暗殺者と決着
目の前にいる黒装束の男に対して巧は睨んでいる。
「どうした餓鬼、まさか人が目の前で死ぬのが初めてって顔してるな」
そんな男の言葉に反応する巧、その反応を知ってか笑う黒装束の男。
「くくく、悪いな、まさか人が死んだ所を見た事ない奴に会うなんてな」
その黒装束の男の言葉に巧は喉を鳴らす。
まさかその言葉が図星として当てられるなんてと。
「ちが……」
巧の口から動揺からか言葉が出ない、次にでる言葉が思い浮かばないのだ。
「はははは、警護もできない、人が死んだだけで動揺して怖気づくとか」
「それ以上、私のタクミを馬鹿にすると殺すわよ? そんな言葉でタクミが取り乱すとでも? そこまで柔じゃないし弱くもないの」
巧の前にシロが立ち塞がり剣を抜くと、その目は少し開け殺気を放って怒っていた。相手を完全に殺す気であった。
(シロ……)
殺気に当てられたのか黒装束の男の雰囲気が変わる。
「……こんな化物がいるなんてな……チッ!」
黒装束の男は近くにいた仲間の女をシロの前に放り投げる。
「え?」
女は放り投げられる事が予想外だったのか、シロの殺気に当てられたのか体が硬直していた。
シロはそのまま剣で女を斬る為に動こうとしたとき……
「水ビーム」
水ビームで女に当て吹き飛ばす。
男は女を投げたときに後ろに隠れ、前に出そうになっていたが、巧の水ビームによって出るに出られなくなっていた。
「悪かったよシロ、もう大丈夫だ」
巧は頬を叩き、シロの前に出て男と対峙する。
弱腰だったその表情は先程までと打って変わって、相手を馬鹿にするかのような表情になっていた。
「人を殺した事もない餓鬼が俺を倒そうとするのか?」
「またそれか……まあ確かに俺は人を殺したこともないが、お前ぐらいなら倒せる自信はあるかもな」
「さっきまで怯えていた奴が、ほざけ」
「ああ、確かに俺はさっきまで怯えていたかもな。でもさっきまではな、お前が俺等を倒せるって自信あるなら、そっちから早く来いよ。それとも今度はお前が怖気づいたのか?」
巧は相手を馬鹿にするよう挑発をするが男は乗ってこない。
相手も巧の先ほどの無詠唱魔法の発動により威力も知れたのだ。
知らなければ巧じゃなくシロに警戒して突っ込んできてただろうと予想される。
「うわー本当に怖気づいてやがる、シロ見たか? こいつ怖気づけやがった。悪かった悪かった、だってよここまでお前を馬鹿にしてるのに何もしてこない小心者だしなー」
男は巧の挑発に乗るように目元がピクついているのがわかるが、巧は続ける。
「しっかし暗殺者だっけ? 暗殺するにしてもここまで堂々と見せるとかプロとして失格だわ。隠れて暗殺しろよ。自称、暗殺者」
「さっきから言いたい放題言いやがって、調子乗ってんじゃねんぞこの餓鬼!」
巧の挑発に遂に男はキレた。
「へー、なら早く来いよ。来ないってなら弱い証拠だわ」
その挑発を受けてか男は手に短剣を持つ。
「この糞餓鬼があああ! 【風脚】【風体】」
男の体に風が纏うように集まり、そして飛び出した。
距離を詰めるように巧に近寄ろう迫り、短剣を持っている手を振ろうとしたが、それをシロは阻止し男を斬ろうとしたが避けられる。
「チッ!」
「惜しいわね、折角タクミが釣らせたのにごめんなさい」
「いいよシロ。シロがいなかったら今ので危なかったからさ、助かったよ」
「いいのよ、タクミが危険なら私が助けるから」
「お前らこっちむ」
その時であった。
先ほどリウスが居ただろう部屋から突如、光の閃光と共に轟音が響き渡り、部屋の窓が全て割れた。
巧とシロ、そして男はその光と音が鳴った方向を一斉に向く。
「何だ!」
男は驚いていた様子だったが巧とシロは口元が笑う。
リウスとの特訓で編み出した魔法の一つが発動、その威力や破壊力を知っている巧とシロ。
そしてリウスは勝利したのだろうと。
「リウスやったのね」
「そうだな」
巧とシロは男に向きなおす。
「さてどうする? あんたのお仲間さんは今の出やられただろうし、大人しくあんたも投降してほしい」
「ふ、ふざけるなよ、誰が投降なんてするか!」
男は懐に隠していた短剣を取り出し魔法を唱える。
「【器に宿るは轟く雷鳴の如く――――雷投】」
「邪魔よ、光斬」
男の投げた短剣は強力な電撃が帯びていたが、シロの光斬によって短剣は斬られる。
「な……詠唱なしの攻撃に負けるなんて!」
シロは男に向かって走り出すと、その足の速さは尋常ではなく、男は驚いた。
剣で斬りかかろうとするが、男は抵抗しようともう別に持っていた短剣で剣を弾こうとする。だがシロはその短剣を斬り伏せ、短剣は真っ二つに斬られた。
「この獣人がこんな力があるなんて!」
「あなたが弱いだけよ、タクミを散々馬鹿にして…………死んで」
「シロ、やめろ!」
巧が呼び止めた瞬間、男の首筋に剣の刃があたっていたが、首の皮1枚切れて少し血がでていた。
あと少し呼び止めるのが遅ければ男は剣によって、確実に胴体から首が斬り離される所だったのだ。
シロが剣を男の首から離すと男は持っていた短剣を手放し座り込む。
巧はシロの近くに行くと男は顔が下に向いていて、口はだらしなく開き舌が出ており気絶していると確認できた。
シロのほうを向くと、顔は落ち込んだ表情になって、尻尾も垂れ下がっていた。
感情に任せて、危うく約束を破ろうとしたのだ。巧に怒られるかもしれないと思っている。
「タクミ……」
その顔は今までのように妖艶で色っぽい大人の顔ではなく、少し震えて親に怒らるのをわかっている少女のような顔をしていた。
そんなシロの顔を見て巧は思わす笑う。シロは巧が急に笑い出して不思議な顔をする。
「ごめんごめん、感情に任せてしまって危うく斬りそうになったが、まあこいつは生きてるし大丈夫さ。けど、今回もシロに助けられたよ。シロがいなかったらどうなっていたかわかんなかったしさ、ありがとう」
巧はシロの頭を撫でると、シロは嬉しそうな顔をして尻尾も喜びを表してるのか振っていた。
「タクミ! シロさん!」
リウス達が巧とシロの元へと向かってきていた。
シロが強くて相手が小物感たっぷりでしたね。
ちなみにシロがいなければ巧一人だとどうなっていたかわかりません。
下手したらあのまま弱い所を突きつけられてて、そこを狙われ死んでる可能性も十分ありました。