フィル町とオウフェス
(うわ、結構汗かいてんな)
走ってきていたのか、オウフェスの顔は大量の汗がかいており、ハンカチで顔の汗を拭いている。
ヘルデウスは立ち上がると、巧とルベスサも立ち上がりリウスとシロも釣られるように立ち上がる。
オウフェスに歩み寄り、お辞儀したのちオウフェスと握手を交わす。
(うえー……)
その光景を見て巧は内心引いた。
「こちらこそお初にお目にかかります。僕が前当主であったウルラヌスに代わり、伯爵を継承したウルラヌスの息子ヘルデウスと申します」
「いやー、お食事中の所大変申し訳ありません。すぐにと、挨拶をしようとお伺いした次第でございます」
「いえ、こちらそこ。食事が済み次第そちらへと向かおうと考えていた所だったのですよ」
「先程、伯爵を”継いだ”と仰いましたが、ウルラヌス様はどちらに?」
「父様は暗殺者に殺されました」
「なんと!」
オウフェスは驚き、手を胸に当てショックを受ける仕草をした。
「それはそれは、大変お気の毒でしょうに……任せて下さい。これからは私も力になりますので」
オウフェス悲しそうな顔になりヘルデウスの手を持ち再び握手を力強く交わす。
オウフェスの迫力に困惑し少し引くヘルデウス。
(何ともまあ大した演技力だこと)
あまりにもわざとらしい演技力を披露するオウフェスに対し、信じていたであろう人間はただ一人。
「と、まだお食事の最中でしたね。こちらの店は大変絶品でございます。どんどんお召し上がり下さい」
「ええ、頂かさせてもらいます」
「それではまた後程。失礼致します」
その場から居なくなるオウフェス。
巧達は席に座り先程来たオウフェスの話しに移る。
「しかし、すごい演技力だったなあの人」
「そうね。胡散臭すぎるほどにね」
「え? そうなの?」
リウスの言葉に頷く。
「ああ、僕もあそこまでの大げさな演技をされたのは、ルイスの演技指導以来だったよ」
(ルイスすげえな、流石教育者)
言葉遣いだけではなく、演技力や見破り方などをも身につけさせたルイス。
そんなルイスは嬉しそうな顔をする。
「それでどうするんだ? このまま行くのか、それともあのオウフェスって町長の所?」
「そうだね、流石に父様がお世話したと言われたし、タクミ達もあのサイクロプスの事を聞きに行くほうがいいでしょ?」
巧は頷くと食事を再開した。
――――場所は町長部屋の居室にてオウフェス、巧、ヘルデウス、ルイス、ルベスサの五名が佇む。
ルイス以外は全員、テーブルに囲うよう座り会談する。
「ようこそお待ちしておりました。お食事処では大変見苦しい所をお見せいたして申し訳ありません」
「いえ、こちらこそ。お招きしていただきありがとうございます」
「私はウルラヌス様には大変お世話になりましたので、お亡くなりになられるとはとてもとても」
オウフェスは首を項垂れ、左右に顔を振る。
「そこまで悲しんでいただけると父様も大変喜び浮かばれると思います」
ハンカチを目に当てると、さも泣いてるかの様な仕草をとっていた。
「ありがたいお言葉です」
「話は変わるのですが、最近ここ周辺にてサイクロプス、部位を破壊、損傷すると赤くなり凶暴になるサイクロプスの報告はありませんか?」
目を拭く仕草をしたのち、オウフェスは考え込む。
「サイクロプスが出現するとは聞いた事あありませんね。損傷でその様な報告は一切受けておりませんね。遭遇なされたのですか?」
「ええ、こちらの町の途中に存在する林の中で、死体の方も彼がインベントリ内に収容しています」
「サイクロプスは確か巨大でしたね。確認の為に私の庭へと行きましょう」
巧達は庭へと移ると、ルベスサはインベントリから頭部を出し、そして身体を出す。
その大きさは巧が退治したサイクロプスと同等であった。
色も赤いままなのだが、首を斬られているからか絶命している。
