人共行くぞ」


 巧達三人とも無事に壁を登り切ると、リウスは目を覚まし起きていた。


「リウス大丈夫か?」

「え、うん……」


 巧は安心すると、崖下を見渡す。

 潰され殺されたであろう冒険者三人組。

 そして巨体岩人形だったであろう砂の山、他の岩人形は一切見当たらず辺り一面砂ばかり。


 今回の被害は三人組のみであったが、再びウエルスと出会えばこれ以上の被害が出ると予想される。


「城下町へ戻ったらギルドに報告しに行こう」

「ああ」


 それ以上の返答は思い浮かばず、ただ返事をするのみ。

 しかし、この時の巧はまだ知らなかった。

 ウエルスを逃がしたことにより、後にベルチェスティア王国とテルヌス帝国の戦争の発端の一つになるとも知らずに……。


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