ルイスと回想その1
今年はこれでラストです。
次話はまた来年にて
「ルイスさん」
「タクミ様、どうしましたか?」
「そこに倒れている暗殺者の男を追いかけていたら、悲鳴が聞こえ今さっきここに着いたので」
巧は倒れている黒装束の男を指さした。
ルイスは眉を少し上げる。
「この方ですか、私を発見したと思いきや、突如苦しみ出し倒れました。どうやら自分の毒によって倒れてしまったかもしれませんね」
男は俯せに倒れ、白目を向き、布で巻かれているが口は開いているのがわかる。
手には剣士から剣を奪ったのか、剣を持っていたが、状態からして絶命しているのがわかった。
「そうですか……そう言えばこの館内にいたメイド達はどうなりましたか? まさか、こいつらに襲われたんじゃ」
「落ち着いて下さいタクミ様、メイド達は無事です。ヘルデウス様の指示によって私がメイド達全員を地下へと避難させました。暗殺者が襲いにきたのは知っていますが、このような惨状になっているのはメイド達は知りません。それよりも、ウルラヌス様とヘルデウス様はご無事でしょうか?」
巧は内心焦る。どう言えばいいのかわからないのだ。
仕える者を巧の不注意の所為で亡くならしたのも同然であるのだから。
「……ヘルデウス様はご無事です。リウスが護衛についていましたから暗殺者を撃退する事ができました。今は外に出て兵士長やシロと一緒にヘルデウス様を護衛しています」
「そうですか安心しました。それでウルラヌス様は」
「…………ウルラヌス様は暗殺者が一人で部屋に入って来た時は、そいつを外に連れ出し離れさす事には成功しました……。しかし、もう一人の暗殺者に気づかず、その暗殺者の手によって殺されました」
巧は声のトーンが下がり、顔を俯き、申し訳なさそうな顔をする。
そんなルイスは巧の肩に手を置き顔を上げさせる。
「タクミ様、確かに護衛対象であるウルラヌス様を守る事ができなかったでしょう。しかし、あなたはあなたの仕事をしました。確かに今回、ハウリック家の主であるウルラヌス様は暗殺者の手によって殺されましたが、まだヘルデウス様がおります。これからは私達はヘルデウス様を主として支え仕えたいと思いますゆえ」
「ありがとうございますルイスさん……この暗殺者の事は死んだと言う事でヘルデウス様に伝えます」
「そうして下さい。そう言えばタクミ様、気絶している暗殺者二人は何か言っていましたか?」
「いえ、特には、ただ一人は対魔の水晶を手に入れたかったとかぐらいしか」
「なるほど、対魔の水晶は相手からしても欲しい一品ですからね」
「そうですね、そういやルイスさんはこれからどうしますか?」
「私は一度メイド達にこの事を話してきますので、先にタクミ様はお戻り下さい」
「わかりました、それでは戻ります」
巧はヘルデウスがいる庭へと向かう。
巧の姿が消え、その場に残るルイスは倒れ死んでいる暗殺者を見ると……
「苦労した甲斐がありましたよ。あなた達はよく仕事をしてくれました。これでヘルデウス様が伯爵家の当主になる事ができたのは喜ばしい事です。しかしウルラヌス様だけではなく、ヘルデウス様をも狙うとはあのお方はちゃんと説明してないようですね。それにしても巧様方がここまで頑張れるとは嬉しい誤算でした」
ルイスは顎を撫で、顔は喜んでいた。
「しかし、まだ生きている方がいるとは……。私が仕組んだ事がヘルデウス様にバレるとまずいですね……」
そう、これは全てヘルデウスを当主としてのし上がらせるため、ルイスが仕組んでいたのであった。
――――――巧達が依頼を受ける数週間前。
ルイスはルビアリタの街から離れた、アレスティア王国の城下町にある治安が良くない貧困街と言われている場所を歩いていた。服装は見せないようにローブで体を隠して、顔はフードを被り覆って正面からでも見えなくさせている。
「そこのフードを被っている奴、待ちな」
声をかけてきたのは腰に剣を携えている長身の男、その後ろには数人の男を引き連れていた。
「ここを通りたければ通行料を払うんだな」
「ふむ、それは困りましたね。今持っているお金は別に使うものなので」
「ほう、なら俺達がその金を預かってやろう」
男は笑うと他の奴も一緒に笑う。
「あなた達にですか? その冗談はあまり好きじゃありませんね」
「なら、金を渡さねえと? 痛い目を見なきゃわからないようだな。おい!」
「へへ、悪いんだがそのローブに隠している物、全ていただこうか」
男の後ろにいる男達は前に出てルイスを襲う。だが――――
「ぐへ!」
ルイスは襲ってきた男の腕を掴み引っ張ると顔を殴り気絶させた。
「貴様!」