「おお、これがそのサイクロプスですか。実に見事な……」
「道中に襲われ、戦闘は彼等がしてくれました」
「俺等が遭遇したのは合計四体。目玉や腕などを斬り飛ばしても即死はせず、特殊能力持ちなのか、全体が赤くなり、傷は回復せず塞がると言った感じです。ただ、首を斬り飛ばしたら大人しくなり絶命しました」
ルベスサも巧と同意見なのか頷く。
「なるほど……、わかりました。我が町にあるギルドでも伝えましょう」
「助かります」
「このサイクロプスなのですが分けていただけないでしょうか? 支給いたしますので」
「それは申し訳ありませんが無理なご相談になります。このサイクロプスは一体しかいなく、残りは途中の林の中に置いてきました。これをベルチェスティア城下町のギルドへと持っていき、報告しなければなりません」
ヘルデウスの言葉にオウフェスは項垂れるように頭を下げた。
「そうですか、わかりました。残念ですが仕方がありませんね。大変失礼ですが、少々お待ちください」
オウフェスは館の中に入ったのを確認すると、死体のサイクロプスをインベントリに仕舞う。
暫くし、館から出てきたオウフェスは、一枚の手紙を手に持っていた。
「向こうへ到着し、これをギルドに渡して頂ければ緊急性がわかると思います」
「ありがとうございます」
ヘルデウスは受け取るとお辞儀する。
手紙を受け取った巧達は、そのまま馬車まで戻る。
「タクミ遅いよ?」
「ああ、ごめんシロ。ちょっと話し込んで……て……」
すると、馬車の近くに人山が出きていたのが目に映る。
近くにいたメイドや兵士達は首を一斉に横に振るのを見て、巧は察した。
「……まああれだ、護衛ご苦労様」
「どういたしましてかしら」
そして馬車へと乗り込み出発する。
時刻は午後十五時。
十分休息できたのか、馬も走るスピードが速い。
馬車の中に入る風は気持ちが良いのか、巧は壁にもたれ目を瞑る。
昼食も済ませ気温も丁度良く、巧は眠気さに襲われた。
(あれ?)
目を開き兵士長にある疑問を問いただす。
「兵士長、この大陸って四季ってか気温とかどうなってるの?」
そう、巧がこの異世界に来る前は冬。
しかしこの世界では冬ではなかったのだ。
今まで気にしていないわけではなかったのだが、服の性能のおかげもあり、寒さはほとんどないと思っていたからだ。
多少寒暖差はあるものの、安定した気温で過ごし易いのだ。
「四季? よくわからないが日にちによって寒い日や暑い日などはあるな。この大陸と言うより、この辺りは安定している。場所によっては暑くもあり、寒くもあるぞ?」
「ああ、ちゃんと寒暖差があるんだ安心した。悪いんだけど少し眠っても良い?」
「わかった。魔物出たら起こすが、それまで寝てていいぞ」
疑問を解決してすっきりしたのか、巧は目を瞑り再び眠りに入る。
「……ミさん……クミ……て下さい。そろそろベルチェスティア王国に到着します」
ヘンリーが巧の体を揺すって起こしていた。
目を覚まし呆けていたが、徐々に意識が覚醒する。
「ああ、結構寝てしまってたのか悪い」
「いえ、問題ありません。幸い魔物も襲って来きませんでした。それにもうベルチェスティア王国間近です」
時刻は夜中の二十時。
巧は馬車から外を覗くと、遠目だが外側であろう城門と城壁が確認する。
そして徐々に近づいて行き、門前まで到着。
「門でけえな」
ルビアリタの街よりも門は大きく広い、魔物を浸入させない為か門兵以外にも魔法使いらしき人物が数名存在し、厳重であった。
ルイスが手続きをし、馬車の中を検査し終えると門を通り、ベルチェスティア城下町へ入る。
「すげえ」
巧はルビアリタの街以上に活気付いていた城下町を見て歓喜の声を上げた。
遂にベルチェスティアの城下町に入る事ができました。
何だか長かったきがするなあ。
正直兵士とメイド連れて行く設定いらなかったなと書き終わりに思ってしまった。