別の男はルイスに掴みかかろうとしたが、ルイスは避け、男に一発顔面に叩き込むんだあと、残り全員を気絶させる。
「相手との実力差も判断できないとは……よく私を襲おうとしましたね。それで、あなたもこの人達に指示だけではなく戦いますかな?」
長身の男は剣をいつの間にか持って、剣をルイスに向けていた。
「くそ!」
剣をルイスに振りかぶるが、ルイスはその剣を弾くと男の鳩尾に手を添える。
「【衝手】」
長身の男は体に痺れが走るように全身を震わせたのちに口から泡を吹き、白目を向け倒れた。絶命はしていないが気絶はしていた。
ルイスは建物の陰に隠れている人物に問いかける。
「さて、そこで先程から見ている御仁そろそろ出てきていただけますかな?」
建物の陰から現れたのは、茶色のショートカット、顔は三十代半ば、目つきは鋭く、服装は上下とも黒の軽装だが太ももには何本か短剣やナイフが装着している。
男はルイスを警戒していた。
「やはり気づいたか、貴様何者だ?」
「私はただの旅人ですよ。ただこちらにリーダーの『静襲』のイデル様がいらっしゃると聞いて」
「は、ただの旅人がこんな所くるかよ。それに静襲のイデルなんて知らねえな」
男は警戒し、すぐ動けるようにしているのか、体を少し低くなっていた。
「……嘘は言わないで下さいますか? 私は静襲のイデル様とお話をしたくここに来ましたので……それともあなた様も私の相手なさいますか?」
ルイスは男に向かって殺気を放つ。
男は少しばかり眉を寄せ、相手をするのを無理だと判断し降参する。
「参った参った降参だ。こんな奴流石に相手にできない、まあ気づいてるとは思うが、俺があんたが求めていたイデルだ」
ルイスは殺気を解除するとイデルも警戒を解く。
「それで要件は何だ」
「暗殺者を数人ばかり雇いたいのですが」
「ほう、それでどんな事をするんだ」
「流石に貧困街とはいえ、外では話すと誰かに聞かれる可能性があり、内密な話なのでどこか建物内で話がしたいですね」
「わかった、すぐそこに俺達の隠れ家の一つがあるから、そこでいいか?」
「ええ、構いませんよ」
ルイスはイデルに連れられ建物の中に入る。
その建物内は仲間と思われる人達がいたが、イデルは椅子に座るとルイスにも座るよう勧めた。
「まずそちらの人達は席を外してほしいのですが」
「こいつらは俺の仕事仲間であり信頼できる奴等なんだがそれでもだめなのか?」
「そうですね、これから話す内容がここの全員に聞かせるわけにはいかないので」
周りはざわつくがイデルが手を上げると、ピタッと静かになった。
どれだけイデルが信頼され、上に立ち統率をとれているのかがわかる。
「……わかった、それじゃ俺と俺が認めている実力者はここに残していいか?」
「それぐらいなら許可しましょう。ただし、多ければあなただけ話を聞いてもらいます」
イデルは頷くと一人の男を残し、そいつ以外は全員席を外させた。
残った男は片目に傷がついており、動きは足音も立てず静かに近づき、その動きから実力者であるのはわかる。イデルの近くに来るとルイスを警戒するよう見ていたが、イデルの手前襲わなかったというのもあるだろう。
「話を聞くが、まず何の依頼をするんだ?」
「この城下町に住んでいる、伯爵であるウルラヌスの暗殺依頼でございます」
イデルは眉を少し動かす。
「伯爵殺しの依頼とはまた物騒だな。それに俺達が殺さなくてもお前が殺せばいいじゃねえか? なんでわざわざこんな手間のかかることするんだ?」
「私はその間、少々やる事がございまして、資金を提供すればどのような依頼だろうがしてくれると考えまして」
「…………もし断ったら?」
「その時はこの話を聞いたあなた方を今すぐ殺し、他を探す事にします」
男はルイスを殺そうと動こうとするが、それをイデルは手を上げ静止させた。
「…………わかった、その依頼請け負う代わりにそのフードを取って顔を見せてほしいんだ。商談相手に顔を見せないのは失礼だと思わないか?」
「……わかりました、脱ぎましょう」
フードに手をかけ外すと、イデルは驚く。
「まさかこんな爺さんに負けるとはな……っと、この爺さんの相手をするなよ? お前より実力相当上だから死ぬぞ」
それでも男は体勢を低くして戦闘態勢を行おうとするが、イデルは男の喉元に指を突き刺そうとして止める。
「次勝手に動くと、お前であろうが殺す」
イデルは男を睨み付け殺気を放つと、男は額から一滴の汗を流し戦闘態勢を解除した。イデルは指を喉元から放し殺気を解除した。
「……すまない、仲間が非礼な行動をとろうとしたのは詫びよう」
「ええ、構いませんよ。最近の若者は人を見た目で判断しようとするのが困りますね」
「……それよりも、依頼をするなら金のほうはあるのか? ないなら話にもならないんだが」
「お金のほうは四十枚ですが前金の二十枚がこちらにあります」
ルイスはテーブルの上に金が入っている袋を乗せる。
袋はテーブルの上に置かれるとジャラっと音を立て、それがどれだけ興味を惹かれるのか十分な魅了があった。
「残りの二十枚は成功したのち、再び訪れたときに渡しましょう。袋の確認をするならどうぞして下さい」
「ああ……確認させてもらうよ」
袋の中身の確認が終わり、イデルは溜息をつく。
「それじゃ実行はいつすればいいんだ?」
「そうですね、近日中にルビアリタの街へと移動し。その街の中、もう少し詳しく言えばそこのハウリック邸内で行動を開始して下さい」
「この街や移動の最中じゃだめなのか?」
「はい、この街や移動の最中にはウルラヌスは護衛がついているので、あなた達は逆に殺されてしまいますよ」
「ほお、俺達も何気に自信あるんだがな」
「ええ、それは承知しております。だけど行動に移した所でその護衛は『冷酷』のルイスが相手を致しますので」
「冷酷のルイス……だと? ならルビアリタの街で襲っても無駄じゃねえか」
「いえ、その点は大丈夫です。あなた達には襲いません、私がそのルイスですから」
イデルは驚いた顔をするが、納得したようにルイスの顔を見る。
「道理で、雰囲気からしても強者と思ったが、あんたがルイスだったのか」
「ご理解していただいて何よりです」
「わかったが、何でルビアリタの街なのかを知りたい」
「いいでしょう。あの街にはウルラヌスのご息子であるヘルデウス様がいるので、ウルラヌスが死んだ所をヘルデウス様に見させ、伯爵として継承し、そして自覚させる事が狙いです」
「理解はしたが、めんどくさいことするんだな」
「ええ、だけどこれがヘルデウス様の為になりますからね」
「あんた……いや、なんでもない。それよりもルビアリタに入るにはどうするんだ? あの街に入るにしてもこの街同様に警備があるはずだろう。突破は強行突破は可能だが、伯爵が街の中に入ると更に厳重な警備になって冒険者達も来るだろうし、近づけなくなるぜ?」
「それには考えがあります。こちらの物を身に着けていただければ問題なく街の中に浸入することができます」
ルイスは机の上に置くと一つの指輪を出す。
イデルは指輪を拾い上げ確認すると、驚きの表情になる。
「これってまさか……【罪隠の指輪】じゃねえか!」
「よくご存じで、これを入手するのに非常に苦労しましたよ。これで街の警備を誤魔化す事はできますが、使い捨てにはなります。だけど街の行き帰りぐらいなら可能になります」
「あんた本気なのがわかった、こちらも人数を選定しとく。俺はこの街での仕事があるから行けないが、街に行かせるのは、こいつ含めて四人ほどの少数精鋭になるだろう」
「ありがとうございます。それでは残り二つも渡しておきましょう」
ルイスはイデルに罪隠の指輪を渡すと立ち上がる。
「それではそちらの方、バレるのはまずいでしょう。ルビアリタの街に付き次第、街の商人に洗脳魔法のかかった腕輪を装着。その商人にウルラヌスに商談をすると持ちかけて、こちらの対魔の水晶を差し出すよう命令して下さい。そうしたらあなた達がルビアリタの街に来た合図になります」
ルイスは男に対魔の水晶を渡す。
男は受け取るとゴクリと喉を鳴らし笑う。
「対魔の水晶とは……。へへ、ウルラヌスを殺したあと、これを奪っても文句はねえよな」
「そうですね、それはウルラヌスを殺せたらあなた達に差し上げましょう」
ルイスはそう言い残し建物内から去る。
「ボス、あの冷酷のルイスってどう言った異名なんですか?」
男はイデルに対して質問する。
「知り合いから聞いただけだが。昔、この大陸で一つの戦争があったんだが、その戦争での敵を捕らえて捕虜にして情報を吐かせたそうだ」
「だけどそれだけじゃ今の戦争でも同じじゃ?」
「そうだな、だがやり方がひどいらしいんだ。吐かせる奴以外を肉体的にも精神的にも拷問し、その光景を見せつけ、相手の精神を折り、情報を聞き出すだけ聞き出して最終的には虐殺する。そんな手段を択ばない所から”冷酷”と呼ばれるようになったそうだ」
「し、しかしそれは噂では……」
「お前はあの野郎の雰囲気をわからなかったのか? 下手に手を出したら俺等は殺されてたぞ」
イデルは目つきを鋭くし男を睨むと男は黙る。
「現役を退いているとは聞いていたが、今はハウリック家に仕えてるとはな……」
イデルは外に視線を向けて呟いた。
回想が続くかはわかりませんが多分続く可能性はあります。
人数勘違いしていたので訂正しました。